第37話 敵になるはずの相手とはいえ、まずはこちらから上手く接触しないとね

「……という事で、魔界からこっち、タラマスカス国に連絡がくるやもですっ!!」


 俺はカラオケルームのホワイトボードに地図(うろ覚えのマップ)を描き、

 ゲーム内での敵の動きやこちらの進むルートを描いた、究極のネタバレである、

 いやまだおそらく魔物と繋がっていない段階でここまではっきり示すのはうさんくさいか。


(未来人みたいに見られてるっぽい感じもするし、まあ例えばってことで)


 壁際にずらっと座った面々、

 みんな様々な表情をしているな、

 渋い顔の者、腕を組んで目を瞑る者、テーブルの上のポテチを摘まむ者、ムキムキのハゲ……


(困ったらリーフ様に逃げるのはやめよう)


 部屋が沈黙に包まれ、

 大画面で意味の無いBGM付きCGが延々と流れる中、

 各自テーブルの上に置かれているタンバリンを最初に手にしたのは……ガルデーダスの国王陛下だった。


 シャンシャンシャンシャン


「はい陛下!」

「このお約束とやらは、本当に規則なのか?!」

「カラオケルームでの、暗黙の了解です!」


 発言したい人はタンバリンを挙げて鳴らさなければならない、

 おいらテイクの謎ルールがどこまで通じるかと思って悪戯半分で言ってみたけど、

 意外と受け入れてくれたな、一番くっそ硬そうな主人公の父が従ってくれるなら後はもう、好き放題できそうだ。


(ただなあ、微妙に勘付かれている気が、しないでもない)


 まあそこは、

 あくまで子供がやっているって事で許してもらおう、

 スノちゃんだって彼氏にナゲット食べさせてあげているし、って勇気あるなあ。


「それはともかく、タラマスカス国か……遠いな」

「流れで、本来の戦いの流れどうしても通るのであります!」

「しかしそれは先の、ダングルキアでグナガンが魔界と手を結んだ後の話だろう」


 大きく頷くおいら。


「でも、でも……このまま何事も起きないとは、思えないのです!」

「その理由は?」「そ、それは……そうなる、はず、と思うおいらがいる!」

「曖昧だな」「で、でも、やらないよりは、やっておいた方が、魔族と手を結ぶと決めつけないまでも!」


 ここでタンバリンをシャンシャン鳴らしてくれたのは、

 マティスリア国のペガサス騎兵隊四姉妹次女、レイラお姉さまだった。


「それもやはり天啓? そして天啓だってことは言うなと神様に言われたとか?」

「ん~~~……それは、天啓というよりも、天啓的な……そう、プリンセス・テンケー!!」


 シーンとするカラオケルーム、いや日本の脱出王の二代目でしてね、

 という説明が出来る訳もなく、重低音の心地よいリズムだけが流れ続ける……

 この画面どう切るんだろ、リーフ様に後で「俺ら東京さ行ぐだ」でも歌わせようと思っていたのだが。


 シャンシャンシャン……


 おお、我が愛しの大悪女、

 牙の抜かれた女ヴァンパイアことスティラ様がタンバリンを!

 中の人は花火大会で買った有料席へ行こうとしたら人が混んでて到着できず、ファミレスで飯食って帰ったとか。


「その天啓を下さった女神様はプリンセスなのですね?」

「まあ、そういうことにしておいてくだしい」

「しい、って可愛いわね」「とにかく、さぐりだけでも」


 オレンジジュースを半分まで飲んだスノちゃんもタンバリンを鳴らす。


「タラマスカス国については、飛竜の産地ということで私の両親も興味を持っておりました」

「ふむ、だがスノ姫、我が国でも遠いのだ、そちらからしてみたら途方もない距離であろう」

「いえ陛下、飛竜の機動力を考えれば、それ程では」「ならば我が国と共同で、連絡を取ってみよう」


 おお、マティスリアの姫とガルデーダスの国王陛下が話をまとめてくれそうだ!

 そこへぶっ込むかのようにゲーム本来の主人公、エリオ王子がタンバリンを揺らしながら挙げた。


「まずはこちらから貢物と言う形で近づいてみましょう」

「エリオ、それは良いが遠すぎて関係の無かった国だ、そう簡単に会って貰えるか」

「大きい国が間にふたつ、みっつ挟んでいますから、その全てとも話をすれば」「手間がかかるな」


 まあそんなに切羽詰っていない、はず。

 今度はペガサス隊長のドミニク様がタンバリンを、

 まるで『わが生涯に一片の悔いなし!』って感じで力強く掲げた!


「ではこちらの陛下に言って我々が同行しよう、貢物もこちらからも」

「それなんだけどね、普通の貢物じゃ響かないと思うんだ、そこでテイクくん」

「お、おいら? おいらは戦いには参加するけど、貢物にはならないよっ?!」


 エリオ王子、

 主人公だからって余計な事を……

 せっかく悪女ふたりを手に入れたのに!!


「ポ・イ・ン・ト」「あっ」

「沢山ため込んでいるんだろう?」

「で、でも、家電とか独自の食品とか、表に出しちゃ駄目だって」


 砂漠の国だからって冷蔵庫とか送ってどうするっていう、

 エナジードリンクとか空き缶の処理とか出来そうになさそうだし、

 何より変に元の世界、日本の科学とかこの世界に普及させない方が良い気がする。


「大丈夫だよ、いくつかお城にこっそり持ち帰ったけど、何も起きなかったよ」

「い、いつのまに?!」

「ふふ、あの絨毯をコロコロ転がしてゴミを取る道具、便利ね」


 ガルデーダスの王妃、

 そんなことやっているのか……いや自分じゃやってないか、

 メイドあたりにやらせてみたのだろう、使ってみて呪いか何かで苦しまないか見てたりとか。


「んーーー、みんな各自、自分でポイント稼いで!」

「おっ、じゃあここ独自の道具を贈り物にするのは否定しないんだね?」

「とはいっても電源ないでしょ、コンセントとか」「そうだね、あれは凄いね」


 砂漠の国をコンセント無しで涼しくするもの……うーん。


「あっそうだ!」

「テイクちゃんどうしたの」

「マリーヌちゃん、おいら、良い貢物を思いついた!!」


 しかも沢山贈れる!!

 それを見てエリオ王子も嬉しそうだ。


「それは何だい?」

「交換してからね! これで、

 かいけつじゅくじょ、しんぱいごむよーーー!!」


 いや今のはですね、

 そういうバラエティ番組が、

 ゴールデンタイムに『ザッツ! ウェディングベル』というお見合い番組が終わった後番組で……


「まあ、天啓を下さる女神様は、熟女なのですね」


 謎にフォローしてくれるスティラ様、

 ほんっと俺の、正妻感が増してきて嬉しいなぁ……

 でも、あと二人の悪女を手に入れる事は絶対にやらなきゃ!!

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