第135話
「変なことを聞きますが……もし過去に悪いことをしていたと気付いたら、どうすればいいんでしょう。何をすれば許してもらえますか?」
「残念ながら、悪事は消えないわ」
ヴァネッサはキッパリと言い切った。
厳しい意見だ。
「ヴァネッサさんは『人は何度でもやり直せる』と言うタイプだと思ってました」
きっと俺自身がそう言ってほしかったのだろう。
「やり直せるのは自分のことだけよ。相手に関してはどうにもできない。いくら悔やんだところで死人は生き返らないし、相手の心に負わせた傷は消えないわ」
あまりにも正論だ。
だからこそ、今の俺にはキツイ。
「でも、一つの過ちも犯さずに生きることは不可能に近いわ」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「それを探すのが人生なんだと、あたしは思うわ」
ヴァネッサは俺と大して年齢が変わらないはずなのに、今はずっと年上に見える。
そういう顔を、彼女はしていた。
「……何だかスッキリしませんね」
「この世界は黒か白かでは表せないものが多いわ。世界は、いつだってスッキリしないものよ」
ヴァネッサは励ますように俺の背中を叩いたあとで、立ち上がった。
「まあ、今のはたった十数年生きただけの小娘の意見。ショーンはショーンなりの答えを見つければいいのよ」
そして屋根を下りていって……途中で盛大な音がした。
見に行くと、地面にヴァネッサが転がっていた。
「……あーあ、カッコつかないわね」
* * *
翌朝、俺たちはこの村ならではの朝食をご馳走してもらい、村を出発した。
村長は夜にもご馳走を振る舞う気だったらしいが、それは遠慮しておいた。
ガリガリに痩せた村人たちの前でご馳走を食べる気にはなれなかったからだ。
リディアは後ろ髪を引かれているようだったが、ヴァネッサもドロシーもご馳走を遠慮することを選んだ。
多数決でもそうだし、ご当地飯を食べる目標は朝食でクリアしているため、リディアには諦めてもらうことに決まった。
気になるのはリディアの様子だ。
俺に、魔王ではないことを気付かれたにもかかわらず、いつもと変わらない様子で旅を続けている。
「次の村に着いたら、まずはご当地飯じゃぞ」
「うーん。そうしたいのは山々なんだけど、手持ちのお金が無いのよね」
「なんじゃと!? また闇クエストを探さねばならんのか!?」
「闇クエストって何ですか?」
「何かしら。あたしも知らないわ」
「闇クエストに食いつかなくていいです。リディアさんの造語ですから」
今は冒険者登録を済ませているであろうヴァネッサがいる。
そのため冒険者ギルドで堂々とクエストを受けることが出来るのだ。
「ヴァネッサさんに冒険者ギルドでクエストを受けてもらって、全員でクエストをこなしましょう」
「あたし? 別にいいけど、あたしが紹介してもらえるクエストなんて単価の安いものばっかりよ?」
「じゃあこの機会にどんどんクエストを受けて、単価の高いクエストも紹介してもらえるようになりましょう」
「あたしだけランクを上げるのは変よ。パーティーとして冒険者ギルドに登録しましょう」
俺はヴァネッサに近付くと耳打ちをした。
「リディアさんは魔物なので登録できません」
「あっ」
いつかはドロシーにもリディアが魔物であることを告げるべきかもしれないが、それは今ではない気がする。
「じゃあリディア以外の三人でパーティー登録をしましょう」
「実は俺も冒険者ギルドに登録できない事情がありまして……」
「もしかしてショーン……あんた、悪いことをして追われる身なの?」
確かに昨日の話とあわせて考えると、そうなってしまうかもしれない。
俺は勇者パーティーを抜けたことを王国に知られたくないだけなのだが。
「私は何も問題ありません! ヴァネッサちゃんと一緒のパーティーだって、みんなに自慢したいです!」
ドロシーがヴァネッサの手を握ってぶんぶんと振っている。
もしドロシーが犬なら、尻尾も振り回していることだろう。
――――――――――――――――――――
次回がside話のため、盛り上がりに欠ける区切り方になってしまいました;;
ですが、伝えたい言葉は詰めたつもりです。
いくら悔やんだところでやり直せないこともありますよね。
特に相手が亡くなってしまった場合は、もう相手に許されることはありません。
我々は過ちを犯す人間の身ですが、他人を思いやって生きていければいいですよね。
次回はいろいろと繋がる話ですので、お楽しみに。
※次回の更新は、2月6日(火)17:30予定です。
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