第191話 自爆するとか聞いてない

「ふざけやがってっ!?」


 成層圏の外から飛来してきた謎の機械天使と戦闘状態入った俺は、現在高速で空を浮遊しながら大量に追尾してくるミサイルのような物体から逃げ続けていた。あの機械天使、装甲が開いたと思ったら中からSF映画とかによく出てくるマイクロミサイルを大量には発射してきやがった。ご丁寧に魔力による追尾機能付きでしつこくこちらを追うように飛んでくるミサイルをなんとか空中で避けながら、機械天使が胸から放ってくるビームを避けているが……流石に疲れてきた。


『おい、なんだあの武器は』

「追尾機能付きのマイクロミサイルなんてファンタジー世界で出していいもんじゃないだろっ!」


 なんとか空中で振り返りながら魔力をばら撒いてマイクロミサイルを一気に破壊したが、爆炎を突っ切って機械天使がそのまま殴りかかってきた。胸から放たれたビームを正典ティマイオスで弾き、右腕を掴んで無理やり引き千切ってから胴体に蹴りを入れる。しかし、引き千切ったと思ったら右腕は分離しただけで、勝手に動き出して指先から赤いレーザーを放出してきた。


「ちっ!?」


 赤いレーザーが俺の右腕で掠め、じゅわっと音を立てながら肉片を焼き切られる感触がした。レーザーカッターでもこんな高性能じゃないと思うから、多分魔力のなんかだと思うが……全身兵器のマジもんのロボットらしい。

 掌からジェット吹きだしてしっかりと機械天使の胴体とくっついた。どうやら身体を分解して独立で動かせるらしい……こんな高性能ロボット、フィクションの中でしか見た事ねぇよ。


『手伝ってやろうか?』

「お前、あいつが使ってくる武器なんてなにもわからないだろ。無駄に被弾するだけだからやめておけ」

『私をなめるなよ? あの程度の武器など初見でも──』


 ルシファーが自信満々になにか言おうとしたが、それよりも早く機械天使の4枚の翼が身体から分離して、こちらに向かって飛んできた。ガコン、というなにかが開くような音と共に分離した翼の先から砲塔が飛び出し、高速で動きながらこちらを捕捉して、当然のようにビームを撃ってきた。


「な?」

『……もう少し様子を見させてもらおう』


 俺は地球であんな感じの兵器が出てくるアニメとか映画とか幾つも見てきたから、なんとなく動きだけでどんな攻撃してくるかわかるが……ルシファーみたいにこの世界出身の存在には全身が未知の塊なんだからまともに戦うのはやめておいた方がいい。

 それにしても、空中で戦っているからあんまり気にならないけど、さっきからこの機械天使が放っているビームやミサイルの威力は、地上で使われたら街が消し飛ぶような出力に見える。こんな力が出せる存在を世界に放つことができるのに、何故神は積極的にこの世界に介入してこないのだろうか。この機械天使のようなものを世界に投入するには一定の条件が必要なのか、あるいはただ気紛れに観察しているだけなのか……とにかく、神ってのが随分な力を持っていることだけは確信した。


『まだ追いかけて来るぞ!』

「そりゃあそうだ」


 どうやってコントロールしてるのか知らないが、4枚の翼は高速で移動しながらこちらを狙ってしっかりとビームを撃ってくる。直線的なビームなので少し空中を移動するだけで避けることはできるが、当たれば死にかねない威力であることは間違いない。

 この機械天使は強い。俺より少し大きいぐらいの大きさだから余計に強く感じるし、小さいから攻撃を避けられて厄介だと感じるが……機動性はこちらの方が勝っている。奴はブースターのようなもので空を飛んでいるが、俺は概念的な力で空中を浮遊しているので機動性に明らかな隔たりがある。そこを使えばなんとか上手く倒せると思うんだが……どうもこういう追尾系の武器が多いのが面倒くさい。


『とんでもない力だ……これを人間が、いつか作れると言うのか?』

「作れるかな? こんな兵器を人間が自分の力で作れるようになった時には、既に星は崩壊して人間も滅んでいるかもしれないぞ」

『自らの技術力で滅びるか……それも人間らしいと言えば人間らしいだろう?』

「お前が人間をどう思っているのかわかったよ。ま、俺も同意見だがな」


 俺の周囲を飛び回っていた翼が機械天使の背中に戻っていく。このまま攻撃していても全く当たらないことを悟ったのだろうが……ここからどうしてくるのかあんまり見当がつかない。

 機械天使はおもむろに腰の辺りで何かを掴むと、それを引き抜いた。手に持っているものはどう見ても剣なんだが……どうもただの剣には見えない。


「光剣か?」


 SFにありがちなエネルギーの剣かと思ったが、太陽光に反射していることからも金属らしいことしかわからない。さっきまで超兵器をバンバン使っていたのに、今更実体剣を使う理由はわからないが、あんまり近づきたい雰囲気ではない。


『斬れるのか?』

「斬らなきゃ大穴に行けないなら斬るだけだ」

『気持ちの問題じゃないんだが』

「さぁ? ただ、今までのあいつの攻撃が全力なら……俺はあいつを斬れると思うぞ」

『ふ……その自信が当たっているといいな』


 お前はどっちの味方だ。

 ルシファーとくらだないことを言っている間に、機械天使は翼を大きく広げながら急加速してこちらに迫ってきた。正典ティマイオスに斬れなかったものは今まであんまりなかったんだが……こいつはしっかりと斬れてくれるかな。正典ティマイオスの能力的に斬れないであろうものは、そもそもこの世界に繋がりが存在しないもの。世界と繋がりがないのにその世界に存在しているなんて矛盾した言い方だが、とにかくそんなものでもない限りは斬れないなんてことはないと思うが……この機械天使はどうだろうか。

 正典ティマイオスと機械天使の剣がぶつかる。感触的には全然断ち切れそうな感じだが、俺が力を込めるよりも早く機械天使の目のような部分が開いて中の砲塔がこちらを捉えていた。反射的に身体を逸らすようにして背後に飛ぶと、目の前を2本のビームが通り過ぎていく。


『全身武器だな』

「いい趣味してるよな」


 これが味方にいたら滅茶苦茶興奮できるんだが、敵だから興奮しきれないな。男は何歳になってもこういうロボットが好きなんだよ……ぶっ壊さなきゃいけないのが残念だ。

 距離を取った俺に向かって迷いもなく突っ込んでくる機械天使だが、俺が振るう正典ティマイオスの方が早かった。袈裟切りで胴体を真っ二つされた機械天使は、機械らしくバチバチと電撃音を発しながらバラバラになり……上半身だけが動いて胸のコアらしきものを自爆させた。


「マジ?」


 これ、巻き込まれるじゃん。

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