第16話 福岡県民、連れ去られる。
皆とおしゃべりしながら、ゆったりと歩いて貴族街に向かった。
キャッキャと笑いながら、なんの気兼ねもなく話す。
とても楽しい。
「あ、ここお手頃ですごく可愛いアクセサリーがあるんだよ。ちょっと寄っていかないかい?」
「わぁ、ぜひ!」
ちょっと寄り道したりして。
きちんと私達の懐事情も加味してくれているお店選び。
貴族の子たちって凄いなぁと感心した。
あとちょっとでカフェに到着だというところで前方を歩いていた子たちがピタリと止まった。
「あ、団長!」
「奇遇だな。そういえばお前たちも今日が休みだったな」
「「はい」」
「ん? なんだ、デートか。ちゃんとエスコートをし――――」
しまったなぁと思いつつ、ジョージの背中にそっと隠れたものの、私の動きでは騎士の鍛えられた動体視力を上回れるはずもなく。
「カリナ…………何をしている?」
団長の剣呑な雰囲気に皆が驚きつつも不思議そうにしていた。
どうやって切り抜けようかと思っていたら、いつの間にか目の前に来ていた団長にガシッと腕を掴まれていた。
「「団長?」」
「カリナに大切な用事がある。帰りは送り届けるから、心配するな」
団長が皆に、どこかに行く予定だったのかと確認して、カフェで自分の名前を出していい。好きに食べなさい。名刺の裏に書いたメモを渡しつつ、そう伝えていた。
ジョージとケニスくんが心配そうにこちらを見るので、無理矢理に笑顔を貼り付けて『大丈夫』と伝えた。
団長に手を繋がれ、黙々と歩いた。
馬車に乗せられて会話もないままに到着したのは、豪華でバカでかいお屋敷だった。
「団長……」
「……」
「ねぇ、ロイ団長」
「なんだ?」
「怖かっちゃけど――――あ。申し訳ございませんでした。少しで構いません、説明をしてほしいのですが」
「っ!」
何で団長が悲しそうな顔をするのだろうか。怯えたような顔をするのだろうか。
ずっと握られ続けている手首から、細かな振動が伝わってくる。
――――震えとる?
「団長、騎士団で働かせてくれてありがとうございました」
「は?」
「別の仕事探します」
「っ!」
一緒にいない方がいい。団長の為にも。
そう思って伝えたら、無言でグイグイと手を引かれ、サロンと言われる応接室のような場所に押し込まれた。
「座ってくれ」
「嫌です」
手首を離して欲しくて、団長の手に手を重ねると、また悲しそうな顔をされてしまった。
団長が何を考えているのか全く分からない。
「座ってくれ。頼む」
話が進まなさそうだし、仕方なくソファに座ると、団長はなぜか私の目の前に、片膝をついてしゃがみ込んだ。
そっと私の手を取り、手の甲にキスを落としてくる。
「…………どうか、俺だけを見てほしい」
――――ほえぇぇ⁉
「まっ……待って待って待って!」
「待たない。俺は考えた」
「え、何を……」
何を言い出すのかと思った。
「ずっと考えていた――――」
私が何かを怖がっているのには気付いていた。
何か不安を抱えている。でもそれが何か分からない。
大人だと言われて頭に浮かんだのは、口にも出せない言葉。
異世界から来たと解って、余計に踏み出せなくなった。
「カリナを引き止めてしまうから」
「っ…………なん、で?」
「いつか異世界に帰ってしまうだろう?」
帰れるか一切分からないのに、なぜかそんなことを言われる。
「酷い態度ばかり取ってすまなかった。……嫌なら殴れ」
そっと頬を包まれた。
近付く精悍な顔。
触れ合う唇。
――――殴れるわけ、ないやん。
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