ナノボットを統べるケモ耳忍者と一緒にシルルRPG──戦国──

雪輪碧

第1章

闇の夜や自我まどはして鳴く狐

 あたりは暗くとても静か。風が山を追い越して、新緑の香りを届けてくれる。

 風を身に纏う百地新左衛門ももちしんざえもんは、ゆっくりと軒先のきさきに近づいた。周囲には彼と同じく山伏装束やまぶししょうぞくを身に纏う妖怪が三人いる。

 屋根から下を見れば、いくつかの篝火かがりびを確認できた。永遠にわかりあえない、人の価値観や思想を象徴するかのようにして、灯と闇が斑模様まだらもようをつくりだす。

「時間だ。行きます」

「しくじるなよ、新左衛門」

「……」

 白百合色しらゆりいろの毛、ふわふわの二尾、先のとがったケモ耳、美しい顔立ちをした石川五右衛門いしかわごえもんが釘を刺す。小町鼠色こまちねずいろの狐耳、毛先だけ小町鼠色の白くふさふさの二尾。白い頭髪は高い位置で一つ結び。フェイスラインに沿った髪の束を、鎖骨まで伸ばした少年・新左衛門は、五右衛門とシルエットだけが似ていた。

「新くん、気を付けてくださいね」

 半歩後ろに立った神戸小南かんべこなんが、優しく微笑みながら新左衛門に声をかける。

殺生石せっしょうせきに人のむくろを」

「「「殺生石に人の骸を」」」

 応仁の乱より九十三年後、永禄えいろく三年の十市城とおいちじょう。暗い朱殷色しゅあんいろの山伏装束が屋根から飛び降りた。漆黒色しっこくいろの山伏装束を身に纏う下柘植木猿しもつげきざるだけを残して。

 彼らは無駄のない動きで城内に忍び込む。情報通り、ここ十市城には同胞がいないらしく、予定通り誰にも感知されていない。人が妖怪と呼ぶ左螺旋ひだりらせんは耳と鼻がいい。

 三人は四方に散った。音もなく、人知を超えた速度で移動する。


 新左衛門は単独で二の丸に侵入した。目的地は、奥御殿おくごてんと名のついた寝所。目的は、奴隷にされているという女性の同胞を救い出すこと。

 無駄のない動きで、人の気配のあるふすまをほんの少しだけ開け、一つ一つ部屋内部を確認して回る。

 五つ目の襖に手をかけた新左衛門。ゆっくりとすべて開き、そのまま立ち尽くす。

 灯明皿とうみょうざらの灯に照らされる、色素の薄い黄金色の髪と狐耳。

 小袖がはだけて、太ももと乳房が見える。

 視界左下、紅色の打掛うちかけが投げ捨てられていた。

 闇が深深しんしんと舞い落ちる。

 刹那、頭に血液が巡る感覚。

 感情が高ぶり、視界が閉ざされていく。

 心拍数が上がり、呼吸が早くなる。

 仰向けに四肢が投げ出され、深く胸を上下させていた。

 宙に向けられた、あてやかな青い瞳の中。

 炎がゆらゆらと揺れ、きらめく涙を零す。

 次第に灯りは、失われていく。

「なんなんだよ、人間って……」

 城のつくり、大きさなどは、城主の血と汗と涙、そして繁栄の結晶といえる。十市城のひとつ前の城主の名は十市遠忠とおちとおただ。大和四家、大和五大豪族と呼ばれるまでに十市氏を繁栄に導いた。

 現在の城主は、息子の遠勝とおかつ。没落への道程は、遠勝の拙劣せつれつな行いの繰り返しだった。そして、木猿率いる伊賀衆の手によって、大和・十市氏の繁栄の物語は、終幕を迎えた。

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