第49話 合同作戦(前編)

2024/01/15 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

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「ではそういうことだ。黒狼のあぎとはゆっくり休んでくれ」

「はい? それは一体どういうことでしょう?」

「うん? 支部長、説明していないのか?」

「はい。作戦は極秘で進めておりましたので」

「そうか。まあ仕方ないな。黒狼の顎には悪いが、俺と支部長はこの後すぐに別の打ち合わせがある。あとで説明を受けておいてくれ」

「はい」


 こうして俺たちはさっぱり状況が分からないまま、会議室を追い出された。


 それから説明をされたのだが、カミロ様はスピネーゼの状況を改善するためにマルゲーラから三百人規模の騎士団を引き連れてやってきたのだそうだ。


 要するに、俺たちは三日後に騎士団と合同でD区域のモンスター駆除を行うことになったということだ。しかもこの合同作戦は一週間にわたって行われ、その間は森にずっと籠もりきりになる。


 突然の話で驚いたが、この期間中に騎士が駆除したモンスターの三割を俺たちの成果にカウントしてもらえるそうで、俺たちとしてもそこまで悪い話ではない。


 そして三日後、大急ぎで準備を整えた俺たちは騎士団との集合場所である北西門前にやってきた。


 しばらく待っていると、整然と隊列を組んだ騎士たちがやってきた。俺たちはひざまずき、それを出迎える。


 すると隊列が割れ、なんとその中からカミロ様が出てきた。


「ご苦労。今日からよろしく頼む」

「はっ!」


 カミロ様の挨拶にケヴィンさんは短く答えた。


「黒狼の顎、立ちなさい」

「はっ」


 俺たちは立ち上がり、カミロ様の言葉を待つ。


「ここで立ち話をしても何も始まらないからな。早速森へ向かおう。案内を頼むぞ」

「はっ」


 そうして俺たちは騎士団を先導する形で北西門を出た。だが不思議なことにカミロ様が一緒について来ている。


 まさか、一緒についてくる気なのか?


 何かあったら困るが、相手は貴族だ。こちらから勝手に話しかけると、下手をしたら不敬罪になる可能性もある。


 さて、どうしてものか……。


 そんなことを考えていると、なんとカミロ様のほうから俺に話しかけてきた。


「少年、どうした? 何か心配事でもあるのか?」

「っ!? はっ! い、いえ! 申し訳ございません」

「いや、謝れとは言っていない。心配事があるならば作戦前に共有すべきだ。違うか?」

「え? ええと……」


 い、いいのか? こんなことを話して……。


 俺が迷っているとカミロ様は俺に近寄り、ポンポンと安心させるように肩を叩く。


「少年、話してみなさい。どんな内容でも不敬罪に問うことはない」

「え?」

「ほら、レクスくん。カミロ様がああ仰っているのだから、ね?」

「は、はい。わかりました。その、どうしてカミロ様まで一緒に来ているのか、ということが不思議でして」

「ん? それはどういう……ああ、そういうことか。ははは、心配されていたのか。ははははは」


 カミロ様は俺の肩を何度もバシバシと叩きながら爆笑している。


「君はレクスくんといったな?」

「はい」

「いいか? 俺は貴族だ。モラッツァーニ伯爵家の長男にして次期モラッツァーニ伯爵だ。つまり、この領地の未来の指導者だ」

「は、はい」

「であれば、俺が先頭に立って戦うのは当然だろう?」

「え?」


 どういうことだ? 孤児院のあったベルトーニ子爵領でもコーザ男爵領でも、領主様やその家族が先頭に立って戦ったなんて話は一度たりとも聞いたことがないぞ?


 どうやら表情に出ていたようで、カミロ様は複雑な表情をした。


「ふ。そうでない貴族もいるというのは知っているさ。だが貴族は民から税を取り立て、その金で生活し、そして領地を治めているのだ。であれば貴族は民の代表として自らを律し、有事の際は先頭に立って民を守る。だからこそ貴族は貴族たり得るのだ、と俺たちモラッツァーニ伯爵家は考えているのだよ」

「……すごい」


 まさかこんな立派な貴族がいるなんて!


「ははは。だが王太子殿下だって同じことを言っているぞ。そもそも貴族とはそうあるべきなのだよ」


 カミロ様はそう言うと、再び笑いながら俺の肩をバシバシと叩いてくるのだった。


◆◇◆


 森の中に入った俺たちは、先日ディノウルフに襲われた現場までやってきた。当然のことながらここにディノウルフの気配はない。


 一方の騎士団はというと、数人の騎士たちのみが俺たちと一緒におり、残る騎士たちは途中で止まって配置についている。あとはここから騎士団と足並みをそろえ、川の流れている北東方向に向かいつつモンスターを掃討するという作戦だ。


 要するに俺たちが森の一番奥を担当しているわけだが、これは別に俺たちが一番危険な場所に捨て駒として配置されたなどという話ではない。俺たちが一番奥を希望したのだ。


 というのも、俺たちは騎士団との連携に慣れていないため、隊列の中に入ると連携が崩れてしまう。そのため一番奥か手前のどちらかを担当する必要があり、であればモンスターを狩れる可能性が高い一番奥を選んだというわけだ。


 それとは別に、倒したモンスターは騎士団の見習いとギルドの職員が回収し、森の入り口近くに設置したベースキャンプまで運んでくれるという手筈てはずとなっているのもありがたいところだ。


「お前ら、準備はいいか?」

「はい!」

「リーダー、いつでも大丈夫です」


 ケヴィンさんの質問に、俺たちは皆準備完了との返事をする。


「黒狼の顎、準備完了だ。いつでもいける」

「よし」


 ケヴィンさんが騎士の男にそう伝える。すると彼は小さく頷くと大きく息を吸い込み、持っていた角笛を吹き鳴らすのだった。


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 次回更新は通常どおり、2024/01/04 (木) 18:00 を予定しております。

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