【五枚目:色】
「それ……。拓海は写真を撮ってるの?」
高代悠斗と名乗る少年は、拓海の持っている一眼レフに興味を示していた。
悠斗には先程、「名前で呼んでくれ」と頼んだところだった。
「写真を撮るって言っても、完全に趣味なんだけどね」
乾いた布でレンズを拭きながら答える。
「じゃあ仕事は何してるの? もしかしてニートとか?」
「んなっ、ちゃんと働いてるわ!」
思わずツッコミを入れると、拓海は自分の仕事について説明した。
「ウェブデザイナーっていうんだけど、ウェブサイトのデザイン——つまり、ホームページの構成やレイアウトを考えて作成する仕事かな」
「なるほど……? でも、今ここにいるってことは、お休み中?」
「うーん、半分正解で半分不正解。休暇をもらって気分転換に来たってのもあるけど、サイトで使う写真を撮りに来たってのもある」
「へぇ〜」
悠斗が拓海を見上げるようにして顔を傾けると、黒髪が風になびいた。
「ねぇ、今までにたくさんの写真を撮ってきたんだよね? その写真、俺も見てみたい」
「えーっと、パソコンにデータ移しちゃってるから今ある分の画像しかないけど、それでもいいなら」
少し考えてからそう答えると、写真を見られる状態にしてからカメラを手渡した。
風と波の音が二人の耳をくすぐる。
「——俺」
しばらくして、悠斗はどこか寂しげな顔を見せると、画面から目を離さずに口を開いた。
「この町の外に出られないんだ」
「えっ……」
思わず言葉が詰まる。
固まっている拓海を横に、悠斗は構わず続けた。
「昔から体が弱くてさ。ベッドの上でおとなしくしてろって言われて、面白くない本ばっかり読まされて。あんなの、監禁されてるようなもんだよ」
一瞬の沈黙の後、悠斗はこちらを向くとにっこり微笑んだ。
「だからさ——いつか、外の世界を見てみたかったんだ。俺は本でしか読んだことがなかったから」
悠斗は少し眉を下げた後、もう一度笑顔に戻ると海を背中に両手を広げた。
「俺の世界に、拓海が色をつけてくれたんだよ。こんなに楽しかったのは久しぶりだ」
「はははっ、なんだ色って」
拓海は笑いそうになってしまうのを必死でこらえる。
「俺、結構真面目だったんだけどなー」
「もー拗ねるなって! 表現が独特だと思ったんだよ」
表情がころころ変わる悠斗を見ていると、拓海も自然と笑顔になっていた。
「ねぇ、このスズメ、どこで撮ったの?」
「これは会社の近くの公園だな」
「じゃあこっちは?」
「俺の彼女。コイツめちゃくちゃ可愛いんだよ〜」
「えっ、俺には猫に見えるんだけど……」
こんなやりとりを続けているうちに、太陽はあっという間に西に沈みかけていた。辺りもすっかり薄暗くなってきている。
「明日も写真見せてよ」
そう約束すると、悠斗は高台に向かって歩き出した。
「もう時間も遅いし、俺が送っていくよ」
拓海は悠斗に向かって声をかけたが、「俺を送った後、帰り道がわからなくなって拓海が迷子になると困るからね」と断られてしまった。
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