第7話 『ユキ』という男
雪は手のひらに落ちてきた途端に、儚くもジワリと溶けてしまう。
まるで、淡い恋心が誰にも気づかれずに終わってしまうような……。
初雪を観測した空はグレーに染まっている。ミゾレ雪がハラハラと漂う空虚な空を見つめていた。何の希望も無い。時限爆弾が仕掛けられている僕の心臓は、いつまで生き存えるのか。未来が見えない僕は、ただ生かされているだけなのだ。周りの人は僕に気を遣って優しく接してくれるけれど、腫れ物を扱うかのようで、時々居た堪れなくなる。
どこにいても、息が詰まる……。
気晴らしに外に出た。家族には心配されたが、臆する事なく一人で外出をした。
近くの公園に行くと芝生が薄らと雪化粧をしていた。
「い……ったぁい」
ミニスカートに長いブーツ、モコモコのマフラーをぐるぐる首に巻いたロングヘアの女の子が雪の中でうずくまっていた。
「君、大丈夫?」
「……すみません。手を貸してもらえますか?滑って転んじゃって!あはは」
膝を擦りむいているのに、人懐っこく笑いかけてくる女の子。僕は咄嗟に手を差し伸べた。
「ありがとうございます!血が出てるし、痛いぃ」
「気をつけて下さいね。じゃ」
「待って!助けていただいたお礼にこれをあげる」
モコモコのバッグの中を漁って、出てきたのはグミだった。僕は甘いものは苦手だけど受け取った。余談だけど、今でも、その時に貰ったグミは机の上に開封せずに置かれている。
駅まで二人で歩きながらいろいろな雑談をした。
「今日は楽しかったです!SNSの交換しませんか?」
現実の彼女の事は知らない。この先も知る必要が無い。
僕は、彼女に『雪』と名乗り、慌ててアカウント名を変更した。
ぴったりの仮名だと思った。
だって、彼女より先に僕は死ぬんだから。
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