#7 マジだ、マジで「ウソ」って書いてある
まあ、なんかビビってるサリアさんと共に――
「ビビってない!」
サリアさんと共に宿へと戻ってきますと、
「あら、あなた! 「サリア・クゥ・ド・ヴァン」先生じゃないですか?」
「えっ……あなたは?」
サリアさんは、ゴージャスなお姉さんに声を掛けられました。
「知り合いです?」
「いや、知らん」
なんじゃそりゃ。
「あらあら、少しお時間よろしくて?」
と、口元を隠しながらお姉さんは笑い、僕らを手招きしました。
―――
で、僕らは彼女たちの部屋に通されて、なぜか「コタツ」という東方の国の暖房魔導器具に入って、しかもそれを挟んで話をしていました。……な、なぜこんな事に!? いや、それよりも、このコタツという物、噂には聞いていましたが温かいですね。東方の国ではメジャーな器具だそうで、冬に家族みんなで入るものだと聞いたことがあります。……冷えた体を温めてくれるには十分ですね。眠くなってきます。
「いやぁ、こんなところでかの有名なサリア先生にお会いできるなんて、大変感激ですわぁ~」
「……いやぁ、それほどの……者です」
褒められてサリアさんは照れながら笑っていました。
「
「クリス・テールフォー……って、あ! あれですよね、「朝霧荘殺人事件」とか、「悪魔の誘い」とかの推理小説で有名な、売れっ子のベストセラー作家さん!」
僕がそう指を差すと、テールフォー先生はにこやかに笑いました。
「私なんて、売れてせいぜいが500万ですわ。でも、ご愛読ありがとうございますわ。……それにしても、先生の御本、読ませていただきましたわ~。こちらの、「風魔法のすゝめ」字が大きくて読みやすい素敵な御本ですわねぇ」
「ハハハハ、せ、先生には敵いませんですよぉ。私なんて、その……5000フフフン……」
サリアさんは誤魔化しながら俯きます。
「ああ、そうだ。私の最新作、是非読んでみてくださいませ……ニッカ」
「は、はい!」
ニッカさんと呼ばれた黒い人は急いで自分のカバンを手に取り、中から新品の本を取り出してテールフォー先生に渡します。とてもかわいらしい笑顔ですね。
「ど、どうぞ先生!」
「……」
すると、テールフォー先生は本を奪い取ると、ニッカさんを睨みます。
「……お前、私よりかわいくないか?」
「……すみません……」
すると、こちらに振り向いた先生は、にこやかな笑顔で、本をサリアさんに手渡します。
「こちらが、34冊目になりますかしら」
「頂戴いたします……「風魔の列車殺人」……。あ、これ――」
「そちらも、この前10万部突破いたしましたけれど、その程度ですわぁ」
「ジョワ――」
「キャンセル!」
サリアさんがジョワりかけましたので、僕は彼女の両肩を掴みました。
そんな僕らをにこやかな笑顔を崩さず、先生が続けます。
「実は、私もこのお宿に興味がありまして、来ましたのよ。毎年、1月11日になると人が死ぬ……。サリア先生も、このお宿に伝わる伝説と、その謎を解決しにこちらへいらしたんですのよね?」
先生が両手を合わせ、ニコニコ笑いました。
「先生と私……どちらが先に謎を解くか。面白い勝負になりそうですわぁ」
「あ、ああ……そ、そうですね。ありがとうございます、こちら、是非読ませていただきますね」
サリアさんは僕に本を手渡すと、先生が突如驚いた顔を見せます。
「あら、サリア先生……」
「え、なんですか?」
突然先生がサリアさんの手を引っ張り、自分の掌とあわせていました。
「かわいらしい手ですわねぇ。やはりエルフというのは、先生みたいな方が多いのかしら?」
「……わ、私はまだ若造なものですから。でも、毎日牛乳飲んでますよ。でっかくなぁれでっかくなぁれって……」
「あらあら……この旅館にはとんでもない秘密が隠されていますのよ。先生もお気づきかと思いますけれど、ね」
「あ、はは……と、当然ですよ」
と、サリアさんもまんざらでもない顔で笑っています。
「先生……とても面白い方ですわねぇ」
「え?」
「嘘をつくと顔に出るんですもの。今も顔に出ていますわ、「ウソ」って」
「……え?」
「ね、ニッカ?」
「ああ、はい。出てますね」
ニッカさんが頷くと、先生がなぜか眉をひそめます。
「……お前、私よりかわいくないか?」
「……すみません」
ニッカさんがそう頭を下げながら謝ると、不機嫌そうに鼻と口元をピクピク動かす先生。……なんだか仲が悪そうですねぇ。
「……後でな」
「……」
ニッカさんは歯を見せて笑っていました。尚も不快そうに彼女を見つめる先生。しかし、すぐに笑顔でサリアさんに振り向きます。
「一度鏡を見てみた方がいいですわねぇ――はっ!?」
「!?」
先生はサリアさんの顔を見て驚き、そして、自分の額に手を当てました。釣られてサリアさんも額に手を当てます。
「ちゃんと手で隠して! 誰かに見られるとマズいですわ!」
「……は、はい!」
すると、サリアさんはどこかへ走り去っていきます。
「あ、ちょっとサリアさん!」
僕はサリアさんを追いますが、サリアさんは廊下の鏡を見て呆然としていました。
「……マジだ、マジで「ウソ」って書いてある……」
サリアさんは自分の額を見て、ショックを受けているようです。いや、こんな古典的な奴に引っかかるサリアさんもサリアさんですけど……。
「ば、バカな……バカな……」
サリアさんは僕に飛び掛かりました。
「ねえ、私、嘘をつくと必ずおでこに「ウソ」って出てくるの!?」
「……あぁ、そうですね。出てますね」
「な、なんで教えてくれなかったのよ!?」
「いや、知りませんよ。サリアさんとは今日あったばっかですし」
「かぁーくぅー……」
なんかサリアさんはショックを受けているようですが、とりあえずサリアさんを引っ張って部屋に戻る事にしました。
勇者テラの魔王討伐の旅、継続中 燐音 @Lion_cradle
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