第2章 殺伐と甘々
2-1
空は気持ちよく
最初の
二人目と三人目の婚約者は、そろって
三年前に父である先王が病死し、アルベリクが
将来、自分に何かあった時に、代わりに政務を
五人目の婚約者は
アルベリクの個人的な事情で何日も顔を合わせられなかった際、
疑われるような
自分に女性を見る目がないのか、コルドラに癖の強い女性が多すぎるのか。
結婚
に泣いて
しかし、運良く王妃が決まったところで、幸福な
木立の
(つくづく
歴代の国王は、即位と同時にその身に守り神の加護を
国王の精神に寄生させて生命力を
黒竜は
黒竜を
即位してからの三年は、ぐっすり眠れた
しかし、眠らなくては身体の
先王である父が早くに
アルベリクが
「
アルベリクは神速と
「相変わらず
「なんだ、リュカか」
「そろそろ始まるぞ」
国王の幼馴染みであり
「参加者の査定はリュカにまかせる。少し寝かせてくれ」
「バカを言うな。国外から
リュカの言い分はもっともである。
「いいか? 今日は絶対に相手を選べ。この際、誰でもいい。今日の参加者は全員が王家の姫君だ。ハズレを引くことはないだろう」
「誰でもいいって……雑だな」
「こうでも言わないと、お前が誰も選ばないからだ」
正論を返され、アルベリクは閉口した。
「二時間後にまた来る。少しでも身体を休めておけよ」
「ああ」
リュカの足音が
夢の世界。
洞窟の奥からは
(うるさい……)
地鳴りのような唸り声が頭に響いて、ひどく不快だ。
身体は
浅い眠りの中でただ耐えるだけの時間が過ぎていく。
ふいに、アルベリクの目の前に小さな丸っこい物体が降ってきた。
金色の毛並みに
「なんだお前は?」
国王に即位して黒竜との契約を結んでからというもの、夢の中に自分と黒竜以外の者が現れることは一度もなかった。もちろん、動物も
もこもこふわふわな金色の毛並みに、
「…………犬か?」
「羊です……一応」
アルベリクは内心うろたえていた。
(夢だからなんでもアリなのか? 夢の中では動物も喋るのが
この三年、普通の夢を見ていないアルベリクにとって、もはや普通がなんなのか判断がつかなくなっていた。
どう見ても小型犬だろうと言ったら、金色の羊は小さな身体を
「ちょっと失礼」
人語を解する羊は、ぽてぽてとこちらへ歩み寄り、小さな前足でアルベリクの
次の
自分を
気がつけば、洞窟の奥から聞こえていた唸り声がやんでいた。それどころか、黒竜の気配すら立ち消えている。
「これは……?」
アルベリクが視線を落とすと、金色の羊がその場で気を失っていた。
「おい、
羊の安否を確認する前に、アルベリクは夢から覚めてしまった。
こんなに
常に全身にまとわりつく倦怠感も、目を開けているのもつらくなる片頭痛もない。
心なしか、周囲の風景が
六月の庭園を
いつもよりずっと軽くなった身体を起こそうとしてようやく、自分の手に何かが触れているのを感じた。
見ると、色白の小さな手がアルベリクの手を
「バカな……」
アルベリクは
自分が黒竜ディオニールから与えられている加護は、王国の繁栄と
たとえ眠っていても、人の近づく気配には反応するはずなのだ。
(俺が他人の気配に気づかず……ましてや手を握られた状態で眠り続けていただと?)
異常な目覚めの良さといい、何かがおかしい。
アルベリクは、握られていた手をそっとほどいた。
女性のふわふわとした金髪から、夢の中で見た金色の小さな羊が連想された。
(まさかな)
アルベリクは女性の
「おい、起きろ。こんなところで寝ていては
地べたに
「う……ん、もう一皿……」
アルベリクは女性の
女性の身体はとても軽く、風が
バラのアーチをくぐって緑の小道を抜けると、広間へ通じるテラスが見えた。
アルベリクの姿を見つけたリュカが
「アル……いえ、陛下。そちらのご婦人は?」
「庭園で拾った」
「拾った?」
「よく眠れたのですか?」
「ああ。自分でも
アルベリクは、抱きかかえている金髪の女性に視線を落とした。
どうして、彼女のそばで自分は目覚めなかったのか。
夢で出逢った金色の羊は何者なのか。
彼女に触れていると、心身が軽くなる気がするのはなぜか。
次々と浮かんでくる疑問が、アルベリクの心を突き動かした。
「この女性を俺の妃にする」
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