#7 マジだ、マジで「ウソ」って書いてある

 まあ、なんかビビってるサリアさんと共に――


「ビビってない!」


 サリアさんと共に宿へと戻ってきますと、Wダブルお姉さんが通りがかりました。金髪のくるくるした髪型と、ド派手なふわふわコートを着ているゴージャスな見た目のお姉さんと、黒髪と落ち着いた黒いワンピースを着こんだ猫耳猫しっぽの獣人の毛深いお姉さん。対照的な二人ですね。と思いながら、玄関で靴を脱いでいますと。


「あら、あなた! 「サリア・クゥ・ド・ヴァン」先生じゃないですか?」

「えっ……あなたは?」


 サリアさんは、ゴージャスなお姉さんに声を掛けられました。


「知り合いです?」

「いや、知らん」


 なんじゃそりゃ。


「あらあら、少しお時間よろしくて?」


 と、口元を隠しながらお姉さんは笑い、僕らを手招きしました。






―――






 で、僕らは彼女たちの部屋に通されて、なぜか「コタツ」という東方の国の暖房魔導器具に入って、しかもそれを挟んで話をしていました。……な、なぜこんな事に!? いや、それよりも、このコタツという物、噂には聞いていましたが温かいですね。東方の国ではメジャーな器具だそうで、冬に家族みんなで入るものだと聞いたことがあります。……冷えた体を温めてくれるには十分ですね。眠くなってきます。


「いやぁ、こんなところでかの有名なサリア先生にお会いできるなんて、大変感激ですわぁ~」

「……いやぁ、それほどの……者です」


 褒められてサリアさんは照れながら笑っていました。


わたくし、「」と申しますの」

……って、あ! あれですよね、「朝霧荘殺人事件」とか、「悪魔の誘い」とかの推理小説で有名な、売れっ子のベストセラー作家さん!」


 僕がそう指を差すと、テールフォー先生はにこやかに笑いました。


「私なんて、売れてせいぜいが500ですわ。でも、ご愛読ありがとうございますわ。……それにしても、先生の御本、読ませていただきましたわ~。こちらの、「風魔法のすゝめ」字が大きくて読みやすい素敵な御本ですわねぇ」

「ハハハハ、せ、先生には敵いませんですよぉ。私なんて、その……5000フフフン……」


 サリアさんは誤魔化しながら俯きます。


「ああ、そうだ。私の最新作、是非読んでみてくださいませ……ニッカ」

「は、はい!」


 ニッカさんと呼ばれた黒い人は急いで自分のカバンを手に取り、中から新品の本を取り出してテールフォー先生に渡します。とてもかわいらしい笑顔ですね。


「ど、どうぞ先生!」

「……」


 すると、テールフォー先生は本を奪い取ると、ニッカさんを睨みます。


「……お前、私よりかわいくないか?」

「……すみません……」


 すると、こちらに振り向いた先生は、にこやかな笑顔で、本をサリアさんに手渡します。


「こちらが、34冊目になりますかしら」

「頂戴いたします……「風魔の列車殺人」……。あ、これ――」

「そちらも、この前10突破いたしましたけれど、その程度ですわぁ」

「ジョワ――」

「キャンセル!」


 サリアさんがジョワりかけましたので、僕は彼女の両肩を掴みました。

 そんな僕らをにこやかな笑顔を崩さず、先生が続けます。


「実は、私もこのお宿に興味がありまして、来ましたのよ。毎年、1月11日になると人が死ぬ……。サリア先生も、宿と、を解決しにこちらへいらしたんですのよね?」


 先生が両手を合わせ、ニコニコ笑いました。


「先生と私……どちらが先に謎を解くか。面白い勝負になりそうですわぁ」

「あ、ああ……そ、そうですね。ありがとうございます、こちら、是非読ませていただきますね」


 サリアさんは僕に本を手渡すと、先生が突如驚いた顔を見せます。


「あら、サリア先生……」

「え、なんですか?」


 突然先生がサリアさんの手を引っ張り、自分の掌とあわせていました。


「かわいらしい手ですわねぇ。やはりエルフというのは、先生みたいな方が多いのかしら?」

「……わ、私はまだ若造なものですから。でも、毎日牛乳飲んでますよ。でっかくなぁれでっかくなぁれって……」

「あらあら……この旅館にはとんでもない秘密が隠されていますのよ。先生もお気づきかと思いますけれど、ね」

「あ、はは……と、当然ですよ」


 と、サリアさんもまんざらでもない顔で笑っています。


「先生……とても面白い方ですわねぇ」

「え?」

「嘘をつくと顔に出るんですもの。今も顔に出ていますわ、「ウソ」って」

「……え?」

「ね、ニッカ?」

「ああ、はい。出てますね」


 ニッカさんが頷くと、先生がなぜか眉をひそめます。


「……お前、私よりかわいくないか?」

「……すみません」


 ニッカさんがそう頭を下げながら謝ると、不機嫌そうに鼻と口元をピクピク動かす先生。……なんだか仲が悪そうですねぇ。


「……後でな」

「……」


 ニッカさんは歯を見せて笑っていました。尚も不快そうに彼女を見つめる先生。しかし、すぐに笑顔でサリアさんに振り向きます。


「一度鏡を見てみた方がいいですわねぇ――はっ!?」

「!?」


 先生はサリアさんの顔を見て驚き、そして、自分の額に手を当てました。釣られてサリアさんも額に手を当てます。


「ちゃんと手で隠して! 誰かに見られるとマズいですわ!」

「……は、はい!」


 すると、サリアさんはどこかへ走り去っていきます。


「あ、ちょっとサリアさん!」


 僕はサリアさんを追いますが、サリアさんは廊下の鏡を見て呆然としていました。


「……マジだ、マジで「ウソ」って書いてある……」


 サリアさんは自分の額を見て、ショックを受けているようです。いや、こんな古典的な奴に引っかかるサリアさんもサリアさんですけど……。


「ば、バカな……バカな……」


 サリアさんは僕に飛び掛かりました。


「ねえ、私、嘘をつくと必ずおでこに「ウソ」って出てくるの!?」

「……あぁ、そうですね。出てますね」

「な、なんで教えてくれなかったのよ!?」

「いや、知りませんよ。サリアさんとは今日あったばっかですし」

「かぁーくぅー……」


 なんかサリアさんはショックを受けているようですが、とりあえずサリアさんを引っ張って部屋に戻る事にしました。

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勇者テラの魔王討伐の旅、継続中 燐音 @Lion_cradle

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