第142話
「さーて、ダンジョンよ!」
翌日、俺たちは村から少し離れた位置にあるダンジョンへと向かっていた。
ダンジョンに憧れがあったらしいヴァネッサは、朝からずっとテンションが高い。
「ヴァネッサちゃん、ご機嫌ですね」
「そりゃあそうよ。冒険者にとってダンジョンは夢の詰まった場所なんだから! その分、死と隣り合わせでもあるんだけどね!」
「そんなに危険な場所なんですか?」
「実際に潜ったことはないけど……でもきっと、死と隣り合わせなの。話に聞くところによると、ダンジョンの中には強いモンスターがうじゃうじゃいるんだから!」
ヴァネッサの言葉を聞いたドロシーが嬉しそうな声を上げた。
「強いモンスターがうじゃうじゃ!? ということは、新しい仲間を作り放題ということですね!? 大きなモンスターはいるでしょうか!?」
「ドロシー……もしかしてモンスターを連れ歩くつもりなの?」
どうやらドロシーは、ダンジョンで倒したモンスターをネクロマンサーの力で味方にしたいらしい。
ダンジョンで死んだものはダンジョン消滅と一緒に消えるが、ネクロマンサーと契約した場合は外に出ることが出来るかもしれない。
ネクロマンサーを公表している冒険者自体が珍しいから、実際のところがどうなのかは不明だが。
「あっ。モンスターは村に入れませんよね。姿を消せるモンスターがいたらいいのですが……出来れば大きい子で」
「やっぱりドロシーは大きな生き物が好きなのね」
二人の楽しそうなやりとりが、何だか遠くに感じられる。
俺の頭の中は、昨日視た凄惨な光景で占められていたからだ。
あれは俺が過去に受けた仕打ち……なのだろう。
あまりにも残虐な行ないだった。
走馬灯の中で、俺は死んでも生き返るとクシューが言っていた。
それに白衣の男たちもクシューと同じことを言っていた。
だからこそ俺の身体を弄りまわして……死んでも生き返る俺は、何度も何度も苦痛を受けていた。
白衣の男たちは、パーカーと同じ研究所に所属する研究員なのだろう。
パーカーはあの実験を行なうことが嫌で研究所を逃げ出した。
それにしても…………俺は一体、何者だ?
死んでも生き返る人間は、この世のどこにもいないはずだ。
それなのに、俺は死んでも生き返る身体らしい。
パーカーによると、非人道的な行ないに我慢の出来なくなった俺は、研究所を焼いたらしい。
しかし……どうやって?
拘束されて動くことの出来ない俺は、どうやって研究所を焼いたのだろう。
「ダンジョンに到着したのじゃ」
「すごーい! これがダンジョンなのね!?」
「洞窟みたいになってるんですね」
「さっそくダンジョンに潜るとするかのう。良いか、ショーン?」
「……え? あ、はい」
ぼーっと歩いているうちにダンジョンに到着していたらしい。
さすがにダンジョンでは気を引き締めないと。
難しいことを考えるのは、ダンジョンをクリアしてからにしよう。
* * *
「ダンジョンでは味方作り放題だと思っていたのに、誰もいませんね」
ダンジョン内を歩いたドロシーが不満そうに呟いた。
圧倒的強者であるリディアと一緒にダンジョンに潜ると、どこのダンジョンでもこうなってしまうのだ。
「弱いモンスターは、妾の強さを恐れて隠れるんじゃよ」
「リディアが強いのは知ってたけど、強いとこんなことになるのね……」
ヴァネッサも、話に聞いていたダンジョンとの差に困惑している。
普通はダンジョンに潜ると、次から次へとモンスターを倒すことになる。
しかし今の俺たちは、ダンジョン内を散歩でもしているような有様だ。
「ワッハッハ。妾はものすごく強いからのう。ボスモンスターだって一秒で倒せるぞ」
「一秒はさすがに言い過ぎでは……」
「ううん、リディアなら出来るかもしれないわ」
リディアが巨大グモを瞬殺するところを実際に見ているヴァネッサが、ドロシーの言葉を否定した。
「出来るかも、ではなく、確実に出来るのじゃ。しかし、それではつまらんであろう?」
リディアがニヤリと嫌な笑い方をした。
「つまらないとかつまらなくないとか、ダンジョンってそういうものじゃないと思うけど……」
「そういうものじゃ。それならこの誰も寄ってこないダンジョンが、ヴァネッサの求めていたダンジョンなのか?」
「それは……違うわね。ダンジョンはもっと心踊るもののはず」
ヴァネッサにはダンジョンに対する憧れがあった。
その憧れがこのような散歩で終わるのは、ヴァネッサとしても本意ではないのだろう。
「ということで、ボスモンスターは三人で倒すがいい」
にっこり笑ったリディアが指し示す先では……。
「ボスモンスターだわ!?!?」
巨大なキツネが、俺たちのことを品定めするように見つめていた。
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※次回の更新は、3月16日(土)17:30予定です。
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