第117話 生まれた溝

 後日、俺はテオと一緒に冒険者ギルドにやってきた。俺たちは迷わずニーナさんの受付に並び、順番を待つ。


「次の方、どうぞ。あ! 二人とも! パレード、見たよ。カッコよかったね~」


 ニーナさんははじけるような笑顔でそう言ってくれた。


「ありがとうございます」

「それにしても、二人があの魔竜ウルガーノを倒しただなんて信じられないわ! ちょっと任務で遠征だって言ってたのに、まさか魔竜ウルガーノを討伐してきて、凱旋パレードまでするなんてビックリ」

「すみません。さすがに言えないので」

「うんうん、分かってるよ。それで? 今日はどうしたの?」

「はい。俺たち冒険者カードの更新に来たんです」

「あら? そうなの? 分かったわ。それじゃあ今の冒険者カードをちょうだい」

「はい」


 冒険者カードをニーナさんに手渡すと、左手でそれを受け取ると右足を引きずりながら奥へと消えていく。そして五分ほどで戻ってきた。


「はい。お待たせ。テオくん、Cランク昇格、おめでとう。レクスくんも、Aランク昇格おめでとう。すごいね。レクスくん、もしかしたらSランクになれるかもね」

「どうでしょうね。冒険者として活動しているわけではないですし、今回のことも王太子殿下が魔竜ウルガーノ討伐の褒賞の一つとしてくれたんです」

「へえ、そうなんだ。テオくんも?」

「はい」

「そっかぁ。でも冒険者ギルドの事実上のトップは王太子殿下だし、二人を昇格させたのも何か考えがあるんじゃないかな」

「でもそれがなんなのかさっぱり……」

「そうかぁ。でも、貰えるものは貰っておけばいいんだよ。別に減るものじゃないでしょう?」


 ニーナさんは明るい笑顔でそう言った。


「そうですね。それより、またご飯食べに行きましょうよ。今度は俺たちに奢らせてくださいよ」

「そう? うん。じゃあ、楽しみにしてるね」


 こうして俺たちは新しい冒険者カードを手に入れ、新たな楽しみに胸を膨らませながら寮へと戻るのだった。


◆◇◆


 それからテオとキアーラさんは叙任を受け、正式な騎士となった。キアーラさんは女性騎士としては最年少での叙任となったのだという。


 ちなみに男性の最年少は俺だ、と胸を張りたいところだが、そうではない。王族の男性は十二歳で騎士としての叙任を受ける慣習があるため、王太子殿下は十二歳で騎士になっている。


 また王家にそうした風習があるため、銀狼騎士団以外の騎士団では貴族のボンボンが十二歳で騎士になるということがよくあるようで、十四歳という年齢は若いが珍しくはないといった程度だったりする。


 そんな余談はさておき、俺とテオとキアーラさんは年齢が近く、冒険者出身ということもあって最近はよく話すようになった。


 他にも魔竜ウルガーノ討伐に志願したメンバーとは仲良くすることが多くなった。死を覚悟して臨んだ討伐だっただけに、妙な連帯感が生まれているのだ。


 ただ、これは仕方のないことかもしれないが、志願しなかったメンバーとはどことなく距離を感じている。特に従騎士たちの間では顕著だそうで、剣の腕が自分より下なのに来年騎士になることが内定している従騎士がやっかみを受けているらしい。


 個人的には、そんなことをするような奴はどうせ騎士になれないと思うので、実害がない限りは放っておけばいいと思うのだが……。


「お前! 弱いくせに!」


 昼食を終え、乗馬の訓練に向かっていると厩舎の裏からそんな声が聞こえてきた。


「テオ、キアーラさん」

「また、だな」

「止めなきゃね」


 俺たちは一斉にため息をつくと、厩舎の裏へと向かった。するとやはり一人の従騎士を三人の従騎士が取り囲んでおり、そのうちの一人が囲まれている従騎士を殴っている。


 おいおい。それはやりすぎだろう。


「王太子殿下とレクス卿のおこぼれで内定貰いやがって」

「今度騎士になるんだろ? 早くその腕を見せてみとって」

「ほらほらどうしたぁ? その程度か? 反撃して来いよ」


 囲まれている従騎士は反撃をせずに耐えているが、囲んでいるほうは容赦なく攻撃をしている。


 はぁ、まったく。


「そこまでだ!」

「え?」


 俺の声に暴力を振るっている側の従騎士がこちらを振り向いた。騎士である俺たちに見られたことに気付き、彼らの顔はみるみる真っ青になっていく。


「あ……これは……れ、レクス卿、一体いつから……」

「お前、弱いくせに、のあたりからだな」

「ひっ」

「騎士団の内部での私闘は禁止だ。決闘をしたいのであれば王太子殿下の許可を得て、立ち合いの下でやれ」

「そ、それは……」

「どちらにせよ、お前たちの懲罰は免れないだろう。素直についてくるか? それとも……」

「ひっ!? す、すみません。もう二度としませんから……」

「見逃せというのか? そんなことをしたら俺が処罰されることが分かってそう言っているのか?」

「そ、それは……」


 観念したのか、暴力を振るっていた従騎士たちはがっくりとうなだれた。


 こうして俺たちはこの馬鹿な従騎士たちをメルクリオ卿のところへ送り届けるのだった。


 やれやれ、こんなことをしたって意味がないと分かってほしいものなんだがなぁ。


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 次回更新は通常どおり、2024/03/12 (火) 18:00 を予定しております。

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