弐拾弐-弱点

 蓮司とちょっとした心理戦を繰り広げた後、弥勒は友人達と合流した。

すぐに訓練へ移る為、早速四人は準備運動を開始した。


雅楽丸が屈伸をしながら皆に問いかける。

「皆、精神系固有術の弱点知りたいか?」

三人はウンウンと頷いた。

「せっかくうちへ来てくれたんだし、特別に教えちゃうぜ!」


紫苑が珍しく口を挟んだ。

「久宝君、ちょっと待ってください。確か模擬戦の相手はクジ引きで決まるので、私達同士が対戦する可能性も十分にあります。なのでフェアじゃ無くなっちゃいますよ」

「言われてみればそうだな!」

「じゃあ全員、一つだけ弱点を教えるっていうのはどう?」

「いいな、それ」

「それでいこう!」

「私も賛成です~」


「じゃあ、まずは予定通り俺からな!」


雅楽丸は語る。

「精神系固有術の弱点は、視界に入っていないと発動できないことだ。俺の場合、術名を口に出してから、発動するまでの間にラグが発生する。そのラグの間に俺の視界から脱出するか、もしくは何かの術で身を隠せば、《-金縛り-》を回避できるんだ」

「それは精神系固有術全般にいえることなのでしょうか?」

「俺が知っている範囲内の精神系固有術は全部当てはまるぞ!」

「なるほど、ためになります」


『この界隈にある程度精通した雅楽丸が言うんだから、基本的に当てはまりそうだよな』

『そうね。精神系固有術は結構珍しくて、私もあまり知識が無かったから参考になるわ』


次は紫苑の番だ。

「式神使いの弱点は、式神を召喚している間、霊術が使えなくなることですね」

「でも式札がある限り、ニョロニョロ君は何回でも復活するんだろ?」

「ええ。その度に霊力を消費しますけどね」

「神術は使えるのか?」

「はい、もちろん」

「私は知ってたよ!ね、紫苑!」

「幼馴染特権ってやつだな!」

「そうですね。うふふふ」


今度は沙羅の番。

「《-茨-》の弱点はね、炎系の術だよ。例えば霊術の〈火〉とか!」

「想像通りだな!」

「知ってた」

「草の弱点は火と、相場が決まっていますからね~」

「えー!!!」


『ほんと可愛いわね、この子』

『術はえげつないけどな』


最後は弥勒の番である。

「三人の弱点を聞いといて悪いのだが、《-圧縮-》の弱点は無い。まぁしいて言えば、そもそも単体じゃ使い物にならないから、それがある意味弱点だな。だが神術と組わせると、全く別の術に生まれ変わるんだ。恐らく皆は、俺が霊術で模擬戦に挑むと思っているだろ?」

「え、違うのか?」

「霊術が其ノ弐まで行使できるのに、それはそれで勿体ないですね」

「じゃあ弥勒は、《-圧縮-》と神術を組み合させた、特別な術で戦うの?」

「ああ。その通りだ。」


紫苑が俺の腰に差してある夜刀を指さして言った。

「その刀も使うんですよね?」

「よく気付いたな。此奴は夜刀っていう、俺の愛刀だ」

「じゃあ、近距離戦が主体なんですね」


雅楽丸もある事に気が付いた。

「弥勒が霊術よりも、そっちを選ぶって事は……」

「もしかして特別な術の方が強力なの?なんか凄い!!!」


『なんか凄いらしいぞ』

『なんか凄いらしいわね』


「じゃあ何故神楽坂君は、動きにくいタイプの和服を着ているんですか?」

「ネットで『陰陽師 服』と調べて、一番それっぽいのを購入したんだ」

「確かにそれっぽいですけど……」

「弥勒、お前マジかよ……」

「うち(鳴海家)で余ってるやつ、何着かあげようか……?」


三人は弥勒に、哀れみの眼差しを向けた。

『雫、ヘルプ』

『私があれ程言ったのに、面倒くさがって買い直さなかったのは貴方でしょう』

『……今週の土日はショッピングだな』

『言質取ったわよ』


早くも休日の予定が埋まる弥勒であった。



四人が庭で準備運動をしている頃。


屋敷内では、蓮司と案内役の陰陽師が会話をしていた。

「御館様、いかがでしたか?件の青年は」

「弥勒君か。私は限りなく白に近いと考えているよ」

「ではこれ以上探るのはやめておきましょうか。彼はまだ未成年ですし」

「と言いたいところなんだけど、一応監視は続けてほしい」

「そこまで大変な仕事ではないので私は歓迎ですが、どうしてでしょう?」

「勘だよ」


案内役は首を傾げた。

「勘……ですか」

「うん。勘だよ」


蓮司は続ける。

「少し今回の件を整理しようか」

「はい」

「まず孤児院事件の第一発見者は誰だい?」

「例の青年です」

「そうだね。弥勒君は現場に到着した際、被害者が術で殺された事を一目で理解し、犯人を妖怪か陰陽師かの二択まで絞った」

「はい」

「犯人が妖怪だった場合、全国ニュースになった。しかしニュースはおろか、都市内に警戒の御触れすら回らなかった。その理由で弥勒君は、陰陽師組織による犯行だと断定し、彼らに復讐をする決意を固めた。だけど陰陽師組織なんて数えきれない程あるからね。真犯人を見つけるのは大変だ」

「そこで彼は、内部に侵入し情報を手に入れるため、陰陽師を目指している。と」


二人は一息ついた。

「ここまでが我々の見解だね。これを考慮した上で聞きたいんだけど、実際に弥勒君と話してみて、君は彼をどう思った?」

「相当賢いと感じました。同時に、これは黒の可能性が高いとも」

「私も同じだよ。だから私はいくつか質問をしてみた。だが、彼は白い回答しか返さなかった。ボロを出さなかったんだ。結果私は、この件は我々の取り越し苦労だったと判断し、ここで終わらせるつもりだった」


案内役は腕を組み、呟く。

「しかし御館様の勘が、その結果に否を突き付けたと……」

「その通り。実は彼との会話中、一瞬違和感を覚えたんだ。何が引っかかったのかは具体的には説明できないんだけどね」

「賢人あるあるですね」

「先ほどから、あの会話を頭の中で何度も再生しているんだけど、特に進展はないよ……なんだかムズムズするね。ただの杞憂だと良いんだけど」

「そうですね。しかし三級陰陽師の勘は馬鹿になりませんので、私も監視続行に賛成です」

「よろしく頼むよ」

「お任せを」

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