第17話 身代わり
俺はふくよかな彼の頬に、思わず盛大にビンタをくらわした。
「お前!!なに馬鹿な妄想にふけっておる!!」
「えっ?てっきりカエザル様が男である私の体に欲情なさったのかと」
「はぁ、そんな馬鹿なことがあるわけないだろ!!」
「ではなぜ、服を脱がさせたのでしょうか?」
俺は自分が来ていた服をドッス・コイジャーに投げ渡した。
「これを着てカエザルになりきれ」
「俺はお前の服を着て、お前になる。この場所から一人でケイル村に向かうためだ。だがいつもの装いじゃ護衛の兵士がぞろぞろと集まってくる。だからお前の服を貸してほしい。その間は俺の服を着てこの場をどうにかやり過ごせ。」
「そういうことだったのですね。私はなんと早とちりなことを……」
――早とちりでも何でもないのだが。
俺はドッス・コイジャーのいつもの緑色の背広に袖を通す。
ドッス・コイジャーも俺の服に袖を通……せるわけもなく、サイズが合わない。つまり彼は俺の服を着ることができない。
さらに俺の筋肉質の標準体型では、ドッス・コイジャーのバカほどでかい背広では、どの寸法をとってもブカブカだった。
「カエザル様、さすがに私の服ではサイズが……」
俺はブカブカで両腕を通してもまだ余裕のある袖を、萌え袖のようにヒラヒラとした袖を振りながら、考えた。
この対格差から生じるスペースをどう埋めるか。
解決策はすでにもう目の前にあった。
俺の服で手を余らせるように、何度も何度も挑戦する彼の手に。
「なぁコイジャー?俺の服返してくれないか?さすがに、お前の服のこの余分なスペースを埋めるには、俺の体は細すぎる。これじゃまるでガキが来ているような見てくれだ。だから、俺の服でこの余分なスペースを埋める。」
「ですが、私は何を着れば」
「本当に申し訳ないが、そのままで」
「ですが、私にも仕事がありまして」
「じゃあ朝にまた会おう!!朝には戻ってくるから頼んだぞ」
俺は、巨体の彼が自身の大切なものを隠している様を横目で見ながら、髪型をササっと彼と同じにして、馬車から勢いよく逃げるように飛び降りた。
飛び降りた瞬間、腰回りが異様に軽いことに気が付いた。
剣を腰に携えるのを忘れている。
「コイジャー!!俺の剣取って!!」
「はっはい!?」
ドッス・コイジャーは自分の股の大切なところを両手で隠しながら、扉が開き切った馬車の壁に身を寄せながら、外から全裸だと気づかれないように、俺に剣を手渡した。
カエザルの身長は、ドッス・コイジャーより大きい。普通に歩いてしまえば、緑の服を着ている人が違う人間だとばれてしまう。
身長の差をごまかすために、俺は精一杯上半身を九の字に曲げるように猫背で歩く。何人ものすれ違う兵士の視線に警戒しながら、ややうつむき加減で顔がバレないように、ケイル村へ歩みを進めていく。
「コイジャー様!!」
俺はある兵士に背後から声をかけられてしまった。
まずい!振り返って返事をしてしまえば、目が合ってしまう。背格好や雰囲気などは誤魔化せても、顔だけはさすがに無理だ。
背後から声をかけられているが、もちろん振り返る選択肢はない。
ドッス・コイジャーの声を思い出して、精一杯声色をマネをしながら兵士の呼びかけに答えた。
「すまん、急いでいる」
俺は、夕日が沈みかかった薄暗い中を全力でケイル村に向けて走り出した。
汗っかきのドッス・コイジャーのベチョベチョになった緑色の背広が体にまとわりついて気持ちが悪い。
走っていると日が完全に沈み周囲は暗闇に包まれ始めた。
周りを確認し兵士たちが誰一人としていないことを確認すると、髪型をいつものカエザルヘアーに戻す。髪型がいつもと違うと、なんか違和感があって、つい頭をかいてしまう。
走って荒くなった息を整えながら、ケイル村の明りへと向かう。夜営をしている場所自体が、もうそこまで遠くない距離。少し歩いたら、ケイル村に到着した。
家の明りは点いているが、夜になったためが人影一つも見えやしない。とりあえず村の中の様子を見るのもかねて歩くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます