語り継がれる最後の手記
世界の終わりが始まってしまった。だから記録する。これは私の、おそらく最後の手記だ。
――――――
西暦6000年11月1日
ついに人族と魔族による戦争が始まってしまった。あぁ…。最悪の始まりだ…。
いずれここは最前線になるだろう。妻と息子を救えるだろうか…。
何故始まったのだ…。私たちはどこにいればいいのだ。
人族である私と、魔族である妻。その両方を持つ息子。
この戦禍に私たちの居場所は果たして存在するのか…。
神よ。何故。
――――――
同年12月24日
戦火が広がり続けている。私たちのすぐそこまで来ている。
しかしその日、息子ある一人の少女を連れて帰ってきた。
人族の子だ。
その少女は頭からつま先まで、容姿が酷く汚れている。少女のそのよく目立つ白髪すら、ひどく汚れ、くすんでいた。
息子は惚れこんでいるらしい。常にそばにいる。私はこの現状での外出に憤ったが、そんな息子たちの姿を見て自然と怒りも収まっていった。
少女はこの戦争により、何もかもを失ったらしい。
私たちは少女を引き取ることにした。家族の一員となった。
この戦争の唯一の癒しであった。私もその楽しそうにしている息子たちを見ると、気持ちが落ち着く。
――――――
同年12月25日
息子たちがなにやら私たちの目を盗んで何かをしているようだ。
よくわからない話をひっそりと行っている。
この光景がいつまでも続くといいな。
――――――
西暦6001年1月1日
年が明けた。だが戦争が明けることはない。
いつまで続くのだろうか。もう隣国まで戦火が広がっている。多分、この戦争は長丁場になる。
そろそろ逃げるべきか。妻も息子も、あの少女も、皆の表情が日に日に強張っていく。
こんな生活はもう嫌だ。どこか安全で安心できるところへ逃げよう。
私は家族にそう提案した。
――――――
同年1月11日
いよいよ本国を離れる。
これで少しは安全な所へ行ける。戦火から離れられる。
私たち家族は荷造りをし、家を出た。
この家にもお世話になった。ありがとう。
しかしこの家の未来の姿を想像すると、心が締め付けられる。
しかし私たちの命が第一だ。
私たちは逃げる。少しの間は筆を走らすことができないだろう。
――――――
同年2月14日
家族全員で本国から逃げてから2か月程度が過ぎた。
ここはまだ比較的安全な国であった。これで少しは前と変わらずに生活できる。
しかし、一つだけ変わってしまったことがあった。
それは最近の妻の表情がおかしいことだ。彼女の家族に対する眼差しがいつもと何か違う。
しかし、その正体が何かは私にはまったくわからない。
息子と少女は変わらず一緒にいる。
変わってしまったのは、妻だけであった。
――――――
同年3月2日
少女が死んだ。
そう、息子から告げられた。息子はそれ以降、私の目の前に現れることはなくなってしまった。
絶望した。息子を追いかけた。しかし見当たらない。
終わりだ。辛い。
それしか言葉が思い浮かばない。
気付けば妻すら私の前に姿を現さなくなってしまった。ずっと部屋の奥に引きこもっている。
何故だ。
何故。
もう、筆を走らせる気力もない。
――――――
同年3月27日
久しぶりに筆を走らせる。おそらくこれが最後だ。
ついに戦火がこちらまで迫ってきた。
もう私たちに残された時間も少ないようだ。
あぁ。終わってしまうのか。
息子はどうしているだろうか。探しに行けなかった。
もう、頼るしかない。情けないな。
この手記をもし、もし読めるのであれば、頼らせてくれ。
絶対に息子は生きている。
必ずどこかで見つかる。だから、どうか見つけてくれ。
私ができる精一杯の願いだ。
私たちはそろそろ潮時らしいからな。後は頼むことしかできない。
息子を見つけてくれ。そして見守ってくれ。
頼んだ。
そして最後に一言わがままを言わせてくれ。
「息子の成長を、見て見たかった」
―――フォラオスレヒト・ブリエーミア
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