番外 アンセム家

「よぉ、元気?」

「うわ……」

「偉大なる先祖様に対してうわ、とはなんだ」


 しばらくして気が向いたので再びアリエスの元に向かったら、何故か滅茶苦茶嫌な顔をされた。


「お前が力を付けられるように色々としてやっただろ?」

「ぶん殴ったり?」

「あれはお前の方が先に殴ってきたじゃん」

「どう考えても冷静じゃない状態だったでしょ!? あんな心の内側まで覗き込んでおいで、殴られて校舎に突っ込んでいった私の気持ちも考えなさいよ!」

「元気そうだな」

「話を聞け!」


 それにしても、自分の根源にあるものを理解したって言うのに、今度は怒りの炎に飲み込まれることを恐れているのか、物凄く慎重な魔力の扱い方になっているな……それじゃあ威力はでないだろ。前のゴミカスみたいな雑さに比べれば100倍マシかもしれないけど、俺からすれば五十歩百歩だな。


「それで? しばらく姿を見なかったけど、どこで何してたのよ」

「俺? あー……言ってもわからないと思うぞ」

「は? 言ってわからないことなんてあるの?」

「うん」


 実は余所の世界の神様と酒飲んでたとか言っても、どうせ怒られるだけだし。

 俺がぶっ殺した前の神は他の世界の神と敵対するようなことばかりしていたけど、俺は他の神たちと仲良くしたいなーと思っていたら、普通に仲良くしてくれたので、それなりの数の世界の神とこうやって友好的な関係を結んでいる。勿論、中にはあいつみたいに敵対的な神もいたので、そういう奴は真正面からぶん殴ってやるんだけども。

 俺が説明しないことに対して訝しげに俺のことを半目になって睨んでくるが、そんなことをされてもこれに関しては喋らないからな。


「あ、そう言えば学校の成績とかどう?」

「親みたいなこと言わないで……魔法は上手になったって言われたわ」

「先祖なんだから親みたいなもんだろ」


 そっかそっか……魔法は上手くなったって言われるぐらいには成長が実感できてよかったな。こういう特訓みたいなのは最初に成果が出るまでがそれなりに大変だから、こうして一度でも成果が実感できれば人間は努力を続けられる。アリエスは今回の成功を糧に、更なる努力を求めるだろう。


「……ねぇ」

「ん?」

「一昨日、図書館で貴方について書かれた本を読んだの。分厚くて、やたら褒め称えるような内容ばかりで、読んでいてうんざりするような本だったんだけど……貴方の日記を元に書かれたらしいんだけど、本当なの?」


 うーん……どれだけ自分の記憶を掘り起こしてみても、自分のことに関して日記を書いた記憶なんて全くない。そもそも、俺は日記を書いてみようかなと思ってから3日も経たずに飽きて書かなくなるような性格だから、そういう日記みたいなのが続いた試しがない。


「日記は書いたことないな」

「じゃあ創作ってことね」

「多分ね……著者は誰なの?」

「アリアナ・アンセムよ。現在のアンセム本家の源流」


 あ、アリアナか……うん、仕方ない。


「あの子はなぁ……何故か俺に滅茶苦茶懐いてたし、なんならである俺に対して恋慕の情まで抱いていたから、ちょっと創作して盛ったって言われても違和感はない」

「祖父に対して恋慕って……ありえるの?」

「まぁ、見た目はずっとこのままだから」


 アリアナ・アンセムは、エリッサとの間に生まれた長女アレーナの娘だ。俺とエリッサの孫、アレーナの娘の中でも3人姉妹の末っ子だった。末っ子なだけあって、周りに甘やかされて育ったアリアナは、何故か俺に執着していたから……俺の歴史を盛って持ち上げたのがアリアナだって言われると納得できてしまう。勿論、彼女が今のアンセム家のように厳しい教育で、俺の名前に恥じないようにしろって言い始めたのは彼女じゃないと思うが……確かに源流はそこにありそうだ。


「孫に対してあんまり褒められた言い方じゃないけど……アリアナは確かに異常者だったよ。子供の頃から異常に優れた魔力を持っていたし……」

「いたし?」


 直接の娘、息子にはなかったのでそういうものだと思っていたのに、孫であるアリアナは確かに俺の血筋なのだと理解できるものがあったからな。

 彼女が小さい頃から異常に優れた魔力を持っていた原因が、実は俺と同じ異界の魂が由来なのではないかと調べてみたのだ。しかし、見つかった原因は……異界の魂を持っているからではなく、彼女が世界の一部と繋がっていたから。単純に言うならば、彼女は神の力を一部引き継いで生まれたのだ。だから俺に惹かれていたのかもしれない……神そのものである俺に。


「……とにかく、変な子だったよ」

「ふーん」


 アリエスに渡してもらった俺のことが書かれた本には、俺が誰にも喋ったことのない内容もちらほら書かれている。これこそが、アリアナが世界の一部と繋がっていた証拠だろう。アリアナは世界の未来を視ることはできなかったが、世界と繋がっている影響で、世界そのものみたいな存在だった俺の過去を見ることができたようだし。

 いや、1番の疑問は俺の過去を正確に知っているはずなのに何故脚色して書いたかってことなんだけどね。遊び半分じゃないかな。


「じゃあ炎の悪魔を打ち倒して学園を救ったのは嘘なのね」

「嘘だね」

「西から来た軍隊と戦ったのも」

「本当だね」

「学生時代に竜種を倒したのも」

「懐かしいな」

「悪だくみをしていた内務卿を殺したのも」

「嘘にしたかった」

「東の孤島で世界を終焉に導くと言われていた龍を倒したのも」

「あー……うん、本当のことですね」

「殆ど真実じゃない!」


 えー……だってあの時代はそういうものだったし。

 逆に炎の悪魔はどこから出てきたんだよ……ニーナか? グリモアを使ったニーナのことなのか? 確かにアリアナは魔法の才能があったから、ニーナによく冒険者にならないかと迫られて逃げ回っていたが、私怨で勝手に話を盛りまくったのか?


「はぁ……このまま貴方の話の真実を全部知っちゃったら、私はそれこそアンセム家から逃げられなくなりそう」

「本家じゃなくて分家に逃げれば?」

「……分家だってそこまで良い家じゃないわ」


 そもそもアンセム家なんて興味なかったから、分家が幾つ存在しているのか知らないけど。


「エリッサ、エリクシラ、ニーナ、エリナから考えて本家1つに分家3つ?」

「……その子供たちの数だから、本家は長女アレーナの直系、残りが分家」

「多すぎじゃね?」

「仕方ないでしょ? アンセム家は実際に物凄い力を持った家なんだから」


 おぉ……なんか、凄まじいことになってるな。

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