第53話 GWも終わりなので雑談配信

 並走企画は一応終わったが、結局全員がクリア後の世界が気になったために次の日も配信枠を取っていた。連携を取ることもあり、全員で最高難度の星6レイドをやったり、チャンピオンの正体を探ったりというサブイベントをやった。


 俺の場合はチャンピオンであるフェルトちゃんの正体を知っているから、内面を深く知るのとついでにバトルをするというだけだった。


 霜月さんと水瀬さんもルートを進めていってチャンピオンの正体を知ったらしい。最後には俺がやったような伝説のポケクリがたくさんいるパーティーと戦ったようだ。


 俺はサブイベントだけちゃっちゃと終わらせて配信を閉じた。2人に呼ばれたらレイドなどをやったが、基本は短い時間での配信になった。


 お昼過ぎ、五反田マネージャーから電話がある。GW最終日であるものの攻略サイト周りの話とかで動いてもらったせいで若干申し訳なくなっている。


「五反田さん、ちゃんと休めました?GWに働かせちゃってごめんなさい……」


「いえいえ。どこかで振替のお休みいただきますから。それにだいぶ話題になってくれたおかげで社長は高笑いしてましたよ。水瀬さん周りで動いているようで社長も忙しそうにしてましたね」


 水瀬さんの1人暮らしに向けた資料作りをしているらしい。ちゃんと動いているようで安心だ。


 あとは俺たちFORの3人が今回のポケクリで話題になったからか、各種広告などでも効果が現れているのだとか。詳しくは知らないけど、公式HPへのアクセスや物販が右肩上がりだとか。


 そんな中で五反田マネージャーが確認したいことは数点。


 俺が作った曲を使用する許諾が欲しいとかで、一度契約書を送るので内容に同意したのならデジタル署名が欲しいこと。それから今後の案件についてで、打ち合わせと当日の予定を抑えたいと言われてスケジュール帳と確認して問題ないことを伝える。


 会社として様々なことが動いていることと、それと今日解禁の情報を伝えてもいいですよという話だった。


 続いて、今日から新人2人のSNSとチャンネルが解禁。配信自体はまだ先でもこの良い流れに沿って駆け上がりたいということらしい。新人2人もアピールとかがしたいようなのでちょっと長く告知をするようだ。


 俺なんて配信の3日前くらいにSNSの解禁だった。俺もよく知る表の炎上もあって酷いコメントが山のように来ていたのが懐かしい。


 最後に他箱や個人配信者などから来ているオファーについて。どんな人か調べていたようでどこまでだったら事務所としてコラボを許容できるか、みたいなことを話していく。コラボを受けるかどうかは俺が判断していいようなのでその人の配信を見てから判断することにする。


 時間を見つけて相手のことを知ろうと思う。


 そして夜。今日は珍しくただの雑談配信をすることにした。ゲームをするでも、作業をするでもなくただの雑談とお便りの消化だ。


 ポケクリで話題になってしまったのか、お便りがめちゃくちゃ集まってしまった。それを消化しておこうと思っただけ。


「こんばんは。秘境の里へようこそ、歓迎しますよ。絹田狸々きぬたりりです。今日はただの雑談配信をしていきますよ」


『こんばんは、リリちゃん』

『ただの雑談って珍しくね?』

『初見です』

『初見がいるのか』

『ポケクリに釣られて来たんだろ』


 ただの雑談配信なのに結構な人数が集まっている。ポケクリ配信とかに比べれば少ないけど、雑談配信で考えるとかなり多い。


 GW最後の日ということもあって他の先輩方も配信をしていたり、家でゆっくりしていたから画面を見なくていいという意見もあるようだ。


 ラジオみたいに音だけを楽しむ層もいるんだな。中には俺のことをイケボと言ってくれる人もいるのでそういう人とかは声だけでも楽しめるのかもしれない。


「ポケクリは一旦クリアということで、今後はイベントがあったり誰かと対戦をしたいとなったらやります。あとは『お客さん』がクリアし始めたら交換会とかやっても良いですね」


『交換会!やりて〜!』

『親:リリってだけで欲しいわ』

『ちょっとクリアしてくるわ』

『今作難易度結構高いぞ。リリがおかしいことを知って欲しい』

『なんだかんだでFORの全員、ゲーム上手いよ……』


 ポケクリの話もしつつ、お便りの紹介コーナーに移る。


 明らかな悪口とかを除いてほとんどの質問には答えていくつもりだ。


「『先輩方と出掛けることを結構聞きますが、誰から誘われるんですか?』まあ、男の先輩方とは良くさせてもらってるんですが、基本は先輩方が誘ってくれて付いていく形ですね。男女問わず先輩が後輩を呼ぶ文化があるみたいです。オフコラボしてたら大体ご飯に行きますね」


『それは良く聞く。エクリプスは事務所に集まるとすぐ食事に行くらしいな』

『実際配信でしか絡まないから、そういう場所でコミュニケーションを取るのは大事だよな』

『仲良しなのは良いこと』

『遠方勢とはそういう時じゃないとあまり話せないし』


 Vtuberあるあるではある。いつもリモートで会話しているだけだから実際に会ったらご飯を食べに行くことが多い。そうじゃないと数ヶ月会わないなんてことがザラなために、会える内に会っておこうという精神が結びついているらしい。


 卒業とかもある業界だ。最後に顔を合わせないまま終わり、なんてこともあるかもしれない。


 エクリプスは遠方の人が実はネムリア先輩くらいしかいないので割と気軽にオフコラボや収録ができる。


「続いて『一番頼りになる先輩は?』ですか。男の人だったらゴートン先輩で、女の方だったらオーフェリア先輩ですね。あの方々、本当に気配りのプロというか。どんなことがNGかとか事前に確認してくれるんですよ。そこまで配信者って確認しませんからね?」


『ゴートンとオーちゃんか。納得』

『オーちゃんを挙げる人多いよね。あとドロッセル』

『男だとゴートンなんだ。宗馬とかそういうの好きなイメージ』


 報連相が割としっかりしている事務所だと思う。配信者って何故か遅刻グセとか、マネージャーとあまり連絡を取らないみたいな風潮が出来上がっているけど、エクリプスはそんなことを感じない。そういう話を聞かないだけかもしれない。


 あ、でも五反田さんも提出物がしっかりしてるっていつぞや言ってたっけ。だから実際にはだらしない人もいるのかもしれない。


 多分そういうのがだらしないのって職業柄、なんだろうな。


「『曲とか作る時ってどうしてるの?』これも結構ある質問ですね。自分としては頭に浮かぶ音をそのまま出力してるだけなので。他の流行曲とか聞いて学んだりとかもする人はするでしょうが、僕って作曲は趣味だからあんまり勉強はしてないんですよ。こういう曲が欲しいなって思ったから出すだけで」


『そういうもん?』

『クリエイターあるあるなのかも』

『逆にバズってやろうとか考えてなくて、やりたいことやってるから良いんじゃね?』

『提供した楽曲については?』


 今言ったのはあくまで歌詞を付けない曲についてが多い。楽曲ともなると昔の曲をバンド向けに調整したりするからそれはまた別の話になるんだよな。


「提供する曲の場合は歌う人のことを意識して調整しますね。つくづく僕って作曲だけで、歌詞を書くのは難しいなって思うんですよ。今後は他の人にお願いする方がいいかもしれません」


『ええー?エリーの曲とか良かったのに』

『割と少女趣味の歌詞、好きだよ?』

『リリってピュアよな。『走り出した風が私には痛くて』とか『甘いって嘘に騙されたいと思った』とか、ホントに男なん?』

『作詞:リリって見るたびに笑うもん。あれ本当にみなちぇとか霜月さんが書いてたりしないの?』


 作詞はなあ。本当に時間がかかって、これで良いのかと思って提出する。


 霜月さんも水瀬さんも、文句なくOKを出してくれるし、他の人もそうだ。だから自分でも自信がないまま出している。


 既にアップされた楽曲のコメント欄は見にいくけど、そこまで酷い言葉は書かれていない。SNSにはありそうだが、そこは見に行くつもりがないから評判は知らない。


 動画の再生数と各種音楽サイトでのダウンロード数だけ知っていれば十分だろう。


「作詞ってなんていうか、自分をさらけ出すみたいで恥ずかしいんですよね。楽曲も自分のくせとかたくさん出てるはずなのに言葉だからか余計に恥ずかしいというか。僕は小説とか詩とか書けませんね」


『書ける書ける』

『リリの書く恋愛小説とか読みて〜』

『ユービルにそういう機能あるよな。メモ帳みたいなもんだけど』

『他の箱だとそういう物語を集めた施設もある』


 なんでか言葉を連ねるってかなりの恥ずかしさがあるんだよな。どっちも同じ創作なのになんでだろう。


 せっかく2人が歌うのだからイメージに合うような曲にしたかったのもある。


 労力が、多分違うんだろう。あと脳の使うところ。


『なんていうか、リリの書く詞はラブレターみがある』

『実際2人のために書いてるんだし。特に『polar night/Luna』はまさしくじゃん』

『ということはやっぱりリリは2人にラブレターを送っていた……?』

『二股だーwww』

『私もリリちゃんからラブレター貰いたい!』


「え、嘘?作詞の話でボヤみたいになるの?」


 それは想定していない。


 「polar night/Luna」は励ます目的で作った歌だからそう認識されるのはしょうがないけど、残りの2曲は合う歌を提供しただけなのに。


 弄ってるだけだろう。多分。


「あれは2人からのリスナーへの愛ですよ。僕からじゃありません。そもそも2人からもリクエストをもらっていますし」


『エリーとなっちゃんを通じて俺たちはリリの愛を受けていた……?』

『どんだけ同期好きなんだよ。良いことだけど』

『っていうかリリの歌ってみたは?ずっと待ってるんだけど』

『ボイスもはよ』

『ちょっと⁉︎公式からコラボカフェの情報出てるんだけど!しかもリリの鍋あるじゃん!』


 おや、とうとう情報解禁されたか。


 前々から話の出ていたコラボカフェが本格的に決まって予約抽選が始まった。当日券ももちろんあるけど、優先枠なら並ばずに入れるらしい。詳しくは公式HPを見てほしい。


 俺のメニューは前に作った鍋を1人分に調整したもの。おじやもついていて、コラボ商品としてイラスト付きのコースターが付くらしい。一緒にコラボ商品の発売もやっていくようだ。


 9月からなので割と先だけど、コラボ情報は結構前倒しで出すようだ。飲食店とかとのコラボは直前で出すが、場所が決まっているものは休みを獲得するために社会人へ向けて早めに告知を出すのだとか。


 グッズとかみたいに近場で買ってくださいとか、通販で、というわけにはいかずに現地に来てもらう必要があるから告知は早くする。ライブとかと同じだ。


 コラボカフェ用の撮り下ろしボイスもある。告知動画のものとは別に店内で流すものを収録予定だ。


『え?グッズの最速がコラボカフェってこと?』


「グッズはもうすぐ出せそうです。ただFORのグッズと同時になっちゃうらしくて、僕単品は最速で来月辺りですかね。ボイスも、鋭意準備中です。歌ってみたは……気長にお待ちください」


『進んでるならええわ』

『歌ってみたはまだだけどオリ曲が来る可能性は?エリーとかなっちゃんもその口だし』


 ボイスは、台本ができている。目を通したから後は収録して、出すのは事務所にお任せになると思う。


 歌ってみたも、何故だか許諾が降りたようで歌おうとしていた歌が歌えるらしい。バリバリのアイドルソングだし、ある意味伝説の歌なのに。


 まだ水面下のものは口に出さず、それからもお便りを消化していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元俳優、タヌキVtuberに転生する @sakura-nene

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ