第81話 勝利と喜び


「わかります。守られっぱなしというのも、気持ちのいいものじゃないですよね」


 加奈、声は震えているけど──本心からそう思っているのがわかる。本当に、俺たちと一緒に戦いたいと思っているんだ。

 確かに──俺も璃緒と一緒の意見だ。一方的に守られるだけというのは、気持ちがいいものではない。

 それもそうだな。


 相手が守ってくれるなら、同じだけこっちだって守りたい。それは加奈とろこだって同じという事か。2人は、守られるだけの子供じゃない。俺と対等な立場だという事か。


 それに、今までの2人だって勇気を出して戦っていた。心配ない。2人に親指を立てて、言葉を返した。


「わかった。一緒に、八岐大蛇を倒そう」


「澄人君、ありがとう」


「失望はさせへんからな。うちらに任しまかしとき」


 強気な表情を見せる2人。不思議とさっきまで感じていた不安は消えていた。


 そして、俺たちを援護するように加奈とろこが後方から援護する。


「いいですね。戦いやすいですよ」


「ありがとうな」


 2人の援護は──とても正確でこっちが撃ち落としてほしい攻撃やくらったら困るような打撃をすべて撃ち落としてくれている。


 まるで、こっちが考えていることをすべて理解しているみたいだ。

 そして──。


「これで、しまいやぁぁ」


 8本中6本の首を打ち落ちした形となる。残りの首は2本。これならスキだらけだし、十分撃ち落とせる。


「行こう」


「はい、澄人さん」


 そして、最後の一撃を与えるために俺と璃緒で突っ込む。突っ込んでいく間も3人が他の首を攻撃しているおかげで首の復活はない。このまま残りの首を打ち落とせば八岐大蛇は復活できなくなる。

 」


 これは2人では厳しい。ここまでかと考えたその時。



 後ろからネフィリムの叫び声が聞こえた。そうか、さっきまでは乱戦気味だったから援護ができなかったが今は違う。


「やらせぬのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「冥府によみがえりし力。黒き波濤を超え、現れよ! ダークネス・フル・バースト」


 それこそネフィリム以外に出せる人がいないであろう威力の砲弾。それが八岐大蛇へと突っ込んでいき、大爆発。


 ネフィリムの圧倒的な威力。その攻撃に手負いだった八岐大蛇は対抗することができない。

 最後の一撃という事だろうか。今までで一番大きい攻撃だ。


 それ八岐大蛇が慌てて首を復活させようとしているが、それを加奈とろこ、ネフィリムが的確に攻撃し回復を許さない。


 そしてそのまま、難なく最後の首を打ち落とした。


 スパッという音とともに、八岐大蛇の頭が地面に落下。


 回復することができず、蒸発するように煙を出しながら消滅していく八岐大蛇。

 肉体が徐々に崩れていき、そのまま消滅してしまった。


 それを確認して、八岐大蛇から視線を外し、加奈とろこの方へとむけた。

 何とか終わったか。


「終わったね」


 そう呟いたとき加奈とろこ、ネフィリムがこっちに突っ込んできた。予想外の行動に、驚いて一歩引く。




「お、おい。なんだよ」


 3人が俺にとびかかって抱き着いてきた。予想外の行動に、俺はそのまま倒れこむ。倒れこんだ俺に、加奈とろこは俺の髪をわしゃわしゃとしながらじゃれついてくる。流石に可愛い女の子2人にそこまでされると、恥ずかしく感じる。でもそんなこと、2人はお構いなしだ。


「澄人君、すごいよ~~」


「澄人はん。めっちゃ尊敬するわぁ~~流石やぁ~~」


「いやいや俺だけじゃないって、みんなのおかげだって」


 褒めたたえてくる2人に、冷静に返す。

 当然だ。俺一人では、勝つことなんてできなかった。加奈とろこの正確な援護があったから、俺たちは八岐大蛇に近づくことができた。ネフィリムの大砲みたいな1発があったから、八岐大蛇が攻撃できる首が限られるようになった。


 璃緒が俺と息を合わせて戦ってくれたから、すべての首を回復される前に切断することができた。



 いわば──全員で勝ち取った勝利。しかし、そんなことお構いなしに3人がまだじゃれついてくる。そう、ネフィリムまで。


「水臭いやつじゃ! もっと誇ってよいぞい。一番先頭で戦って、一番傷ついていたのが澄人なのじゃ」


「そうやで。胸張ってええで。うちらだって戦ったけど、一番しんどい思いをしたのは体張って戦ってた澄人はんや。一番うちらをかばってくれて、その代わりに傷ついてもろうて──さすがという感じや」


「私もそう思うよ。いちばん頑張って、痛い思いをしたんだもん。すご過ぎるって思ってるよ」


 3人にここまでほめてくれるとは──思わず照れてしまう。そんなことないけどな……。


 みんなだって、力を振り絞って、逃げないで頑張ってくれた。それに優劣はつけたくないんだよな。特にかなとろこは、恐怖でいっぱいだっただろう、足震えてたし。それでも最後まで戦ったのは、俺よりもすごいと思う。


「でも、みんな勇気を出してくれて戦ってくれてありがとう。だから、みんなの勝利だこれは。加奈もだよ」


 そう言って、加奈の方を向いた。加奈は──優しい笑みを浮かべている。

 加奈の優しい笑み。俺、とっても好きなんだよな。加奈の性格が表情に現れてる感じ。


 加奈という人物を表現したような表情だと、俺は思ってる。加奈のニッコリとした表情や、強気な表情も好きだけど、優しい笑みを浮かべている加奈が──俺は一番好きだ。

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