第17話 福岡県民、愛される。




 触れ合っていた唇が、ゆっくりと離れた。

 

「カリナ」


 名前を呼ばれるだけで心臓が跳ねる。


「カリナ――――」


 再び甘く触れあう。

 鼻に、額に、頬に。

 そしてまた唇に。


「カリナ、愛してる。ずっと俺の側にいろ」


 全身から力が抜けた。

 ロイ団長の首に抱き付き、わんわんと泣いてしまった。


「ほら、泣き止め」


 ボロボロと落ち続ける涙を、唇で受け止められる。

 泣き止ませ方がエロすぎる。


 やっと、言ってもらえた。

 やっと、ここにい続ける理由が出来た。

 やっと、決心が出来た。


「ここにおるっ! ずっと団長の側におるっ」

「ん。そこは団長じゃなく、『ロイ』と」

「…………ロ、ロイ?」


 なんとなく恥ずかしくて、俯いてもごもごしつつ呼び捨てにしてみた。


「本当のカリナは恥ずかしがりだったか…………。ん、可愛いな」


 また頬にキスされた。

 どうやら団長は甘やかす派らしい。

 

「ところでカリナ」

「んー?」


 ちゅちゅ、と頬に落とされるバードキスを、瞼を閉じて受けていた。


「『愛している』の返事は?」

「…………」

「カーリーナー?」

「っ!」


 両頬を包まれ、空色の瞳にジッと見つめられる。

 ガン見のレベルでジィィィィっと。

 アメとムチの使い分けが上手うますぎる。


「う、ウチも……すいとぉ」

「……」


 なぜか、眉間にシワを寄せられた。

 なんで不可解な顔なのだろうか?


「何故このタイミングで『水筒』が出てくるんだ?」


 ズコーッとコケたかった。


「すいとぉ――――好き、ってことっ!」


 ガシッと団長の両頬を掴んで、ブチュッとぶちかましてやった。




「……」


 視線が痛い。

 とても、痛い。


「ほおぉぉん」

「何だ? ひがみか? 美しくないぞ」


 団長が火に油をダクダクと注いでいく。


 ――――やめれ!


 朝の雑務をこなしに執務室に行ったら、ハンス副団長にドヤ顔で報告した。

 団長が。

 私の頬にキスをしながら。

 昨日から甘々すぎる。

 

「まぁ、職務中は控えるがな」


 そう言いつつ唇へ。

 ねちっこく、深いキス。


 副団長への煽りが酷すぎる。

 ガシガシと脛を蹴って蹴って蹴りまくった。


「そがんこつの為にキスば利用するのはすかん!」

「「……は?」」


 伝わらなかった。

 そもそも、いつもそんなに伝わっていなかった気がする。


「もー、めんどくさい。標準語で話す!」

「「駄目だ!」」


 息ぴったりで却下された。


「そもそもこの前、団長が普通に話せって言ったじゃないですか!」

「こら!」

「えぇぇ?」


 結局、いつも通り、ちゃんぽんな福岡方面の方言で話すことにしまった。


「あーもー! めんどくさか! さっさ仕事すっばい!」

「ん」

「はいはい。ではこれの整理をしてください」


 バサバサと書類を押し付けられた。

 ちょっとだけ腹いせをしているんじゃなかろうかと思える書類の量だった。



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