第82話 休息の時間


「澄人君がそう言ってくれて、私は嬉しいよ」


 こっちも、加奈が喜んでくれて本当にうれしい。そう考えて、加奈の頭を優しく撫でた。

 加奈は、俺に体を寄せてくる。今日くらいは──加奈に優しく接そう。


 それから、ハイハイのような歩き方で璃緒がやってきた。


「ラブラブそうですね、彼氏さん」


「あー、いや……加奈が求めてるからさ」


「まあ、今日くらいは大切にしてあげてください。彼女さんなんですから」


 からかうような言葉を言う璃緒。でも立ち上がれなくらい消耗していて、いるのがわかる。それでもこの場を和ませようとしてくれているんだな……。周囲を見れて、自分がどうすればいいか理解している。


「ありがとう。でも、璃緒もすごかったよ。前線で、最後まで戦ってくれて。本当にありがとう」


「いえいえ。でも、一番戦っていたのはからすみさんです。私は、ついていくので精一杯でした。からすみさん、さすがです」



「そう言ってくれて、とっても嬉しいよ」


 俺が立ち上がるのもきついくらい消耗していたように、璃緒も同じだったようで、そのままへたりこんで座り込んでしまった。璃緒もまた、限界だったみたいだ。苦笑いをしながら、女の子すわりで言う。


「ちょっと、立てそうにないです。」


「まあ、無理しないでいいよ。ちょっと休もう」


「ありがとうございます。ちょっと、敵を倒したという事もあって気が抜けちゃって」


「まあ、さっきまで極限な状況だったからね」


 璃緒は後ろにある気に身体を預けた。まあ、ゆっくり休んだほうがいいな。そして、もう一度加奈に視線を向ける。


「加奈だって、怖かったでしょう。ゆっくり休んで」


「あ、ありがとう。う、うん……怖かった。怖かった」


 そして加奈が泣き出して、再び俺の胸に顔をうずめる。


 やっぱり、相当怖かったようだ。まだ、加奈も動けなさそう。もうちょっとここにいたほうがいいかな。俺は抱き着いてきた加奈の背中を撫でた後優しく、髪を研ぎほぐした。

 少しでも、加奈の恐怖を和らげられるように。


「加奈、ありがとうね」


 加奈の髪──黒くて、ストレートでしっとりしている。触っていて気持ちいい。きっと俺が知らないところでしっかりと手入れされているのだろう。


 加奈──怖かっただろう。そんな気持ちを磨ぎほぐすように優しく撫でる。

 加奈は、優しい笑みを浮かべてとても嬉しそう。



 そして加奈は、一旦俺の胸から顔を離し、女の子座りでにヘラと笑う。


「こっちこそ助けてくれてありがとう。私もギリギリまで戦っていて、もう動けないや」


「うちもそれわかるわ。うちもダメージがひどくてちょっとフラフラや」



もう動けないのか──それくらい極限状態だったと言う事か。


しかし、ここは仮にもダンジョンの中。このままい続けて大丈夫なのだろうか。普通なら問題ないとは思うが、ここはいわくつきのクソダンジョン。理不尽に敵が来たりする可能性だって、考えられる。


「まあ、わらわなら何とか戦えそうじゃ。立てるようになるまで、ゆっくり休むがよいぞい」


「ありがとう」


ネフィリムは──他と比べて戦闘に加われなかったためか比較的ダメージが少ない。

ゆっくり立ち上がって、周囲に目を光らせていた。


こういう時は、頼りになるな。人の上に立つものとして、周囲をよく見て自分に何ができるかを理解している。


そして、4人で疲れを取りながら、色々と話す。これからの事とか、互いに配信をしていた面白かったこととか。


璃緒からは、面白いトークの仕方や再生数がどうすれば延びるかなどを教えてくれた。

そのたびに、俺も加奈とろこもコクリコクリとうなづいた。


「流石璃緒はんや、参考になるなぁ」


「そんなことないですよ。独自の強みがあって、周囲に埋もれないのってすごいと思いますよ」


「ありがとな。誉め言葉として受け取っておくわぁ」


やっぱり、2人は視聴者数となると真剣になるんだな。まあ、配信数がそのまま収入になるんだから当然だよな。



そして、俺は大分動けるようになってきた。

でも、加奈はまだ、つらそうな表情をしている。


ろこと璃緒は──立てはする感じか。まだ疲弊しているなら、こんな地面より、ベッドで横になったほうが体力も回復するだろうし。気が休まると思う。


「どうする? 誰かの家に帰ってそこで休む?」


「いいかもしれないのじゃ」


「でも、加奈がまだ──」




ろこの言葉に、加奈が困った表情でコクリとうなづく。

まだ歩けなさそうなのは、加奈だけ。それなら──。


「おんぶしようか?」


「え?」


加奈の顔が真っ赤になる。ちょっと、恥ずかしいかな?


「ほら、ここより自分の部屋にいたほうが休めるでしょ? また魔物が来るかもしれないし」


「まあ、そうだけど……」


俺から目をそらして、やっぱり恥ずかしいのか煮え切らない言葉を取っている。けど、出口まで距離はあるから歩く体力があるのか──そう考えていると、璃緒が耳打ちして来た。


「からすみさん、これはどうでしょうか?」


「何?」


そして、周囲に聞こえないようにひそひそと話始める。その内容に、ぎょっとした。


「本気かよ……」


「いいじゃないですか。加奈さん、絶対に喜びますよ」


「ちょっと、恥ずかしいな……」


璃緒から教わったそれは、確かにいいかもしれないが、みんなの前だとさすがに気が引ける。

しかし、加奈はこっちを物欲しそうに見ている。


そして俺は加奈の前に座り込んで──加奈の膝裏と首の裏において、加奈を持ち上げた。

そう、璃緒が提案したのはお姫様抱っこというやつだ。

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