#6 すべてのホラー現象はホラに過ぎない

 どたどたと僕らは走り、森の奥の方へとヒバゴンらしき影を追いましたが、見当たりません。……あるぇ!?


「いないじゃない! やっぱヒバゴンなんて……の見間違いじゃないの!?」

「そんなことない、いましたよ!」

「あぁ、もう、森森しくてやだぁ! 泥まみれ! 臭いし虫いるしキモい男の隣だし!」

「こんな未開拓地のド田舎で何言ってんですか!」


 僕らが言い争いながら進んでいると――


「あっ、九つの墓」


 サリアさんがそう指をさす先に、九つの石塊が並んでいました。……名前も読めない文字で刻まれていますが、恐らく東方の国の文字でしょう。まるで異世界にスリスリスリップしたみたいですね。僕は目を輝かせ、墓に近づいてみますと……


「わぁ~っはっは! わぁ~っはっはっは!!」


 唐突の大きな笑い声にサリアさんがぎょっと飛び上がって、僕の背中に隠れました。声の主は目の前のこんもりと盛られた枯葉の山から、ドドーンと飛び出してきたのです。


「わぁ~っはっはっはっはっはァ~~!!」


 ドォーンと効果音が鳴りそうなくらいの迫力と、笑い声で登場したのは、なんとも奇妙な服を着たおじいさん。……東の国に伝わるという、「テング」というものでしょうか?


「9人のおさむれえの墓じゃあ!」


 と、叫ぶおじいさん。


「おさむれえを祀っとうもんじゃ! ちなみん、儂はヒバゴンじゃねえぞ!」


 おじいさんの気迫に、サリアさんが背後で怯えて震えていました。


「今夜また、人が死ぬど! おさむれえの呪いぞ!」

「お、お、おさむれえの、のろい……?」


 背後のサリアさんの声がひどく震えてますね。


どぉ。今から400年めえもそうじゃった。魔王軍に敗れた9人のおさむれえが命からがら逃げのびてきて、こん村に辿り着いたど」

「なんか語り入りましたね」

「聞けィ!」


 僕は一喝されてしゅんと俯きました。


「村人達は、最初はあいつらを匿う振りをしていとうけんど、ある晩、おさむれえ達にうぅーんと酒をふるまい……無防備にも寝てしもうた奴らの寝込みを襲い、皆殺しにしとうたとよ」


 おじいさんの話を聞いて、僕は首をかしげ尋ねます。


「なぜそのような事を?」

「村人達の目当ては、あいつらの持ってとうた、じゃった」

「財宝……」

「村んもんたちゃあ、おさむれえを殺した後、血眼になってそん財宝を探しとった。じゃが、お宝はしめえまで見っからなんだ」


 僕とサリアさんはうんうん頷きながら、続きを聞いていました。


「そん後、村にゃあが続いた。村人たちゃあ、「おさむれえの祟りじゃ」ゆうて、おっかながって、ここにこうして九つの墓をこさえたんじゃ」

「それで、九墓村……」

「――だけんど。おさむれえの恨みはそう簡単に治まりっこねぇ! 未だ奴らが殺されとうた1月11日になっと、おさむれえ達がけえってきて、村人の魂をとっていくと、言われてるだよ」


 ……へえ。なんというか……


――」

「カァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

「……」


 おじいさんは叫びました。


「恐れい! おさむれえの恨みば! わぁ~っはっはっはっはっは! わぁ~っはっはっはっはっはっはっは!!」


 おじいさんは踵を返し、森の中へ消えていく。僕らは呆然とそれを眺めるが……


「……大駱駝艦の人?」

「なわけねえでしょうが!」


 と、サリアさんはやっと僕から離れ、九つの墓を見回します。


「……まあ、これがその件のお侍のお墓よ。駄菓子菓子だがしかし、呪いとか超常現象とか。ってね! いつまでもビビってんな~?」

「サリアさんでしょ、ビビってるの」

「なぁにがビビってるよ。あ、あたしが、いつ、ビビるってのよ!」

「首に下げてるお守り、ですよ」

「――ッ!?」


 サリアさんは目を見開いて首元に下げているお守りをバッと見つめました。いやぁ、面白い方ですねホント。

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