ボス戦前まで
『無事に着いたみたいだね! 良かった良かった』
良くねぇやい。
目の前に広がるアスレチックな光景を見ながら、勇者は心の中で泣いていた。
陰キャな彼にとってとつぜん知らない場所に放り込まれるのは苦手なのだ。背中を押されたこと? あんなの殺人行為だろ訴えるぞこの野郎、とできない事を言っても仕方ないので言わないことにした。
それにしても、と彼は改めて目の前の光景を見る。
地下だというのに、まるで外にいるかのように明るい。というより空がある。……いや、あれは偽物の空だ。時折ノイズが走っているので、外壁に何かしらのテクノロジーで空を映しているだけだ。
そして、どういう訳かステージは浮いていた。科学の力ってスゲー!
そして、下を覗き込むと底が見えない穴が広がっていた。こんな所に放り込まれてコエー。
『あ! ゴールが見えるよ! あそこのスイッチを押すんだよ!』
ルビーの言葉と共に勇者のギアが、彼の視界にゴール地点を示してくれる。さらにそこに向かうまでのルートも検索してくれる。
というよりも……こんなことできたんだ、と勇者は驚いた。
彼は知らない事だが、メタルクラッシュギアは使用者の補助を自動で行う優れたデバイスであり、試合中で必要な情報を最低限かつ最適に情報共有を行ってくれるのである。
『マスター。このルートを進むのが正規ルートのようです』
最も、彼の持つギアは普通のギアと違ってAIユニットが組み込まれている。
何でもルビーの祖父が制作したらしい。道中彼女が自慢げに語っていた。
彼はギアの誘導に従い、ステージを進む。普通の状態なら登れない段差も鋼鉄の纏った状態なら問題なく飛び越え、道を塞ぐ鋼鉄鉄の箱も剣で簡単に壊すことができた。中から青く光る石が出てきたが……とりあえず回収しておいた。
『これくらいは簡単だよね!
ルビーの言う通り、基本動作を理解することができれば突破可能なステージ構成となっていた。
しばらく進むと銀色に輝く人型……魔王軍がステージを徘徊していた。
避けて通る……事はできそうになかった。
『あっ! 魔王軍だ! 倒してちゃっちゃと行っちゃおう!』
『敵対反応より脅威度計測──マスターなら問題なく駆逐可能』
やだ、この人たちヤル気満々だ。
血気盛んな彼女たちに戦々恐々としながらも、勇者は剣を片手に切り込む。
『ヤラレター!』
『キョウダーイ! キサマ、ヨクモ!』
触手を伸ばしてくる魔王軍を倒していると、突如腕の形をグネグネと変えてくる個体が居た。その腕は銃の形となり、銃口を勇者に向けると……。
『あ、危ない!』
『ヤラレロー!』
ドンっと音を立ててエネルギー弾を撃って来た。それを見た勇者はすぐさま回避行動を取り、ステージにあるオブジェクトに身を潜めて射線から逃れる。
まるでシューターみたいな奴だな、と前世のメタルクラッシュオンラインを思い出しながら勇者はそっと視線を辺りに向ける。
『マスター。
ギアからの提案に、そういえばそうだったと彼はまだ使っていない力を思い出す。
メタルクラッシュギアオンラインでは、近距離タイプの『アタッカー』、中距離タイプの『シューター』、遠距離タイプの『スナイパー』の三つのポジションがあり、それらを
その
彼は早速
『
瞬間、彼の鋼を駆け巡るのは時を操作し、万里の距離を一瞬で駆け抜けた太古の生物の力。
全身が軽くなった勇者はオブジェクトから飛び出し、一気に敵に向かって駆けていく。
『ハイジョ! ハイジョ!』
こちらに向かって弾丸をばら撒く魔王軍だが、彼の視界に入るそれらはとてもゆっくりと動いており回避するのは容易だった。
紙一重で弾丸をくぐり抜けて相手に肉薄し、振るわれた神速の剣は相手を細切れにした。
『ヤラレ──』
断末魔を聞く事もなく勇者は次の敵に近づいて斬って、そのまた次の敵に近づいて斬って、それを繰り返し──。
気が付けば彼はステージのゴールに付いていた。
『凄い凄い! 勇者くん凄く速かったよ!』
通信からルビーの賞賛の言葉を受けながら勇者はフフンと内心誇らしげに思いながらも、ゴールに設置されているボタンを押す。するとステージがクリアされた事が認識されたのか彼は地上に向かって転送されるのか、体が粒子となって消えていく。
その最中、勇者は思った。
チーターってあんなんだったっけ……?
ゲームでは攻撃回数が増えるだけで視界がスローになることはなかった。というよりもゲームのジャンル的にできないと思う。ラグがない限り。
その辺はゲームと違うんだなぁと彼は思い、もしかしたら他の
◆
──マイスターに定期報告。
適合者──以降『勇者』──の戦闘能力についてですが、マイスターの想定を遥かに上回る使い手と分析結果が出ました。
明日の午前には、魔王軍幹部との戦闘に突入致します。
その際のデータ収集の為マイスターに一つ提言致します。
ギア内のブラックボックスの解放。第一
どうか──よろしくお願いいたします。
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