第3話 コルネリウス辺境伯家

 この世界をどう生きるべきなのか。

 ディクスンはまず大前提を考えていた。

 今のこの世界には、魔王などはいない。

 ある程度の乱世ではあるが、他国と接したこの辺境伯家でも、臨戦態勢というわけでもない。

 全く問題のない平穏でもないが。


 辺境伯家とディクスンは認識しているが、実際の言葉の意味は前世の爵位のシステムと違う。

 ヨーロッパの爵位と中国の爵位が違ったようなものだ。

 伯爵と辺境伯は上級の貴族である。

(確か前世でも、侯爵と辺境伯が同じ呼び名の国がなかったかな?)

 立場としては辺境伯の方が伯爵よりも、権力的に上である扱いらしい。

 公爵は王族の分家であり、権威はあるが兵力や財力自体は、伯爵以下の貴族の方が強い。


 ゲームの2の最後を思い出す。

 主人公とヒロインがくっついたが、仲間の中の何人かが公爵となっている。

 それがこの200年後まで続いていて、大公国という国になっている。

 そして伯爵というのは、王国の大臣を務めるために必要な爵位だ。

 辺境伯の場合は独自に、軍事権を持っている。

 騎士団を持っているというのが、圧倒的に強いのだ。

 爵位を継ぐ長男以外は、おおよそ婿入りするか騎士や官僚を目指す。

 転生して現在の状況を、俯瞰的に理解できるというのはアドバンテージだ。


 平民が貴族になるということも、ないわけではない。

 だが多くは一代限りのものであり、そこから世襲貴族になるには、自ら基盤を作っていく必要がある。

(乱世なら成り上がりものも、あったかもしれない)

 実際に紛争続きの他国では、成り上がっている例もある。

 しかし下手に貴族である自分が、他国の貴族となるのは難しい。


 王国貴族は王家直属の貴族と、伯爵家、辺境伯家配下の貴族の二つに分かれる。

 広大な領地を持つ辺境伯は、特に半独立の気風がある。

「何をすべきか……」

 ステータス配分などで、既に少しは失敗している。

 それでも方針を決定するという点では、他の幼児よりもずっと先行している。

「普通に生きるだけなら、士官学校か学術院に進むか……」

 士官学校を卒業すれば騎士となり、一代の貴族となれる上に、功績を立てればその貴族籍を相続出来る。

 また学術院からは官僚が出ているし、学者として名声を得るという手段もあるだろう。

 この家に生まれたという時点で、取れる選択肢が多い。


 辺境伯領は現在隣国と紛争状態にはないが、それでも大きな武力を抱えているのは、巨大な魔境に接しているからだ。

 ゲームの世界において魔境は、1では戦闘してレベルアップをする場所であった。

 2でもSLGではなくRPG要素がそこにはあり、少数精鋭で潜っていく場所だった。

 この認識はどうやら今でも、おおよそ正しいらしい。

 軍の規模で魔境に入ると、むしろ危険である。魔物を刺激して移動中に襲撃を受けるからだ。

 だが魔境から魔物と戦うためには、軍の力が必要となる。


 この軍の力を維持するために、探索者というものが存在する。

 ゲームではそんなものはなかったが、傭兵ギルドに近い冒険者ギルドというものが存在する。

 前世の知識で翻訳しているので、実際には違うものだろうが。

 魔境に入り込み、魔物を狩って糧を得る。

 その仕事の一つに、少数の兵や騎士を同行させ、魔物と戦うというものがある。

 つまりはパワーレベリングだ。


 レベル上げにもコツがある。

 クラスによる補整もあるし、また人によって上がりやすいステータスは違う。

 ただ魔物を倒しても、単純にとどめだけをさすとか、そういうことではあまり経験値らしいものは入らない。

 またそうやってレベルを上げても、ステータス補整値はさほど上がらない。

 それでも軍を率いる貴族はある程度、レベルを上げていく必要がある。

 死ににくいというのは指揮官となる貴族にとって、重要なことなのだ。


 ステータスはレベルが1上がれば、幸運と魅力以外の項目が最低1は上がる。

 良成長のギフトは、LV1であるとさらにそれに1が加えられる。 

 だからこのギフトは高ければ高いほど、大器晩成になるものであった。

 もっとも取らなかったのはもう仕方がないし、1レベルでもあるだけ長期的に見れば有利にはなる。

 こういったことを調べられるだけでも、高位貴族の家に生まれた価値はある。

 五歳にもなれば幼年期の学習も始まるのが貴族である。

 また武門の家だけあって、早くから訓練を始めるのだ。


 10歳になったら神殿の聖別により、クラスを授けられる。

 その時には現在持っている、スキルによって選択できるクラスが変わる。

 そしてクラスを選べば、スキルの獲得に補正がかかる。

 色々と調べてみた結果、ディクスンはいくつかのクラスを候補としている。

「父上はどんなクラスなのですか?」

 ディクスンは傅役の老騎士ルクスに、それを尋ねる。

「旦那様は高騎士ですな」

 クラスにはその取得スキルや補整によって、初球から中級、上級まで便宜的に分類されている。

 ゲームの知識の最上級クラスも、伝説のものとして存在する。


 高騎士はその上級クラスだ。

 さすがに辺境伯家の当主ともなれば、それぐらいは鍛えられているのだろう。

 前衛物理職であり、相当強力なクラスである。

 ただ魔法に対する耐性などは、それほどでもない。

 騎士には社会階級としての騎士と、クラスとしての騎士がある。

 この場合の高騎士はクラスであるが、階級としては辺境伯という貴族なのだ。


 ほとんどの戦士階級は、剣士や兵士、戦士といった初級職に最初は就く。

 スキルを獲得できるし、スキル習得の熟練度も高くなる。

 ステータス補整についても、有利になるのは間違いない。

 肉体のステータスも、前衛職は上がりやすい。

 クラスの補整値を考えれば、選択すべきクラスも決まってくる。


 ディクスンの場合は魔法への適性も、おそらくは高い。

 獲得したギフトの中に、魔法使い向けのものが多いからだ。

 何より魔法がある世界。

 憧れがあっても当然であろう。


 前衛攻撃系スキルと、魔法系スキルを持っていれば、魔法も使える戦闘職に就くことが出来る。

 後衛職は連携して戦うのに必要なクラスであるが、接近戦には弱い。

 10歳のクラス選択までに、武器系スキルと魔法スキルを獲得し、狙うのはいきなり中級職の魔法戦士。

 戦士系と魔法系の両方に補整のかかるクラスは多いが、最初に選べるとしたら魔法戦士が限界であろう。

 ステータス上昇の補整も高いが、取得できるスキルの量が多い。




 嫡男である長男アルフレッドと、その予備である次男ベルモントは、相当に家風まで含めた教育をされている。

 特にアルフレッドは、王都の教育機関に入っていった。

 それに比べるとディクスンは、貴族としては相応しい教育を受けているが、その適正を見られているような気がする。

 三男ともなると家を継ぐことはあまり考えられない。

 しかし貴族の子弟としては、それなりの教育を受けられる。

 ディクスンが積極的に知識を吸収しているのを見て、そちらが向いているのか、と考えられたのかもしれない。

「父上、剣や槍の先生はいませんか?」

 なのでこうやって、自分から言ってみるのが大事だ。


 辺境伯家は尚武の家柄。

 辺境伯である父クラウディスは学問に熱心なディクスンを知って、どうせなら王都の法衣貴族に婿入りし、中央とのパイプになってもらうか、などとも考えてはいた。

 しかし辺境伯家は同時に、開拓も奨励している。

 ならば騎士でも官僚でも、そういった仕事の出来る人間はいくらでもほしい。

「ディクスンは何を好む?」

「……全てです。本で知りえることも、自分で体験することも、全て知りたいのです」

「よい心がけだ」

 この時の父の顔は、厳しさの中に喜びが見えた。

 前世の自分の父は、どういう人間だったのだろう。


 五歳というのは貴族の子弟にとって、本格的な教育を施す年齢であった。

 前線を引退した騎士が、奥向きの守りに就いていて、その中の一人がディクスンの傅役兼教師となったルクスだ。

 実のところ騎士という身分は、代官などもするために教養も高い。

 ただ戦争などで功績を挙げた、一代騎士などは武力が前提。

 年金をもらって領都に住んだり、あるいは防衛力として開拓村にいたりする。


 そしてディクスンには教養の教師も就いたが、共に学ぶ者も出来た。

 もっともこれは、ディクスンの腹違いの兄であったりしたが。

 母親が側室でもなく愛人であり、平民であるので貴族籍にも入れない。

 だが教育はして、王都の士官学校や学術院に入れれば、自らの力で貴族になれるかもしれない。


 この国の制度としては、貴族は正室を一人、側室を二人まで持てる。

 ただし嫡子と認められるのは、正室の子供だけ。

 それでも側室の子も、貴族籍には入る。

 愛人は無制限であるが、父親側の貴族籍には入れない。

 また嫡子がおらず、庶子を後継とするには、正室の養子にしなければいけないという、面倒な手順も必要であったりする。

 このあたりはさすがに尋ねるのも際どいので、法律書を自分で調べた。


 魔法も学びたいと言ったディクスンに、老騎士は魔道具を持ってきた。

「これは?」

「神の加護を露わにする魔道具で、どういった職階クラスが向いているのかを調べるのに使います」

 金属の板のように見えたが、それに手を触れて少し。

 幾つかの文字と数字が出て、揺れてから安定した。

「これは、珍しいですな」

「何がだ?」

「我々人間は魔物と対決するには、本来脆弱な存在です。その助けとなるために、神々は加護を与えてくれるのです」

 前置きが長かったが、要するにこの数字はステータスの補整値で、普通はもっと偏っている人間が多い、ということである。

 幸運と魅力の値は表示されなかったが、他はディクスンが自分で知っているのと同じ数字である。


 筋力や体力、頑強に優れた人間は前衛の物理職に優れる。

 器用や敏捷に優れていた場合は、単独行動が出来る。

 魔力や知力に優れていれば、魔法職といった感じだ。

 ディクスンの考えていたことは正しく、老騎士を考え込ませるものであった。




 鑑定板とも言われるその魔道具の測定結果は、当然だが父である辺境伯にも伝えられた。

「知識を得ることに熱心と思っていたが、武芸にも興味を示して魔法も学びたいということか」

 どの分野にも興味があり、そして加護はどの分野にも向いている。

 もっともあそこまで本を読むことを考えると、根は学問に向いているのだろうと思えるが。

天恵ギフトを二つしか持っていなかったが、有望なものではあったしな」

「坊ちゃまと話していると、賢明さを感じますな」

「小賢しい人間にならなければよいが」

「それはこれから次第かと」

 書物から知識を得る子供は、頭でっかちになりがちなのだ。


 そういった性分に育ちそうであるなら、辺境伯家の家風に染める必要があった。

 しかし自ら、武芸にも興味を示している。

「ならば騎士を目指すのがいいか」

 騎士はクラスとしては、戦闘職である。

 実は魔法もある程度、使える人間が多い。

 代官などになるには、当然ながら学問にも優れ、実務も出来なくてはいけない。

 

 コルネリウス家は現在、他領や他国との紛争を抱えてはいない。

 おおよそ軍事的な脅威は、魔境に限定されている。

 そしてその魔境を、わずかずつだが開拓している。

 ディクスンはまだ知らないことだが、領地は成長の途中にあるのだ。

 身内の能力ある人材はいくらでもほしい。

 毒耐性に魔力感知を持っていたディクスンは、魔法使いとしての資質もある。

「まずは様々なものに触れさせるのがいいだろう」

 幼少期から環境に恵まれて、ディクスンは育つことになる。

 だが家族の愛情には、乏しい生活であった。




 使えるギフトと使えないギフトがある。

 少なくとも今の段階では、あまり意味がないと思えるものだ。

 使えるのはまずステータス閲覧。

 今のところは自分のステータスだけであるが、レベルが上がれば他者のステータスも分かるらしい。

 だがこれを持っていることは、あまり知られない方がいいかもしれない。

 そもそもそれなりに使っているが、熟練度が上がってこない。

 そういうタイプのスキルであるのだろう。


 ステータス隠蔽とステータス偽装は、今のところレベル3というのは上げすぎだったろうか。

 ただ将来的には重要なものとなるかもしれない。

 ステータス成長とステータス強化は、これもまだ分かっていない。

 レベル上限突破も分からないが、おそらくこれは必要なかったギフトだ。

 そもそも人間のレベルキャップが不明である。

 もっとも人によって、レベル上限が違うのならば、役に立つのかもしれないが。

 5ポイントも使ったので、これを良成長に回せば良かった。


 経験値閲覧や熟練度閲覧は、レベルアップやスキル獲得にどれぐらいが必要か分かるというもの。

 少しは便利だが、少なくともレベル1の機能では、あまり必要ではない。

 他にレベル成長、スキル獲得、スキル進化、スキルポイント獲得、スキル成長といったあたりもよく分からない。

 レベルアップは普通に可能であり、それによるステータスの成長は良成長スキルで促進される。

 スキルは普通に獲得出来るし、スキル進化は上位のスキルに変化することだろうか。

 スキルポイント獲得はさっぱりだが、スキル成長は普通に熟練度で上がっていくはずだ。

 クラス取得はそもそもデフォルトで、誰もが持っているものらしい。


 1ポイントしか必要でなかったため、色々と分散して取っておいた。

 生まれてもまるで成長力がない、という事態を避けるためのものだった。

 しかし書物で調べても分からないというものは、必要のないものであったのかもしれない。

 レベル上限突破の5ポイントが痛いが、他にも合わせて10ポイント以上、無駄なギフトを選んだのかもしれない。

 他の異世界であったならば、必須のギフトであったのかもしれないが。


 だがそういった無駄も、人生には普通にあることだ。

 それに自分で取ったわけでもない、静謐の血統というギフト。

 これはゲーム知識を参考にすれば、かなり強力なものとなる。

(魔法職の方が適性が高いのか?)

 ゲームの知識が当てはまるのなら、ある神器を使うのに、必要なものであった。

(早めに武器の訓練も、始めた方がいいかもな)

 今のところは大丈夫に思えても、貴族ならば血なまぐさい暗闘に巻き込まれるかもしれないのだ。

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