閑話 曽川楓1


 「完全に終わっちゃったなぁ」


 卒業旅行から自宅に帰って来て、荷解きしながらしみじみと思う。楽しい高校生活だったなぁ。


 谷君や中村さん、新田君っていう得難い親友が出来て本当に良かった。みんなのお陰で本当に楽しい高校生活を送れた。

 それだけに喪失感がすごい。胸にポッカリと穴が空いた感じだ。



 思えば僕は運が良かったんだと思う。後々学校で学年問わず人気者になる谷君と、一年の時に同じクラスで、出席番号の都合で席が前後だった。それだけだ。


 それで谷君から話しかけてもらって、気付けば学校では一緒に行動するようになった。

 そこに谷君の彼女の中村さんが加わり、少しして新田君とも話すようになって。


 運良く三年間一緒のクラスになって仲良くしてもらった。谷君と中村さんはびっくりするほど顔が整ってて、最初は気後れしたけど、少しすると気にならなくなった。


 気にならないぐらい一緒に居て楽しかったんだ。


 「谷君と中村さん、一年の時と三年の時で更に顔が整って成長してるように見えるね」


 荷解きが終わってリビングで高校三年間の思い出を振り返ろうと写真を見てると、谷君達はもう顔が整ってるという言葉だけでは言い表せないぐらいの美男美女に成長していっていた。


 ずっと一緒に居ると分からなかったけど、こうして写真を見比べてみると一目瞭然。垢抜けたというか、そんなんじゃない。

 もう顔面美の暴力だ。こんな人類が本当に地球上に存在していいのか。そう思ってしまう。


 「そういえば学校では色々あだ名がついてたね」


 『神が本気を出して描いた作品』だとか。

 神様は二人を利き腕で描いて、他の人類を逆の腕で描いてるんじゃないかって、本気で言われてた。


 僕は見た目が女の子っぽい事もあって、特定の層にはモテてた方だと思うんだけど、二人には敵わない。


 それに二人が彼氏彼女だと分かってからは、とてもじゃないけど割り込める感じではなかったんだろう。恋愛対象というより、崇拝の対象になってる感じだった。


 あの二人の仲に突っ込んで行けるのは相当な馬鹿だろう。新田君は知らずに突っ込んだみたいだけど。だから新田君は一部では勇者と呼ばれている。


 「お、楓。帰ってたのか」


 「うん。ただいま。お土産はお母さんに渡してあるから」


 「おお。ありがとうな」


 卒業アルバムを見たり、スマホで撮った写真を見て懐かしんでると、お父さんが仕事から帰って来た。


 お父さんは今、谷君達の家を東京に建てている。かなりお金を使ったらしく、お父さん達も失敗は出来ないと細心の注意を払って、作業を進めてるみたいだ。


 「いつ頃完成しそうなの?」


 「予定では夏前には完成だ。わしらもこんな豪邸を手掛ける事は滅多にないからな。良い経験になっておる」


 父さんはお土産の堂島ロールを食べながら嬉しそうに言う。

 そう。谷君達の家は本当に凄いんだ。土地代込みとはいえ、総額10億円以上の大豪邸。


 地下三階地上三階の四人で住むには広すぎる家が建つ予定だ。高校生のうちからそんな大金を持ってる事も驚きだしね。

 投資が上手くいったって言ってたけど、それにしても出来過ぎだ。それに。


 (あの二人ってルトゥールなんじゃないかなぁ)


 確信はない。でも完璧超人のあの二人ならそうなんじゃないかって思ってしまう。

 今年で大学生というのも、本当ならあの二人と同じだし、なんとなく声も似ている様な気がする。


 そしてあの二人は頑なに友達にカラオケに誘われても行かなかった。

 みんなはあの二人でも苦手な事があるんだなって言ってたけど、実はバレるのを恐れてたんじゃないか。


 顔出しをしないのもあの美貌なら納得だ。

 ただでさえ、あの顔なのに歌まで上手いとなると間違いなく世間は放っておかない。

 すぐさま特定されて騒がしくなるだろう。


 成績は東大に現役で受かるぐらい優秀、スポーツも帰宅部だけど万能、東京に大豪邸を建てられる程お金持ちで、歌がうますぎて、神様渾身の力作の顔面美。


 (ちょっと盛りすぎじゃないかな)


 あくまで僕の予想にしか過ぎないけどね。

 でも二人がルトゥールじゃなくても、設定を盛りすぎなんじゃないかと思う。

 一体神様はどれだけ気合いを入れたんだ。


 二人がルトゥールだろうが、そうじゃなかろうが、僕は大親友だと思っている。

 大学が別々になって、会う機会も減るだろうけど、僕はすぐに東京に引っ越す。


 同じ東京に居るなら、頻繁にとはいかないだろうけど会えるだろう。

 大学生になっても大人になっても、ずっと付き合いを続けられると良いな。

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