第34話 勝利の宴②

 俺は未成年だからシラフだが他はみんな楽しく飲んでいた。


「いやー、実に楽しいし美味い。今日は良い日だな、エドガーよ」

 パーシヴァル卿はご機嫌に酔い始めてる。


「この村の酒が好きで仕事にかこつけて年に一度は訪れているんですよ」

 村長が教えてくれた。

 ここの水は美味いからな。この水を仕込みに使った酒もさぞ美味いんだろうな。


 一つ閃いた。

「パーシヴァル様は随分とお酒がお好きなようで。ウェストール様もお好きなのでしょうか?」

「我が主も酒には目がないぞ。この村の新酒の時期を私に聞いてくるくらいだからな」


 なるほどな。

「パーシヴァル様は『火酒』はご存知ですか?」

「もちろんだとも。ただ飲んだ事はないのだ。帝国の秘密事項の一つだからな。この国で飲んだ事があるのは先王様と我が主くらいではないかな?」


 『火酒』と呼ばれる酒が世の中にはある。隣のエイゼヘル帝国のどこかで作られている酒で製造法はもちろん秘密になっている。

 帝国ではごく少数流通しているため金さえ有れば飲む事は出来る。オークションなどがそうだ。

 しかし王国までは届くことはない。帝国に住むドワーフの存在が原因だ。

 だから酒の為なら金に糸目を付けないドワーフ達が手を出せなくなる程の値段で買わねば手に入れる事は出来ない。

 そんな金額を出せるのは王族かもしくは上流貴族だけだ。と、先日ロキソに聞いた。


「実は私、火酒の製造法を存じておりまして。この村で作ろうかと思っています」


ぶーーっ!!!!


 騎士爵様が盛大に噴いた。

「ゲホッ! ゲホゲホッ! 其方、まことか!?」

「本当でございます。ロキソ、アレ借りても良いか?」


「もともとはお主のものじゃろう。ほれ、持ってきてあるから勝手に使え」


 あるのかよ‥‥‥。

「なんで持ってきてるんだよ?」

「いや、宴の後半で少し飲もうかと思うての‥‥‥」


 ロキソはミニチュアポットスチルを取り出した。本当に持ってきてやがるわ。


「!! これで火酒が作れるのか? どうやるのだ?」

 見事なくらい食い付いてきたな。


 水とアルコールの沸点の違いを利用した蒸留法を説明した、実践付きで。

 ティナにスチルポットを温めてもらい出てきた液体を差し出す。


「‥‥‥これが火酒か」

「酒精が強いのでお気をつけて」


 じっくりと眺めた後、騎士爵様は一気に呷った。

「ブェヘブェヘッ!!!! こ、これが火酒か!! なんと‥‥‥」

「これは未完成品です。本当ならこれを木の樽に詰めて何年も置いて熟成するのです」


 おそらく帝国で作っているのはちゃんと熟成された蒸留酒のはず。でなければ商品として売れないだろうからな。


「‥‥‥いや、これは面白い!! 将来売れるはずだ、エドガー!!」

「話のわかる騎士様だの。エドガー、ワシにも一杯くれ」

 ロキソが話に混じってきた。

 そっちはティナに任せよう。


 騎士爵様が俺の手を握りしめてきた。

「このパーシヴァル、この酒をこの国に広めてみせよう! 全力で協力させていただこう」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 【後日談】

 戦いを終えた平民達は家に帰った後、恋人達、夫婦間で大変に盛り上がった。

 戦いを経験すると生存本能が刺激されるのか男女共に性欲が増幅されたからだ。


 結果、妊娠する女性が急増し、テオドール村は約一年後ベビーラッシュとなった。

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