第229話 枕投げ

 とりあえず私が渡した寝間着は、着てくれる事になった。不承不承という感じだが、着てみるとやはり可愛い。

「あら、あらあらあら。可愛いじゃない。やっぱりゼスに似合うわ」

「そ、そうかのぅ。ワシでは基準がわからんでな」


「小さい頃は、よく寝間着のままでベッドに入らず、友達とおしゃべりしてて夜更かしして、怒られたものだわ」

 今となっては、すべてが懐かしい。あの頃にはもう戻れないのだから。

 私が懐かしさに顔を緩めてそんな事を言うものだから、ゼスも文句が言えないのだろう。寝間着のままベッドの上に寝て、私の話を聞いてくれている。

「特に剣術道場での合宿の時は、楽しかったわ。それこそ、おしゃべりから始まって、枕投げをして、師範代に怒られたっけ」


 そんな事を言ったら、ゼスが私の顔に向けて枕をほおってきた。「ぽすり」と柔らかく顔に当たるが、優しいものだ。

「仕方なかろう。付き合ってやるわい」

 ゼスがしょうがないという顔を私に向けてくる。私は、枕を投げ返した。もちろんゼスの顔に「ぼふっ」と当たった。

「やりおったな! 報復じゃ!」


 こうして、吸血鬼ふたりの夜は更けて行った。

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