2-2
*****
王妃選定パーティーの場に国王が姿を現さないまま「お妃様が決定いたしましたので
出席者の姫君たちの反応は様々で、「横暴だわ!」と
「他国の王族とのつながりができた」と次の
妃に選ばれたソランジュ本人は何も知らず、日が暮れるまで眠りこけていた。もちろん、客間まで運んでくれたのが国王だなんて想像もしていない。
「あの、何かの
どうか間違いであってほしい。そう願いをこめて問いかけたけれど、
「
「えっ、あの……!」
ソランジュの返事も待たずに、宰相は風のように去って行った。
「まあ、お美しい」
「素材が
「
(話が
鏡の中のソランジュの口元が大きく引きつった。着替えたドレスは上品な深緑色で、デコルテの部分に同系色のレースが
(そういえば、あの人も同じ色だったような……)
夢の中で会った
姿見で身なりの確認を終えると、侍女たちに
国王は、普段は離れの
食事といえば、ソランジュはパーティーの場で周囲が引くほどの食欲を見せつけた。
「
(あの程度じゃ足りなかったのかしら?)
昼間たいらげた分のカロリーは、すでに消費されている。
コルドラの王宮はレアリゼの王宮に比べて数倍の広さがある。客間から食堂までの
うっかりお
開かれた
「ソランジュ王女殿下がお越しでございます」
案内に従って、ソランジュは一歩ずつ
「国王陛下、お初にお目にかかります。レアリゼ王国より参りました、ソランジュ・レアリゼと申します」
(えええええ!?)
ソランジュは思わず大声をあげてしまいそうだったところを、なんとかこらえた。
(こ、この人が王様……?)
昼間、庭園で
ソランジュがほどこした
そして、人を
「はじめまして、ソランジュ王女。アルベリク・ルジェ・コルドラだ。どうか自分の家だと思ってくつろいでほしい」
アルベリクは立ち上がり、ソランジュの前へ進み出て
(う……っ)
夢の中では人相の悪さが手伝って全然気づかなかったけれど、アルベリクはとんでもない美形だった。パーティーに参加していた姫君たちがこの場にいたら、間違いなく何人かは医務室送りになっていることだろう。
ソランジュは十八年の人生で、家族以外の男の人といったら姉の夫と、
つまり、男性への
(どうしよう。何を話したら……?)
頭の中が真っ白になっているところへ、アルベリクが
「体調はどうだろうか? 少しは回復したか?」
「え?」
「庭園で倒れていただろう?
アルベリクは心からソランジュの体調を案じてくれているようで、心配そうに顔を
(ち、近いです……っ!)
(さっきとはまるで別人だわ)
抜き身の
今、目の前にいるアルベリクは、プディングのようにやわらかく甘い
「お、お気遣い感謝いたしますわ。少々、旅の疲れがたまっていたようです」
なんとか正気を保ちつつ答える。
「それならよかった」
ソランジュはむしろ、アルベリクの体調のほうが気がかりだった。庭園で、
気がかりなことといえば、もう一つ。
「国王陛下。おうかがいしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ? 言ってみろ」
「あの……わたしをお部屋まで運んでくださったのは、その……」
「俺だ」
(やっぱり!)
ソランジュは心の中で頭を
「陛下のお手をわずらわせてしまい申しわけありません。ありがとうございました……」
「すまない。長旅で疲れているのに、こんなところへ呼び出してしまって」
「い、いいえ! とても光栄ですわ!」
やっぱり、噂で聞いていたのと印象が違う。
女性に対する理想が天より高く、それでいて
そう聞いていたけれど、夢の中で会った時や、今こうして向き合っている彼は、とても
だからといって、このまま結婚に持ち込まれたら父との約束を破ることになる。
なんとかして、アルベリクの気が変わるように仕向けなくては。
やがて、テーブルに料理が運ばれてきた。
前菜かと思いきや、メインの肉料理が大皿に山のように盛られている。
(あれ?)
続いてスープと、これまた山盛りのパンが置かれる。
一方のアルベリクに用意されているのは、常識的な盛り付けの料理だった。
「宰相から聞いた。ソランジュ王女はよく食べる健康的な女性だと。今夜は好きなだけ食べてほしい」
(宰相様……っ! 好意的な
困った。アルベリクを
しかし、アルベリクの
ソランジュは、
「では、いただきます……」
言うが早いか、皿の上の料理が
その様子を、アルベリクは
食事中に人の目を意識したことがないソランジュは彼の視線が気になってしまい、途中から料理の味が全然わからない。実にもったいない。
おかわりを
「ソランジュ王女。婚約が成立したら、離れの屋敷で
(歴代の婚約者が軟禁されていたっていうお屋敷……!)
事前に聞いていた噂を思い出し、ソランジュの表情に
「何か希望があれば言ってくれ」
「希望というか……少々、疑問に感じる点があるのですが」
「なんだ?」
「どうして、わたしなのでしょうか?」
アルベリクの深緑色の瞳をまっすぐに
周辺諸国の
「目が覚めたらそこにいたから、かな」
「…………」
きっとあの時、アルベリクの夢の中で気絶したせいだ。
「これから、きみのことを少しずつ知っていけたらと思う」
結婚する気なんてさらさらないのに。
「レアリゼの国王陛下がこちらへ
「父がコルドラへ?」
ソランジュが眠っている間に、早馬がレアリゼに向かったとのことだった。
あちらに
晩餐のデザートは、白くなめらかな断面が美しいレアチーズケーキだった。
もったいないことに、これも味がよくわからなかった。
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