第47話『追い詰める者と追い詰められる者 #1』
村の人間達が慌ただしく村の中を駆け回っている。
カノアも孤児院の中やその周辺に手掛かりは無いかと右往左往していた。
「このままでは襲撃に間に合わなくなる。まさかこれも犯人の仕業か?」
カノアが孤児院の前で佇んでいると、リガスが孤児院の方へとやってきた。
「カノア君、孤児院の中に何か手掛かりはあったかい?」
「いえ、これといったものは見つかっていません。孤児院の子供に聞いてもお昼頃からずっと見ていないと」
「困ったねぇ。一体どこに行ったのやら。もう少しで空も暗くなってくるし、もし森の方に行っていたらまずいな。エルネストたちにも相談して、森の方まで探索範囲を広げるか相談してくるよ」
そう言いながらリガスは元来た道を小走りで戻って行った。
「今回のループもダメなのか……」
一人になったカノアは弱音を零した。
リガスが去った方に目をやると、入れ替わるようにしてママが歩いてきたのが見えた。
「カノアもルカを探しているところですか? さっき村の入り口で村長さんからルカが居なくなったと聞きましたが……」
「ええ。ティアから留守を任されていましたし、黙って何処かに行くとも思えず……。何か手掛かりがないかとこの辺りを探していたところです。俺ももう少し他のところを探しに行ってきます」
カノアは迫りくる襲撃と既に危険に晒されているかもしれないルカのことで頭がいっぱいになっており、自らの顔に多量の汗が伝っていることにも気付いていなかった。
「カノア。ルカのことを心配してくれるのはありがたいですが、あんまり無理はしないでくださいね? 昨日もあんなことがあったんだから、本当ならカノアもまだ寝てなきゃダメなんですよ?」
「いえ、これくらいなら……。それに昨日魔物に襲われた怪我はママのお陰で良くなっていますから」
顔の汗を袖で拭いながらカノアはその場を後にしようとする。
「魔物に襲われた? それは一昨日の話ですよね? 私が言ってるのは――」
その言葉にカノアは思わず足を止める。
「一昨日? ……まさか、いや、だとしたら――」
カノアはその言葉に何かを察し、自らの疑問をママに投げかけた。
◆◇◆◇◆◇◆
「くそ、間に合え! どうしてもっと早く気が付かなかったんだ!」
カノアは村の入り口へと一目散に走っていた。それと同時に頭の中では先ほどのママとの会話が反芻していた。
『俺が辺境伯の屋敷の帰りに魔物に襲われてケガしたのは一昨日で間違いないですか?』
『えぇ』
『じゃあ昨日ってのは』
『昨日は平原の木の下で倒れていたじゃないですか。まだ体が良くないのに黒猫さんと追いかけっこなんてするからですよ? 帰りが遅いからお迎えに行ったら倒れていて、ママびっくりしたんですから』
カノアは額から伝ってくる汗を袖で何度も拭った。
少しばかり目に汗が入り、ズキっと痛む。だが、そんな些細なことに気を奪われることなく一心不乱に走り続ける。
「つまりあの平原の木の下で襲われた日。あの時俺は何者かに襲われて死んだと思っていた。だが、実際には死んでいなかったんだ。だからあの後はループはせず、日付が進んでいた。つまり、俺がループしていた今日は十五日じゃない。十六日だったんだ!」
自らの見落としていた事実にカノアは憤りすら覚えていた。
「思い出せ、この幾度となく繰り返した今日を! 必ず答えに繋がる道標があるはずなんだ!」
最初の十六日の記憶は、初めて旧噴水広場へと向かった日だったことを思い出す。思い返してみれば村の中で初めて魔獣に出くわしたのもその日だった。
旧噴水広場へと向かうまでに何があったか、旧噴水広場でティアと出会ってから何を話したか。
カノアは細い糸を手繰り寄せるように記憶を編んでいく。
「……そうか、そういうことか。今日が十六日なら――。間違いない、あいつだ! 待ってろ、今からお前を追い詰めてやる!」
カノアは進路を変えることなく、村の入り口へと全力で駆けていった。
◆◇◆◇◆◇◆
カノアが村の中を走っていると、いつもは村の入り口で出くわしていた商人と鉢合わせになった。
「おお、カノア君。何か手掛かりが見つかったかい?」
どうやら商人もルカ探しを手伝って村の中を駆け回っていたらしい。
互いに息を切らしながら情報を交わす。
「……ええ、先ほど少し気になることに気が付きまして」
「それは本当かい? それは一体――」
「その前に商人さん。少し伺っても良いですか?」
「? ああ、いいとも。何かな?」
「商人さん。今日が何日か教えてもらえますか?」
「どうしたんだい急に? 今日は十六日だよ? カレンダーを見ていないのかい?」
想像していなかった質問に、商人はその意図を掴みかねている様子だ。
「もう一つお聞きしますが、商人さんは昨日、つまり十五日に俺と村の入口で会っていますよね?」
「そうだけど、それがどうしたんだい?」
「その時、二、三日は王都に泊まりになると言っていませんでしたか?」
何かを問い詰めるような鬼気迫るカノアの様子に、辺りの空気が張り詰めていくような気がした。
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