#5 馬鹿なの!? ヒバゴンなの!?

 僕は部屋に戻り、恩人様に尋ねた。


「恩人様――」

「えっ」

「恩人様、あなた、このお宿にはに来られているって言うのは本当ですか?」

「えっ、誰から聞いたのそれ。一応なんだけど」

「宿の主人に聞きました。事情を話したら温泉もお風呂もなくって、近場の銭湯を利用しろって……それだけじゃあござあません! なんでも、このお宿には毎年1月11日になると人が死ぬっていう、どっかのドラマとか小説をパクったような超常現象が起こるって話じゃないですかあ!」


 すると、恩人様は「あはは」と笑い始めた。


「も~、主人さんったら言わなくていい事を言うんだから……ま、いっか。そう言う事よ。私、軍人でも「」とか「」を担当する枠なんだけど、今日も事件だダイナマイト軍人デ~カ~って感じなのよ。理解した?」

「そうなんですか。すごいですね、軍人さんだなんて。そういや名前聞いてませんでしたが、お名前は?」

「……あんたさぁ」


 恩人様が深いため息をつきます。


「他人に名前を尋ねる時はまず自分から――」

「あ、はい。テラです。テラ・ピカタ」

「あ、うん。はい。あたしは「サリア」。「サリア・クゥ・ド・ヴァン」よ」


 と、サリアさんは胸を叩き、その次に肩に乗っているコカトリスを指さす。


「で、この子は「シャンバール」」

「クコッケ!」


 シャンバールさんが翼を広げ、僕にご挨拶してくれているようです。鶏みたいな見た目で、ちっちゃくて、かわいいですねぇ。と、僕は疑問が浮かびます。


「あれ、じゃあシャンバールさんは2体いるんですか?」

「いや、この子だけよ」

「え、でも、僕を運んでくれたのもシャンバールさんですよね、確かな記憶はないんですけど」


 サリアさんはそれを聞いて「あ~」と手を叩きました。


「シャンバールはちょっと特殊な子で、できるのよ。おっきくなったシャンバールが、あなたをここまで運んだわけね」

「コケッコ♪」

「特殊?」


 僕が首をかしげると、サリアさんが説明してくれます。


「この子、軍で製造した「人工生命体」なの。その中でも2番目に誕生した、特殊なコカトリスでね。1番目の子は「人間を親と認識する刷り込み」と「最初から成体」って条件で生まれて実践訓練中なんだけど、この子は遺伝子を組み換えて幼体から生まれたのよ。軍の「親の命令に従う生体兵器を一から育成計画ぅ~♪」の方針で、あたしが育成係を任命されてるの。で、サイズを司る遺伝子を組み替えてるからなんやかんやでサイズが変わるわけ。原理は知らんし聞くな」

「へ~」


 なるほど。生体兵器を一から育てて、命令に従わせる、か……。効率は悪いですが、悪くない計画ですね。


「……ま、この子を育ててる内に、なんか愛着がわいちゃって、もうこの子は相棒って感じなのよね」

「……右京さん?」

「違う」


 ……あ。


「いえ、本題を忘れるところでした! その、111ってどゆことですか!?」

「チッ、忘れてろよ……」

「教えてくださいさん!」

よ、全然違うやろがい!!」


 すると、サリアさんは深いため息をつきます。


「この村、なんて名前か知ってる?」

九墓村くぼむらですよね。でも、八つ墓村の間違いじゃないんでしょうか?」

「いや、ここは九墓村。村の外れに九つの墓があって、その墓に眠る九人のお侍さん達を供養し続ける為に村の名前にもなったんだって」

「八つ墓村じゃないですか?」

「いや、違う」


 そこまで言うと、サリアさんがすくっと立ち上がりました。


「まあ、モノは見ればわかるわね、ついておいで」


 と言って、彼女は手招きをしてきますね。


「……でもその前にやりたい事があるんですが」

「何?」


「――腹減った」

「……あ、はい。じゃあその前に食事でもしましょうか」


 サリアさんは何故か頭を抱えていました。




―――





 と、いうわけで、サリアさんとシャンバールさん、そして僕はその、九つの墓がある場所へと赴く事に。僕はお宿に置いてあった地図を両手に、ある崖っぷちの道を歩いています。なんでも、この崖っぷちは「わらしが淵」。……名前大丈夫ですかね? まあいっか。眼下には深い谷底と、激しく水が打ち付け合う激流が流れていました。こっから落ちたら尾張おわりですねぇ。


「この向こうに墓があるわ。ちなみに、このわらしが淵で、人が死んでんのよ。5年前くらいに」

「へー、そうなんですかぁ。なぜ?」

「なんでも、滑り落ちたんですって。しかも、その人を皮切りに、毎年人が死んでいったんだとか」

「へぇ~。他に情報は?」

「……いや、民間人にこれ以上は――」

「いいじゃないですかぁ、5年前の事件だったらもう時効ですって」

「そんないい加減な……まあいっか。どうせ関係ないし」


 サリアさんは深いため息をついてバッグから分厚いメモ帳を取り出しました。


「「ヴァン・オーラス」、当時35歳。ちなみに、この領地の次期領主で、爵位は伯爵みたいね。足を滑らせ、そこから転落。死体は未だ未発見。川に流されたのだろうと、当時の捜査結果ではそうなってるわ」


 僕は眼下に流れる激流を見下ろします。……流された、か。


「流されたにしちゃあ――」

「うぉい! あんた危ないわね、落ちたら!」

「今時流行らないですよそのギャグ」

「だからあぶねえつってんだろ!」


 と、僕のマントをサリアさんは引っ張りますが、僕は振り向きました。


「……怖いんですか?」

「怖くないわよ! 別に、怖くないもんねー……」

「あ、はい。怖いんですね」

「だぁれが怖いもんですか! この世で一番怖いのは怒ったカバなんだから。知ってる? カバって走ると時速40キロらしいわよ。で――」


 サリアさんが熱く語り始めて面倒ですね。僕は奥の方へ目を向けます。なんだか、さっきから視線を感じる気がしたもんで。


「……、誰かに見られてる気がしませんか?」

「だ、誰がビビリじゃい! ……誰に見られるって言うの?」

「う~ん……あっ!」


 僕が奥の方を見ていると、茶色のボンボンがこっちを見ていたようで、僕らの視線に気が付くと引っ込んじゃいました。


「ひ、!?」

「いないわよそんなの! 馬鹿なの!? ヒバゴンなの!?」

「いたじゃん! 追っかけましょう!!」


 僕らは引っ込んだヒバゴン(?)を追いかけ、走り出しました。

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