第4話 攻略本を作ろう

 この世界に名前はない。

 地球にも、世界としての名前がなかったのと同じことだ。

 強いて言うならば「天地」というのが一般的に使われる。

 天は神々の住まう場所で、地は人間の住まう場所。

 ならば人間は死ねばどうなるのか、という当然の疑問も浮かんでくる。

 基本的には転生するが、一部の人間は神々に認められ従属神となる。

 強大な力を持つ者が神々の仲間入りをする目的は、太古に封じた邪神との再戦のためであるという。

(なんだかなあ)

 どこかで聞いたような話だ。


 さすがに大陸は認識されていて、国の名前もある。

 バランシア連合王国という名前で、建国から600年。

 藩屏となる国家と連合していて、その盟主となっている。

 他国や有力貴族と婚姻を結び、国家規模ではおおよそ安定している。

 ただ蛮族とする部族国家とは戦争があるし、お家騒動というものもある。

 コルネリウス家は長男がいて、バックアップの次男もあるので、おおよそ問題はない状態だ。


 側室の子供は女子が二人ずつで、全員がディクスンと同年齢か少し年下だ。

 愛人の子供は五人以上いるらしいが、母親の階級で貴族かどうかは決まる。

 ただ貴族ではない子供にも、教育は受けさせているのがコルネリウス家だ。

 開拓村の代官などにするには、やはり血を分けた息子がいいと考えるからだ。

 そういった分家が領内には多い。


 バランシアは王都と、連合する各大公国に、大きな教育機関がある。

 コルネリウス辺境伯の領都には、それなりの教育機関があるものの、正規の騎士や官僚になるには不充分。

 ここで優秀な成績を修めれば、王都に推薦される、という制度がある。

 あるいは次期当主の側近候補として、一緒に送られることもある。


 ディクスンはそういったことを、色々な話を聞いて知識を増やす。

 そしていよいよ、魔法などの授業に入っていく。

 世界には人間の他に、魔物が魔力を持っている。

 強力な魔物と対決するために、人間は神々の加護を得ている。

 普通の野生動物ならば、熊のような大きさの獣でも、充分に素手で勝てるのがこの世界の人間だ。

 もちろんそれなりに鍛えている戦士であることが前提だが。


「しかし知識ばかり増やしていても、実戦的ではありません」

 武門の家であるだけに、幼少期の頃から訓練は始まる。

 前衛の戦士たちは、ステータスの補整で一息に、後衛の魔法使いたちを潰す。

 それを守るのも前衛の役割なのだが、実際の戦いがどういうものなのか、ディクスンには分からない。

 だが剣と槍を毎日振るい、そして斧で薪を割る。

 薪はついでに焼くことにも使う。


 この世界のエネルギー源として、供給が安定して使えるのは、一つに魔石というものである。

 魔物の魔力がそのまま結晶化したもので、これを燃料として使っている。

 もう一つが魔結晶で、これは魔力の強い土地で産出される。

 石炭と石油、あるいは石炭と木炭の関係に近いだろうか。


 そのエネルギー源による文明の発達度合いが、近世に近いものとなっている。

 ただ王権は多くの国で残っているのだ。

(あとは銃だけど、発達するのかな)

 今の技術レベルでも、魔石を火薬代わりにした銃は作れる。

 だが魔法の方がまだまだ、戦闘では有効なのだ。

 また火薬そのものも、おそらくは作れるであろう。

 だが発想している者がいないか、いても武器として定着していない。


 ギフトで選んだ魔力感知に魔力操作。

 これのサポートもあってか、ディクスンはすぐに初級の魔法をいくつか使えるようになっていた。

 一般人でもある程度は使えることが多い、着火、光明、水作成、微風、暗幕、清浄、硬化。

 着火に光明、水作成に清浄は、かなり便利である。 

 そう思った四つは、教えてもらった初日に使えるようになった。

 天才的というほどではないが、かなり早い習得速度と言われた。


 特に水作成はとても役に立つ魔法であった。

 純粋に水を作成するというのも、当然ながら飲料水として役に立つ。

 だがそれ以上に役に立ったのは、MPの消耗や魔力による作成量の違いで、色々と検証することが出来るようになったからだ。


 初級魔法というのはスキルとして手に入った。

 どの魔法を使うにしても、MPは必ず消耗する。

 しかし魔力が高ければ、1MPを使って作成する水の量も変化する。

(魔法の理屈が分からん)

 魔力感知に魔力操作、というギフトが下手にあるからだろうか。

(なぜ何もないところから、水が出てくる? 火や光はまだしも、エネルギーを水の質量にどう変換してるんだ?)

 これは前世知識によるもので、この世界の常識からすると、魔力が単純な物質に変化するのは普通のことである。




 まだ体は小さいが、剣と槍の修行も本格的になってきた。

 個人的には槍はともかく、剣はあまり好みではないのは、前世知識のためか。

 それよりは戦斧や、戦鎚などの方が効果的だと思える。

 もっとも今の筋力では、扱える重さではない。

 ただ前世の中世の戦闘とは、この世界は違うところが大きい。


 ゲームの知識だったらある。

 神器と呼ばれていた、12個の武器。

 実際に歴史書にも登場するが、現時点でいくつかは200年前の戦争により、行方不明となっている。

 その中には剣もあれば槍もあり、斧もある。

 投擲武器としては弓もあるし、杖などもあるのだ。


(魔法に関しては、理論的な分類よりも、活用的な分類がされてるな)

 ただ当然のものとして受け止められていることもあれば、基礎研究的に学問とされていることもある。

 辺境伯家の書庫には、そこまで魔法の基礎研究を書いた本はなかった。

 実戦に関する魔法や、その習得については多く、所蔵されていたのだが。


 辺境伯家は武門の家柄で、魔法の兵団も抱えているが、基本は近接戦闘が多い。

 貴族として生まれたからには、それに相応しい教育を受け、人類の生存領域を広げていく必要がある。

 下手に開拓を続けていくと環境を破壊してしまうのではとも思ったが、環境汚染に書かれた本などは見つからない。


 

 

 一年も経過しないうちには、ディクスンはいくつかの魔法を使えるようになった。

 魔法のクラスになくても、魔法自体は使えるのだ。

 そして剣術や槍術も熟練してくる。

 そんなある日、頭の中に声が響く。

『魔法戦士のクラスを取得しました』

 そんな話は聞いていないディクスンである。


 普通は10歳から12歳ぐらいの年齢で、成長の神の神官によって、選択出来るクラスの中から選んでいくものらしい。

 この世界は一神教に近いが、あくまでも多神教。

 人間の成長を司る神もいる。

 クラスを突然に与えられた、という人間の例はあるらしい。

 あくまで自己申告で、こっそりと神官に儀式をしてもらったという可能性はある。

 だが特定のクラスは、神官の力で与えられるものではない。

 少なくともゲームでは、特殊なイベントでそうなっていた。


 ステータス閲覧というのは、レベル1を取っていたのみだが、それでもそれなりに役に立ってくれている。


名前 ディクスン・コルネリウス

性別 男

種族 人間

年齢 6

称号 成長と探求の女神メルシアの恩寵

状態 平常 女神の恩寵

レベル 1

クラス 魔法戦士LV 1  神官LV 1

ステータス

 HP 84

 MP 103

 筋力 14  体力 14  器用 14

 敏捷 14  頑強 14  柔軟 14

 感覚 17  魔力 17  知力 16

 精神 18  幸運 17  魅力 12


 クラスが二つ存在する。

 表示される内容も増え、レベルは変わらないがステータスは変化している。

 これはクラスによってステータス補整が加わるということだろうか。

(ゲームではこうじゃなかった気がする)

 何より称号のところが変化しているが、これが関係しているのだろうか。

 またスキルも変化していた。


スキル

 精神耐性LV2 肉体耐性LV1 身体強化LV2 高速回復LV2 高速治癒LV2

 武器収納LV1 武器戦闘LV1 攻撃魔法LV1 付与魔法LV1 強化魔法LV1

 祈祷法術LV1 HP消費軽減LV1 MP消費軽減LV1 斬撃LV1 刺突LV1

 魔道LV1 神託LV1 


 元から持っていたものは、LV2に上がっている場合がある。

 他のスキルはおそらく、クラスに付随して使えるようになったものか。

(クラスを同時に二つも取得出来たか?)

 そもそも一般的に存在するクラスは、神官の儀式なしでは取得出来ないのが、ゲームであったはずだが。

 もしやクラス取得という死にギフトと思っていたものによって、二つ目のクラスを獲得出来たというのだろうか。


 もちろんこの世界を元にゲームを作ったとしても、そのままに反映したわけではないだろう。

 そう考えるとゲーム知識だけを元に成長を考えるのは無理がある。

 特殊なクラスは獲得に、神官が不可欠というわけではなかった。

 ただ一般のクラスを獲得出来たのは、ディクスンが神官というクラスになったからかもしれない。

 あまり信心深い方ではなかったと思うのだが。


「これは記録を残しておく必要はあるな」

 ステータスやスキルというものは、あくまでもディクスンの知識に合わせたものだ。

 また歴史においても、知らないことが多すぎる。

 コルネルウス辺境伯家についても、静謐の血統が入っている。

 精神のステータスが上がりやすいのは、そのあたりも歓迎しているのかもしれない。


 ステータスの上昇に偏りがあるのはなぜなのか。

 特に魅力が1しか上がっていないのは気になる。

 筋力 12→14(+2)  体力 12→14(+2)  器用 12→14(+2)

 敏捷 12→14(+2)  頑強 12→14(+2)  柔軟 12→14(+2)

 感覚 13→17(+4)  魔力 13→17(+4)  知力 13→16(+3)

 精神 13→18(+5)  幸運 15→17(+2)  魅力 11→12(+1)

 この魅力というのは単純な、外見の美形度でないことは分かる。 

 それにしても肉体的な要素より、知力や精神が上がっているのはどうしてなのか。

 推測するに魔法戦士はおそらく、肉体も精神も同じように上がる。

 神官は精神の方に、より大きな補整がかかっていると考えるべきか。


 一応は書物にも、前衛職は肉体の、魔法職は精神のステータスが上がりやすいとは書いてあった。

 どれだけの数値が上がるのか、ということまでは解明されていなかったが。

 おそらくはレベルアップの折に、個人差があるからだろう。

 今回のディクスンのクラス獲得は、レベルアップを伴わなかった。

 だから純粋に、補整値が分かるとも言える。


 実戦で試すなら、10歳にもならないうちに、戦場に出ることになる。

 だがステータスの上昇を考えれば、自分の体で試すのが一番なのだ。

 前衛職はレベルが上がっても、肉体の能力が上がりやすい。

 後衛の特に魔法使いは、知力や魔力が上がりやすい。

 精神が多く上がったのは神官のクラスによるもので、書物によると神官は魔法や呪いに対する抵抗力が高いので、こうなっているのだろう。


 魔法の研究などは、魔法使いがやることである。

 しかしステータスやスキルの研究などは、神殿が行っている。

 神の加護を考察することは、そのまま神に近づくことになる。

(神官になるって、熱心な信者でもないのに、他の理由があるのか?)

 そうディクスンは思っているが、実は根本的に宗教的な倫理観を持っている。

 歪んだ信仰こそが、世界に戦乱を招いた前世とは違う。




 一番気になったギフトの成長が一つ。

 ステータス閲覧が、レベル2になっていた。

 レベルが2になったことで分かったのは、自分のレベルやスキル熟練度がおおよそどうなっているか。

 そして自分以外のステータスを、一部だが見られるようになったことだ。


 レベル、この世界では現地語で、位階というものだ。

 そしてレベルアップをすることを、加護を得るというのだ。

 先天的なギフトを天恵、後天的に得るスキルを恩恵。

 クラスは職階という意味を持っているが、これはゲームの知識と比較したものだ。


 ステータスについては、素の身体能力や精神能力を、向上させるためのもの。

 しかしその素の身体能力などは、調べた限りでは分からない。

 そもそも同じ筋力は10とされても、腕の筋肉が発達している人間と、足の筋肉が発達している人間がいるので、数値化は難しいだろう。

 筋力の一言でまとめてしまうのが乱暴なのだ。


 様々な書物の知識と、自分の肉体での検証。

 ゲームの世界はおおよそ、分かりやすくしてある。

 今は身体全体の補整値ということは間違いない。

 ステータス上昇にしても、即座に上がる感じはない。

 しばらく時間をかけて、体に馴染んでいくのだ。

 確かにすぐに上がってしまえば、むしろその上昇したステータスに振り回されてしまうだろう。


 基本的な肉体の能力。

 それを増加させる、レベルアップによる加護。

 スキルにも力や敏捷度を上げるものがある。

 たとえば身体強化などは、あらゆる要素を一割ほども上げると言われている。

 その身体強化を、ディクスンは持っている。

 これを使っていくと、HPが減少していくのだ。


 HPはライフ、生命力と言うよりは、スタミナに近いものなのだろう。

 スキルの中にはこれを使って、一定の時間を強化するものがある。

 ディクスンの取った身体強化などは、その一例である。

 ただHPには体力の要素もあるので、減りすぎるとやはり死んでしまう。

 普通に魔法でHPを回復させたり、スキルによってHPを消耗しつつ傷の治癒なども出来る。


 世間の人々は、これだけ分かりやすい世界でありながら、己の力を伸ばすことに無頓着らしい。

 だが前世にしても、勉強をすれば学力が上がるし、運動をすれば体力が上がると分かっていながら、やれていない人間は多かったのだ。

(レベル上げはまだ無理として、スキルの獲得は出来るはずだし、やっぱりこれは熟練したら上がっていくみたいだ)

 そうやって自分で試しながら、ディクスンは前世と同じ気質で、確かに自分のステータス閲覧で分かる、自分の力を伸ばしていくのであった。

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