レッツ☆ゴー!成仏

幽霊って、なに?

フィル・フレンケルは唖然とした。

「待って、もう一度言って。」

にこやかな顔で目の前に座る友人を見つめ、聞き返す。

「幽霊って、なに?」

「幽霊は幽霊だろ。なんかこう、死んだ人が怖ーい感じで……。」

「それは知ってるよ。そうじゃなくて、なんで幽霊という単語が出てきたのさ。」

真っ昼間の食堂である。日の差す開放的な空間に明るいざわめきが満ち、忙しないながらも平和な空気が流れている。厨房の方はさながら戦場といった様子だろうが。それはともかくとして、幽霊という単語に相応しい状況でないことは確かだ。モーリスがフォークに突き刺した鶏肉を機嫌よく動かしながら言う。

「どうやら学内にいるらしい。俺も噂でしか聞いたことはないけど、同期が言うには確かにいるそうだ。」

「はあ、それはまあ、面白い同期だね……。」

「そりゃ、幽霊の噂の一つや二つあるだろ。」

アルフレッドがスプーンを口に運びながら淡々と言う。

「医学部の同期だろ。解剖実習がある。病院実習がある。実際に人が生まれ、死ぬ場所だ。そんな噂が全くない方がおかしいと俺は思うね。」

「俺もアルフレッドと同意見だ。」

グレンも真顔で言う。

「幽霊の噂なんて、子供のころから何回も聞いている。人の集まるところに幽霊の噂ありだ。」

「お前ら、つまらない人生を送っているな。」

モーリスが噛み付く。ついでに鶏肉にも噛み付く。

「幽霊だぞ、楽しそうじゃないか。見たくはないか?」

「見られるの?」

「それは分からない。幽霊次第だな。」

「事前に面会の約束を取り付けることはできないのか。」

「だって幽霊だし。」

「事前と言えばさ。」

アルフレッドが思い出したように言う。

「国立美術博物館で来月からやる、東方文化美術展。俺、興味があって行きたいと思っているんだけど、お前らも一緒にどうかな。」

「え、面白そう。東方って、どの括りなんだろう。」

「アルフレッド、お前エリオットと仲良くなってから、東方の文化に興味津々だな。」

「だって興味深いだろ。グレン、お前も来いよ。極東の刀剣なんかも展示されるそうだ。」

「行く。事前に入場券を購入しよう。」

グレンの顔が輝く。

「あの、刃の部分に紙を乗せると切れるという噂の切れ味を、是非見てみたい。」

「試し切りはできないと思うよ。」

「当たり前だろう。そんなことさせたら死者が出る。」

むっとしたグレンに言い返される。アルフレッドがスプーンを動かしながら、わくわくとした様子で言う。

「一流の刀剣は美術品としても非常に価値が高いからな。刃そのものの美しさを極めるというのは、この辺りではあまりないから、俺も見てみたい。」

「いつまで開催されるのかな。姉さんにも言ってみよう。美術展ならきっと興味を持つはずだ。」

「ところで、エリオットは誘わないのか?」

モーリスがアルフレッドの方を向き、にこやかに尋ねる。アルフレッドが少し考える素振りをする。

「誘おうかなと思ったんだけど、あいつにとっては見慣れたものかなって……。ヨウ家の本邸が、もう美術館みたいなものだろ。きっと。でも、そうだな、誘ってみるか。」

「そうしろ。何かあったらとりあえず誘っておけ。仲間外れは寂しいからな。」

「確かにな。声をかけとく。」

今日の夕方、探しに行こうと呟くアルフレッドを、モーリスがにこにこと見つめる。しばらく美術展についての話が続き、急にモーリスが叫んだ。

「じゃなくて、幽霊の話だよ!お前ら、東方美術には興味津々で幽霊には興味が無いって、男としてあるまじきことだろ!」

「すごい、なにその偏見。」

「こいつの精神年齢は初めて会った時から変わらない。5歳のままだ。」

長い付き合いのアルフレッドが平然と毒を吐く。水を飲みながら、フィルはあきれた顔で言った。

「自分で会いに行けばいいじゃん。怖くて一人じゃ行けないってんなら、正直にそう言えばいい。ついてきてくださいって。」

「怖くはない。でも、一人じゃ寂しいだろ。俺、18にもなって一体何をしてるんだろうって。」

「自分でも分かっているんじゃないか。」

フィルが笑い、モーリスがさらに噛み付こうとした。その前にグレンが言う。

「面白半分で幽霊に会いに行くのはどうかと思うが、フィル、俺は幽霊はいると思っている。」

「え、グレンって信じている人なんだ。」

「他にも色々信じている。この世界が生きている俺たちだけのものだと考えるのは不遜だ。」

「まあ、そう言われると……。」

「ほら、グレンだって会いたがっている。行くしかないだろ。」

「俺がいつ幽霊に会いたいと言った。」

「よし、分かった。」

アルフレッドがパンをちぎりながら言った。

「モーリス、詳しく話せ。その間、俺たちはおとなしく食べておく。お前の話に俺たちの関心を引く何かがあれば、一緒に確かめに行ってやってもいい。」

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