第5話 転生者の考察

 この世界のシステムが分かってきた。

 あとは実際に、自分の身で試してみるしかないだろう。

(努力をすればどうにかなる、なんてのは甘い考えだな)

 そう考えたのは、そもそもどのような努力をすればいいのか、おおよその人間は分からないからだ。

 貧困国や貧困家庭などは、そこから脱却するための知識を知らなかった。

 つまり努力の仕方も分からなかったし、努力するほどの余裕もない。

 よって貧困は継承されていく。


 知は力だ。それは現世でも変わらない。

 だからこそディクスンは、ポイントを多く使ってこの立場を選んだ。

(ゲーム的な要素はあるけど、意外なほど理解されていない)

 書物で調べることが出来る環境にあった、自分はやはり幸運であった。

 本ばかり読んでいる子供、と言われても仕方がない。

 他には鍛錬をするぐらいで、遊ぶということがないのだ。


 だが前世ではどうであったか。

 個人の記憶というのは、残っていないのでどうしようもない。

 学んだ知識やゲームの記憶はあっても、自分自身のエピソード記憶がないのだ。

 自分は誰かであった、という記憶はある。

 それが思い出せないのは悔しいが、強烈に人格に刻まれたものがある。


 何かを成し遂げろ。

 承認欲求であるのか、名誉欲か性欲か、あるいは金銭欲か。

 人格の根底に、後悔というものが存在する。

 それがディクスンの学習や戦闘訓練の、モチベーションにつながっているのだ。


 クラスを二つも持っているのは、クラス取得というギフトのおかげではないかと考えた。

 これをLV2で持っていたなら、さらにもう一つクラスを持っていたのかもしれない。

(確かクラス特有の固有スキルもあったな)

 多くのスキルは一度獲得してしまえば、他のクラスでも使用出来る。

 だがクラス固定の限定されたスキルもある。


 クラスを二つ同時に持てるのは大きな利点である。

 もしも三つも四つも持てるなら、特に保持したいクラスがある。

 それは中級特殊職の探索者と、初級特殊職の荷役ポーターというクラスだ。

 探索者は特異なスキルを取得することが出来る。

 そして荷役は初級職であるのに、あのアイテムボックスを手に入れることが出来るのだ。

 ゲームの中では兵站を担うクラスであった。

 だがこの世界の現実としては、探索に不可欠なクラスに思える。


 魔法でも魔道具でも、アイテムボックスや収納と言われるものはある。

 だが個人としては、なかなかスキルとして身に着けることは難しい。

 魔法戦士は魔法も使う戦闘職として、武器収納のスキルはある。

 これは一つだけだが、収納空間に武器を入れられるというものだ。


 戦闘技術は魔法戦士、そして魔法への抵抗は神官。

 成長と探求の女神の寵愛を受け、さらなるスキルが獲得出来るかもしれない。

 いらないものであったか、と思ったギフトもある。

 しかしその詳細が明らかになってくるに従って、有効に使うことが出来るような気配もある。

 だが一発逆転のスキルなどはない。

 それでも積み重ねていく経験を、効率的に得られるというのは、やはりチートなのであろう。




 ディクスンの願いは、何かを成し遂げること。

 その選択肢は色々と存在する。

 辺境伯家に残るなら、騎士や官僚として最下級の貴族にはなれる。

 あとは娘しかいない貴族家に、婿入りするという手段もある。

 正妻の息子であるため、母型の血筋も伯爵家の良血なのだ。


 あとは王都で学び、王家直属の貴族となること。

 そうなれば断絶している貴族家を、復興されることが許されるかもしれない。

 王家直属の貴族となれば、戦功を上げて継承権を持つ貴族になれる可能性もある。

 これもめったにないが、国境では戦争が行われていることがあるのだ。

 世が乱れているというのは、手柄を立てる機会がある、ということだ。


 あとは探索者になる選択もある。

 斥候というクラスの上位の中級クラス。

 職業としても存在し、クラスとしても存在する。

 役割としては、異界と呼ばれる場所を探索し、魔境を少しずつ開拓していく。

 自分の領地を得ることは、貴族にとっては一番の功績。

 土地持ちの貴族というのは、基本的に子孫に継承することが出来る。

 もっとも子供の代を考えるなど、まだ早すぎるであろう。


 最初に確かめたいのは、レベルアップの検証である。

 つまり自らの手によって、魔物なり人間なりを殺さないといけない。

 辺境伯家の騎士や兵士に守られて、パワーレベリングを行うべきか。

 だがこの世界は最弱の魔物であっても、それなりに危険な存在だ。


 ゴブリンという魔物がいる。

 作品によっては魔物でなかったりするが、この世界では魔物だ。

 これも前世の架空の存在であったが、こちらには現実としているのだ。

 ただゴブリンにも亜種がいて、強いゴブリンもいる。

 人間に強い人間がいるのだから、ゴブリンにも強いゴブリンがいるのだ。

 そう言われてみれば、確かに当たり前かもしれない。

(前世の創作のゴブリンは、この世界からもたらされたのかな?)

 転生者が何人もいると考えると、疑問が少し解消する。

 この世界の美的センスや、文明様式が前世と似ているのも、その影響かもしれない。


 地球からの転生者に、あるいは別世界からの転生者もいるかもしれない。

 そういうことを考えると、今の自分の状況も、圧倒的に有利なわけではない。

 あの転生のシステムで、偏ったギフトを獲得したらどうだったろう。

(ただ転生者は、この世界では天界からの降臨という扱いか)

 異世界からではないというのは、この世界の宗教観であろうか。


 実際に神がいる世界なのだ。

 ディクスンは神の寵愛を受けている。

(現世利益を約束してくれる、本当に存在する神なら、いてもいいだろうな)

 もっとも邪神という存在も、間違いなくいるはずなのだ。

 それがどこに封じられているかというと、魔境の中のダンジョンの、深い果ての底であるという。


 異界というのも最初は分からなかったが、俗に言われるダンジョンのことだ。

 迷宮などという本来の言葉ではなく、まさに異世界に近い亜空間。

 領都の近くにもあるが、内部には山があったり草原があったり、異なる世界が広がっているらしい。

 確かにゲームでそういうタイプのダンジョンもあったな、と前世の知識を探ってみる。

 物語の中には、色々な区別があったものだ。


 本格的なレベルアップを考えていきたい。

 ディクスンはそう考えて、父に打ち明けることとした。

 これ以上一人で調べるのには限界があったし、レベルを上げるのにもさすがに一人では危険が多い。

 協力者が必要だとは思ったし、その協力者は権力を持っていることが望ましい。

 そしてディクスンを始末するのは惜しい、と考えてくれる人間でなければいけない。


 傅役に相談しても、最終的には父の耳に入るので、やはり直接父に説明すべきだ。

(問題はどう説明するべきかだが……)

 下手に嘘をついても、後で辻褄が合わなくなる。

 正直に言って、向こうがどう反応するか、少し賭けかもしれない。




 コルネリウス家当主クラウディスは、その日も執務を行っていた。

 辺境の武門と言っても、その統治の内容は、間違いなく文官を必要とするものである。

 そのクラウディスがディクスンにつけている傅役から、息子が二人きりで話したいと伝えられた。

 クラウディスは普段も子供たちと対する時は、一対一で話すことが多い。

 ただ向こうからそれを求められたのは、ディクスンは初めてであった。


 傅役の騎士からは、おとなしいが学習意欲は高く、我慢強い気質であると報告は受けている。

 また魔法に没頭して、古代魔道語の本を読んだりするあたり、かなり賢いのではないかとも聞いている。

 子供が優秀であるのは、親として純粋に嬉しいことだ。

 だが下手に扱うと貴族にとっては、後継騒動の火種になりかねない。


 執務室の椅子に座り、親子は対面する。

「先日頭の中に声が響いて、魔法戦士のクラスを獲得しました、と聞こえたのです」

 クラウディスはその言葉の意味を、しばし考えた。

 そしてとりあえず、事実かどうかを、単純に確認することにした。

「付いて来い」

 誰かに任せるのではなく、自分一人で確認する。

 そんな態度を見せた父に対して、ディクスンは少し安心した。

 どの方向に判断するにせよ、他の誰かに知らせることはない。


 施錠された部屋の中、さらに施錠された引き出しから、クラウディスは魔法具を取り出す。

 いつかディクスンが見た板と、似たようなものである。

 だが装飾などがあり、明らかにこちらは上等のものだと分かる。

「これにしばし触れるのだ」

 ディクスンが言うとおりにすると、しばしの後に文字と数字が浮かび上がる。

 それをクラウディスは一人で見て、考え込むことになった。




 ステータスの鑑定というのは、この世界では特にやるものではない。

 もちろん必要な時はあるが、普通にスキルなどを獲得すると、なんとなく出来るようになったな、という感覚を持つらしい。

 この常識をディクスンが知ったのは、もう少し後になってからのことである。

 前世で言うならば、たとえ鍛えていたとしても、毎日のように筋力の増加を計測するか、という感覚に近い。


 学力のテストでも、毎日などは行わず、定期的に何度か行う程度であった。

 それも現代の話であり、それ以前は学力など、滅多に測るものでもなかった。

 同じように少なくともバランシア王国では、ステータスの証明は必要な時にするものであって、滅多にするものではない。

 もっともこれまた後に知ることだが、魔境や異界を攻略する探索者は、魔物の能力を看破する必要がある。

 そのためのスキルを得るのに適したクラスもある。


 やがてクラウディスは、ディクスンにその板を渡す。

 そこにあったのは、ディクスンがちゃんと偽装した、それでいて追加されたスキルは正直に表記したものであった。

 そしてクラスには、魔法戦士と神官がある。

 また称号のところにも、神の恩寵が記してあった。


「聞いたことはないが、神の加護を得たならば、そういうこともあるのだろう」

 一般的な人間と違い、ディクスンはギフトの数がやや少なかった。

 ただ毒耐性に魔力感知という、有用なギフトを持っているのでバランスはいいのかと思ったものである。

「本来ならば……いや、そうでもないか」

 神殿に相談してみる、という選択をクラウディスは消す。

「神官のクラスを得たときに、何か出来そうだと思ったものはないか?」

「神官のクラスですか」

 そういえば魔法戦士はともかく、神官のクラスは告げられていなかった。

 

 自分の中に、神官の力がある。

 そう考えると、出来そうなことが一つ浮かんだ。

『閲覧』

 ディクスンの考えていた通りに、目の前にホログラムのように浮かんだもの。

 それはディクスンが今見た、自分自身のステータスであった。


 成長と探求の神というのは、こういうことが出来るのか。

 ただこれではギフトで持っている、ステータス閲覧が死にギフトになってしまっている。

「それは自分のみにしか使えんのか?」

「どうでしょう。父上で試してみても?」

 レベル2のステータス閲覧では、他人も一部は見ることが出来た。

「うむ、かまわん」

『閲覧』

 そして見えたのは、クラウディスのステータスの一部。

 補正値やスキルなどは見られなかったが、種族や年齢、そしてレベルまでは分かった。

 スキルの閲覧と、神官スキルの閲覧は、別のものであるのか。


 実際のステータスやスキルはともかく、クラスが高騎士でレベルが48というのは分かった。

 おそらくものすごく強いのであろう。

「ふむ、他人の力はほとんど分からんのか」

「しかし位階だけでも、それなりに有用ではないでしょうか」

「うむ、神官としての力を高めていけば、詳しく見られるかもしれんな」

 神官は恩寵を与えてくれた神によって、その使える力は変わるらしい。

 ただこれはまだ未熟ではあるが、鑑定の力だ。


 高位階レベル詐欺、と言われるものもある。

 レベルだけは上がっているが、ステータスが上がらずスキルも成長していない、周囲の力で魔物などを倒した貴族を揶揄する言葉だ。

 それでも基本的にレベルは、強さに直結するものである。

(レベルが分かるだけでも、ある程度の危険度は分かるか)

 異世界転生標準セットのうち、まず第一とされる鑑定能力。

 まだ未熟であるが、これを伸ばせるなら、戦闘ではかなり有利になるだろう。


 神の力にしては地味、と言われるかもしれない。

 だが成長性としては、極めて有益なものだ。

「父上、一度魔境か異界で、加護を得てみたいのですが」

「ふむ」 

 クラウディスはまた黙考するが、ディクスンが無茶をしない性格であることは聞いている。

「少し準備に時間がかかるな。しばし待ちつつ、今までどおりに励むがよい」

 レベルをまずは2に上げてみる。

 そこでどういった成長が起こるのだろうか。

 自分の成長に期待をしてしまう。 

(どれだけ強くなれるのかな)

 ディクスンはその興奮を抑えて、来るべき時を待つのであった。

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