極限状態の中、人間の尊厳は保てるか!
- ★★★ Excellent!!!
おじいちゃんは元軍人だから、命令されたら聞くんじゃないかな。
孫娘の思いつきが、祖父の記憶を呼び戻す。
三十数年前、南方の戦場の生きるか死ぬかの過酷な状況から生還した男は、小さな町の病院のベッドで最期の時を迎えようとしていた。肝硬変に加え、脳軟化症に侵された男の認知機能は急速に悪化の一途を辿っている。
そこに聞こえてきた孫娘のこれを食えという命令。孫は何とかして祖父に食事を取らせたかっただけだ。
大岡昇平の野火を始めとして戦争中のカニバリズムに関して描いた作品は沢山ある。極限状態の中での行為だから仕方ないといえばそうなのだろう。
ただ、この作品では、最後の一文で救われます。お爺さんは、命令に従わなかった。で、孫の命令も聞かずに、最後は自我と人間としての尊厳を取り戻してあの世に旅立った。
重いテーマではあるが、孫娘の無邪気な仕草が重さを感じさせずに、すっきりとした読後感を与えてくれる秀才です。