お楽しみ(1-2)/このカツ丼はおごりだってさ
「シトリ・ベリール。あっちのマイ・フェア・レディはアメス・ベリール。名字でわかるように、姉妹なのさ」
そう自分が小人の靴屋と名乗った
赤い髪と金髪の姉妹、複雑な家庭事情がありそうだとジッターこと佑駆は空気を読んだ。
だがその配慮に気づいたのか、ぺちんとサプライズは手を叩いた。
「きちんと血の繋がった実の姉妹だよ、俳優の関係上見た目がカラフルな違いが出るのも珍しくないからね」
「なるほど」
「まあ私たちは父が赤毛で、母がブロンド美女だっただけだが」
「おい」
「ちなみに自分が姉だ」
「妹でーす」
「えっ」
やれやれと首を振る小柄な
ちなみにサプライズの身長は、横にいるカトルカールとまあまあ大差なかった。
凸と凹で。
「ぐほへ!」
「何を比べた?」
「いやなんでもないです、はい、ほんとうです。ちょっと美少女率たけえな―と思ったぐらいで、はい」
「では入り給え。美少女のお宅訪問なんて素敵なサプライズだろう?」
「なんか市場に連れて行かれる子牛気分なんですけど!」
そうして佑駆は武闘派ヒロイン二人に引きずられて行った。
見届けていた警備員たちは何故か敬礼をしていた。誰も助けてくれやしなかった。
現在に至る。
なんで事務所に取調室みたいなのがあるのか考えたら怖かったが(後から聞いたら、ただの物置の中を突貫で片付けただけだったらしい)
事務机と普通の事務椅子に座らされて、なんで取り調べを受けているのか。
しかもレンジでチンしただけらしいカツ丼まで食わされそうになってる。
「え? 男の子ならこういうのが好きなんじゃないのかい?」
「男の子ってこういうので喜ぶんだよね、とかいって唐揚げ山盛り皿もってきそうなノリで出すんじゃねえ! 好きだよ!」
「やだ、熱烈?」
「そっちの好きじゃないんですけど?!」
「なにしてんだ、このチビ姉」
佑駆がカツ丼片手にサプライズ相手に惑わされているのをみながら、カトルカールが呆れた声を上げた。
ホットパンツにキャミソールだけというラフな格好だった。
折れた腕にはどこか古めかしい布を包帯のように巻きつけて吊り下げている。
「やあ、カトルカール。腕の調子は?」
「んー腕の骨折ならあと2~3時間ぐらいで治るんじゃないかな。悪いね、『
「大丈夫大丈夫、うちの子はそんな怪我しないからね。ストックも余裕あるからさ」
「攻防一体の
「グラス・イン・シーツ?」
「覆った箇所の傷があっという間に治る魔法の布さ。ま、難点はガラスケースにいれておかないと保存出来ないから使い捨てなんだよね」
「なにそれスゴイ」
ヒーローってのはさすがに違うな。
そういえば一度足とか折れてたり、死にそうだった重傷だったやつも、気がついたら復帰していて次の日元気に活動してたのはそういう理屈だったんだろう。
幻想彩臨以降、この世に
それは新種の植物だったり、まったく未知の特性を持った金属や、既に絶滅していたはずの動物の復活だったり、入るだけで傷が治ったり、若返りの作用がある泉の発見だったり。
現実にフィクションが現れて、当時の人間による作り話だと考えられていたようなお伽噺、神話の時代への回帰。
だから
「ま、作れるのが一人の手作業だから数に制限があるんだけど、なにか質問ある? ないなら話の続きをしよう」
「話の続きっていわれても……自己紹介しろってのはわかるよ?
ここまで抵抗しても無意味だと佑駆は自分の本名と自分が高校生だということは伝えた。
戸籍登録にも使われているISHNだから自分の身元もバレるだろう。
ヴィランによる事件で死亡した両親の代わりに生活費を出してくれている祖父母には迷惑をかけるが、最低でも海璃と岳流の二人に害が及ばなければいい。
この二人のことに関しては絶対に黙る。
最悪、力を使えば何も言わずに死ぬぐらいは出来る。
限界を超えて時間停止をすれば、心臓が止まることは経験済みだ。
「だけどそれ以外、不満とか、欲しい給料とかってなに? ヒーローにでも勧誘したいのかよ」
「え」
「えっ」
「えってなにさ」
二人の反応に、佑駆のほうが首を傾げた。
「いや、前から何度かスカウトの声はかけてたじゃん」
「公務員ヒーローはいいよ、給料も安定してるし。バックアップはめっちゃ手厚いし、ちょっとハードだけど」
「そうそう、慣れればいいさ。企業のと違って国がバックだからね、給料は安定してるし、仲間もいるよ! ちょっと忙しい時は忙しいけど、アットホームな職場さ」
「ブラック企業の代名詞じゃねえか!」
イヤ過ぎる。
佑駆とて無知ではない、これまでの自称ヒーロー活動で死んだ目になりながら活動している政府ヒーローやヒロインは何人も見ていた。
バックアップが豊富というのは大事にされているのは間違いないが、それは逆説的に言えば死なせないぞ❤というやつだ。
たまに企業に雇われている俳優が「政府はクソっすね! あんなのバカがやる仕事だよ、バカが! 週休一日も確保出来ない業務なんてやってられるか! もうブラック企業になんて戻らんぞ!」 と死んだ目で怒り猛っていたのは有名だ。
あれは確か俳優になるまではブラック企業の社畜だったとかいうプロフィールだったか。
そう考えると勧誘してくる二人はさながら地獄に引きずり込むカンダタの亡者共か。
「はっはっは、まあ三割冗談として」
七割本気!?
「一応そちらの言い分とか聞いておかないと、弁護士のほうにも準備があるからね。少しでも弁護で有利な心証用意しておかないと」
「弁護士? え、なんで? 俺もう逮捕されてんだろ、今から弁護人よんでくれるとか?」
刑事ドラマでの知識を思い浮かべながら喋る佑駆に、サプライズは「ああ」 と手を叩いて。
「まだ君逮捕されてないよ。政府のほうには内緒にしてるからね」
「情報はここで止めてるよ。抗生のほうにも貴方のことは現地協力者としか言ってないもん」
ねー、とロリ系な美少女二人が揃ってポーズを取る。
これはもしかしなくても自分がここにいることは殆ど誰も知らないのかも知れない。
そう考えると何故か佑駆は冷や汗が噴き出してくるのを自覚した。
(これって下手しなくても監禁コースとかそういうやつ? 言うこと聞かないと生きて戻れないとかそういうあれな)
どんどん膨れ上がる不安に、サプライズは改めて佑駆の前の椅子に腰掛ける。
「超速ヒーロークロック……今はジッターと名乗ってるようだけど、改めていうよ。君の能力とこれまでの活動、功績をわたしたちは高く評価してる」
佑駆の目を真正面から琥珀色の目が見据えた。
「君はヒーローになるべきだ。そのほうがよりもっと多くの人間を助けることが出来る」
静かに言い聞かせるように告げられた言葉は本当なのだろう。
事実、佑駆――クロックとて、何度か冗談交じりに、あるいは真剣味を帯びてスカウトされたことはある。
その度に曖昧に返答し、あるいは無視して、自分の正体もわからないヒーローにもなれない男は逃げ続けてきた。
それが今は真剣に、逃げ場もなく、勧誘されている。
承認欲求が満ちるのがわかる。
こんなチャンス多くはないと思う。
だがしかし、今は。
「いや無理だろ。俺嫌われてんだぜ?」
だから不可能だとクロック――佑駆は首を振った。
そんな明確な真実に、何故か二人は眉をひそめた。
「「は?
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