第66話『優しくしないと泣いちゃうんで気をつけて』

 通されたのは個室だった。微妙に薄暗い室内。灯りに薄い布が被せてあるからだ。

 椅子が足りないからと言ってキヨとハヤはベッドに座ることになった。俺とレツは椅子。椅子が足りない個室、その上ベッドって……


「じゃあ自己紹介。キヨはもうわかってるけど、他の人は?」

「ハヤです。白魔術師やってます」


 ハヤはにっこり笑って何のためらいもなく普通に答えた。ハヤが答えると、女の人たちがレツに注目した。


「え、あの……レツ、です。剣士、です。こいつも剣士だよ」

「この子も剣士なの? かわいー!」


 ハヤの隣にいた女の人が唐突に俺の頭を撫でた。

 何かものすごく子ども扱いなんだけど……俺だって、レツと同じくらいモンスター倒してるってのに!

 でも俺は何も言えず、両手で握ったグラスからソフトドリンクを飲んだ。問題は身長だ。身長がいけないんだ。ハヤが笑いを堪えるみたいな顔をしていた。ちっくしょー……


「じゃあ今度はこっちね。私はキコ」

 キヨの隣の彼女はそう言って片手を挙げた。それからハヤの隣の子に振る。

「私はメリダよ、それから彼女がファンミ」

 そう言って彼女はレツの隣の女性を示した。紹介されたファンミは、ちょっとだけ肩をすくめるみたいにして会釈した。


 キコは赤っぽくてふわりとしたカールの長い髪。目鼻立ちがはっきりしていて普通に振り返っちゃいそうな美人だ。

 メリダは何となくおっとりしていそうな優しい感じで、輝くようなプラチナブロンド。ファンミは二人よりちょっと年下っぽくて、ぱっちりとした目が印象的な可愛い顔立ちの、やっぱりプラチナブロンドだった。

 なんというか、すごくレベル高い女性ばっかじゃないですか。


「キヨがどーーーしてもって言うから、エルフの友達呼んだんだからね」

「二人ともエルフなの?」

 俺はメリダとファンミを見比べた。二人は顔を見合わせてからちょっと笑う。

「別に見た目からすごい違うって事ないからね」

「特別っていうなら、この髪くらい?」

 きらきらしてる色素の薄いプラチナブロンド。ファンミが髪をかき上げると、尖った耳が見えた。あ、やっぱエルフだ。


「ホント、すっごいキレイ」

 ハヤはそう言ってメリダの長い髪を、指先でちょっとだけすくうようにしてさらりと触れた。ハヤがイケメンだからか、初対面の女性の髪に触れたってのに嫌らしさがなかった。いや、アレもプロのお仕事なのかもしんない。


「俺が言ったからってエルフの友達呼んじゃうとか、キコも強気だな。っていうかもしかして、もう俺じゃなくてレツ狙い?」

 キコはそれを聞くとぷうっと膨れた。

「もう、キヨってばひどい! じゃあレツに浮気しちゃお」

 キコはそう言うと立ち上がってファンミを促して席替えした。レツはおどおどとキヨとハヤを見比べる。キヨはそれを見て笑った。

「うちの剣士超デリケートだから、優しくしないと泣いちゃうんで気をつけて」

 言いながら隣に座ったファンミのグラスに、自分のグラスを合わせて飲んだ。キヨの飲むペースはいつもながら速い。


 っていうか、このちぐはぐな飲み会の目的って何なんだろ。キヨは情報収集に出掛けてったはずなのに。っつか、いつもこんな風に飲んでるんだろうか。あれか、人間性の認識を改める感じの。


「でも、どうしてエルフに会いたかったの?」

「男なら誰だって、エルフの女の子に会いたいと思うよ」

 でもそのセリフをナチュラルに吐けるのってハヤだけだと思う。メリダはちょっと照れたような顔で笑った。

「もう、みんなエルフのファンなの? ひどーい」

 キコが拗ねてレツを見ると、レツはあわあわしながらボトルを取った。

「そんな、キコは美人だからみんな臆しちゃってるだけだ……よ」

 言いながらキコのグラスに酒を注ぐ。キコは拗ねた顔からパッと笑顔になって「レツは優しいー」と言ってレツに寄りかかった。

 レツはやっぱりどぎまぎした顔でなぜか俺を見た。おおお俺に振らないでよ。


「俺たちがいた街じゃエルフってあんまり居なかったんだ。ほら、もともとエルフって自国から出て来ないだろ?」

「エルフの国があるの?」

 キヨの言葉に俺が言うと、ファンミが俺に向き直った。

「ここの近くのは確かに国だけど、他のとこだとちょっと違うかも。エルフって深い森の中で暮らしてるから生活圏が違うって感じかな」

「でも……モンスターは大丈夫なの?」


 俺が言うと、エルフの二人は同時に吹き出した。

「エルフは魔法が使えるから大丈夫よ」

「もともと人が使えるようになった魔法はエルフのものなの。人の場合は才能がないと使えないんだけど、エルフはみんな使えるの。個人差はあるけどね」

「こういうとこじゃ、人が多くて全然わかんないけどね」

 メリダがそう言うとファンミも笑って「ごちゃごちゃしちゃうもんね」と言った。

 じゃあ、メリダもファンミも生まれつき魔法使いなんだ! すごい。それならきっとモンスターに対する結界とかも、俺たちがやるより頑丈なのが敷けるのかもしれないな。


「そうそう、だから俺たちの街に出てくる事もあんまりない」

 ハヤは言いながらメリダのグラスに酒を注いだ。ハヤが好む発泡酒じゃなくて、琥珀色のとろりとした甘めの酒。キヨは種類関係なく飲みまくってるけど。

「この辺って、みんなこんなに普通に街に出てきてるんだな。キコに話聞いた時は驚いたよ」

「この辺は意外といる感じよね、私たちだって街で知り合ったんだし。やっぱ王都が近いからかな?」

「そうね、森の中で暮らしてるとエルフしかいないし、エルフ以外の男の子と知り合いたいなって子もいるし……」

 メリダはそう言って上目遣いにハヤを見た。


「レツみたいに剣士じゃないし、魔術は珍しくないだろうけど、合格?」


 ハヤは伺うようにそっと言って、ちょっと笑った。メリダもそれを見てくすぐったそうに笑う。っつかここ二人、もうイイ雰囲気なんですけど。どうすんの、旅とかいろいろ。


「すごい剣……振り回してるだけと思ってたけど、剣ってこんなにキレイなんだー。黒魔術師のキヨもかっこいいけど、剣士のレツもかっこいいね」

 キコはレツの剣をまじまじと見てから、にっこりと笑いかけた。

「あ、ありがとう」

 レツはやっぱりちょっと引き気味だったけど、剣を素直に褒められて嬉しそうに笑って答えた。


 キヨが自分で酒をグラスに注ごうとすると、ファンミがボトルを取ってお酌した。キヨは注いでもらったグラスをちょっとだけ上げて、小さく笑ってお礼を言う。

「君も、エルフ以外の人と知り合いたかった方?」

「え……うんと……」

 ファンミはちょっとだけ視線を外して言葉を濁した。するとキヨは少し苦笑した。

「何か、ファンミはハードル高そう。俺じゃダメみたい」

「そ、そんな事ないよ!」

「そうかな?」


 キヨがそう言ってグラスに口を付けたまま、ちょっとだけファンミを真っ直ぐ見つめた。ファンミは赤くなってキヨを見る。でも数秒後、キヨの方から少し笑って視線を外した。

「まぁ、そんなガッつくつもりはねーけど。何か他に気になることあるみたいだし」

「え?」

「もしかしてもう相手とか居るんじゃね?」

 キヨはグラスを傾けながら軽く冗談めかして言った。ファンミは真っ赤になって慌てたように両手を振った。

「そんな事ないって! 違うの、ちょっと不安な事とかあって……」


「不安な事?」

 ハヤはそう言ってメリダを覗き込んだ。メリダもちょっとだけ困った顔でファンミを伺った。

「それって、結界が不安定になってるってアレ?」

 キコがグラスを取って言うと、ファンミは小さく頷いた。結界が不安定?


「うん、何か……森では全然そんな話聞かなかったんだけど、この辺の噂では王家の力が弱まってるからってなってるし……そんなことって今までなかったから」

「実際逃げてきたって人もいるもんね」

「王家の力で結界って保ってるの?」

 俺が言うとメリダとファンミはお互いに顔を見合わせた。それから俺に向き直る。


「うん、5レクスの結界ってあるじゃない? あれって、妖精王との契約で出来てるの」

「そうなの!?」


 俺がびっくりしてキヨを見ると、キヨは何となく呆れたような顔をした。

 え、だって俺5レクスの結界って諸国の王が取り決め交わして敷いてるって思ってたよ? モンスター狩りを安全に行う範囲として……って、もしかして違うのかな。

 しょうがないじゃん、俺は学校も行ってないし、大ざっぱなことを集落の大人に教えてもらった程度なんだから!


「人間と妖精エルフは同じ世界に暮らしてる。ただ人間が求めて発展する形とエルフのそれとは違う。人間は欲深いが、エルフは自然を愛し共に暮らす種族だ。だから下手すると人間はエルフを迫害しかねない。ただ人間にも決定的な弱点があって、それがモンスターの存在だ。

 そこでこの国の人間の王と妖精王は手を繋ぎ、5レクスの結界を敷いて人間にそこそこ安全な環境を整える代わりに、エルフの生活する森に手を出さないよう契約したんだ」


 キヨが言いながらチラリとファンミを見ると、彼女は少し照れたように小さく笑った。

 キヨの説明はまるで教科書みたいだけどわかりやすい。さりげなく人間を貶めてエルフの存在を褒めてる感じは、あれか、ファンミたちに対するプロのお仕事か。


 5レクスを越えても、その向こうに5レクス以内と同じ世界があるのはそういう訳だったんだ。

 世界はどこまでも広がっているけど、モンスターの脅威をギリギリまで抑えて人間が暮らせる範囲の確保を、妖精王との契約で作り出していたんだ。


「5レクスのレクスって、王様って意味なんだよ。王の定めた距離って意味があるんだ」

 ハヤがにっこり笑って付け加えた。俺と同時にレツもへぇーと声を上げた。レツは学校行ってた人なのに。

「あれ、そしたら俺たちの集落とかに護りを敷いてくれる魔導師って……」

 俺が呟くと、メリダはにっこりと笑った。

「うん、それエルフの魔導師よ。諸国を旅してるの」

 そうなんだ! じゃあ俺も実はエルフに会ってたんだな。


「じゃあ、その王様の調子が悪いって事なのか?」

 キヨはグラスに口を付けながらファンミを見た。彼女は少し言いにくそうにしながらキヨを見る。

「王様のって言い方はちょっと違うかな。人と違って魔法の力は常に私たちと一緒にあるから、維持するためにずっと集中してなきゃとかってのはあんまりないの。私たちくらいだと人の間にいると鈍るんだけど、だからって調子が悪いとかで魔法の力が不安定になるって事はなくて……」

 ファンミは言いながらメリダを伺う。メリダはちょっと頷いてから言葉を継いだ。


「人の魔法と違って、魔法の契約って交わしていればずっと有効なのね。ただ命との契約はしないの。契約をした人が亡くなったら契約そのものが消えちゃうし、逆に存命中はずっと有効って事になっちゃうから。5レクスの結界をかけたのは前の前の王様で、今も続いてる人間の王家との契約だから、今の妖精エルフの王家との契約って事になってるはず」

「え、ちょっと待って、それってつまり、王様オンリーの問題じゃないってこと?」


 メリダはハヤの言葉にちょっとだけ困ったように頷いた。ん? 何か微妙によくわかんないんだけど……

「えー、何かよくわかんない。妖精エルフの寿命ってすごい長いんじゃなかったっけ? レツわかる?」

 レツはキコに唐突に振られて、思いっきり首を振った。よかった、わかってないの俺だけじゃないや。っていうかレツ、必要最小限しかしゃべってないな……するとファンミもメリダも楽しそうな笑い声を上げた。

「今はそんなに人と変わらないよ。太古の昔は何百年とか生きてたみたいだけど」

「そうなんだー、じゃあエルフも普通にライバルなわけだ」

 キコはそう言ってパンチするみたいにげんこつをファンミに突き出した。ファンミは笑ってげんこつをごつんとくっつけた。


「たぶん、今の人間の王家に対する契約ってのは、お互いの王家が続く限り有効な契約って事なんじゃねーかな。人間の王家が何かあって取って代わられたりしたら、妖精王との約束を反故にしかねない。だからお互いきちんと約束事を守れている間だけ有効になるように」


 キヨは言いながらベッドに後ろ手をついて、グラスを傾けた。

 そっか、欲深い人間側に何かあって王家が倒れた時、5レクスの結界がその後も保つんだったら人間は妖精エルフの国を攻めてしまうかもしれない。

 でも王家が倒れると共に契約が切れるのなら、エルフたちは5レクスの結界を解いてしまう事が出来る。5レクスの結界がなければ、俺たちが旅の間見てきたようなとんでもないモンスターたちがあっさりと人を襲うだろう。そうなったら、人間たちは妖精国を攻めることなんかできない。攻めてるヒマなんてなくなっちゃう。


 でも……あれ、もともと結界がない時に人間が妖精エルフの脅威になりかねないから、そういう契約が成立したんじゃないのかな。


「人間が脅威となるのは、対妖精エルフじゃねーよ」

 キヨは半分くらい寝転がりそうになりながら、ぐいっと体を起こした。

「じゃあ何?」

「対自然、かな」

 ハヤがそっと言う。

 あ……妖精王の契約は、エルフじゃなくて自然を守るためのもの……自然を破壊したら妖精エルフたちの住むところがなくなっちゃう。


「でもその契約が王家とのだとしたら、余計にわけわかんないな。結界が不安定になるのは、王家そのものが不安定ってことになる」

 キヨがちょっとだけ二人を伺いながらゆっくり言いつつボトルに手を伸ばすと、ファンミが一瞬早く取ってキヨのグラスに注いだ。キヨはちょっと笑って礼を言った。


「でもそれって噂だから……だけど、ちょっと怖いでしょ? 森じゃそんな話全然聞かないし、でもそんな風に結界が不安定になってて、それが妖精王の所為みたいに言われてるって思うと……」

「人間が悪いコトしてるはずだから、見に行こうと思って来た?」

 キヨがそう言ってファンミを覗き込むと、彼女はちょっと赤くなって「もうっ」とか言いながらキヨの腕を叩いた。キヨはくすくす笑う。


「不安定なのは心配よ。いくら自分たちのところは安全でも……もしそれが人間との契約が関わってくるんだとしたら、それって人間にも影響することじゃない? そしたら、キコとも会えなくなっちゃうかもだし」

「えー、私危険になったら二人のトコに逃げるー」

 キコがそう言って手を伸ばすとファンミは笑って手を繋いだ。

「……まぁ、そんな事にならないといいけどね、みんなのためにも」

 ハヤはまとめるみたいにそう言ってにっこり笑った。


「ねぇ、レツたちっていつまでマルフルーメンにいるの?」

「えっ……」

 レツは唐突に声をかけられて今気付いたみたいに顔を上げ、それからちょっと困った顔でキヨとハヤを見た。半分くらい寝てたのかな……無理してお酒飲んでるみたいだし。なんかふわふわしてる。

 キヨはちょっとだけ眉を上げ、ハヤをチラッと伺った後グラスを置いた。


「……明日出発予定」

「えー! そんなに早いの? もっと早く会えたらよかったのに」

 いや、今日着いたばっかだからそれは無理だったと思うけどね。

「そしたら、朝まで飲む? 二人も私んちに泊まれば全然大丈夫だよね」

 キヨとハヤを挟んだ二人はお互い見合ってくすくす笑った。

 え、ちょっと待ってホントに朝まで飲んだりするの? 俺なんとなくっていうか、かなり眠くなってきた気がするんだけど……

「あ、ちっちゃい剣士くんは眠そうだよ。寝ちゃう? ベッドあるし」

 俺は驚いて目を見開いた。それはない! みんないるとこで寝るとか、超恥ずかしいんだけど!


「うーん、せっかくいいベッドなのに、こいつに使わせるのはもったいない、な」

 ハヤは言葉が終わるより前に、唐突に隣のキヨを押し倒した。う、えええええええ!?

 弾かれたようにファンミとメリダが立ち上がって後ずさる。何やってんの!


「!? バカやめろ!」

「広いベッドって久しぶりじゃん? 暴れ甲斐ありそうっていうか」

 キヨの両腕を押さえるハヤはキヨに跨ったまま舌なめずりした。

「何考えてんだよお前! っつか人前!」

「見られてる方が燃えるかもだし?」

「え、え? 何、ハヤとキヨってそうなの!?」


 キコが驚いたように立ち上がって、レツと二人を見比べた。ファンミとメリダはどっちかっていうと愕然としている。っつかそういうの今やらなくても!

 俺は見てられないから視線を外してジュースに集中した。レツは何かボーッとしてもみ合う二人を見ている。端から見たら放置って感じだけど、たぶん眠いだけだろう。


「お前はいつも……飲むだけって選択肢ねぇのかよ!」

 キヨはハヤを押し返そうと暴れてるけど、明らかに力負けしている。

「ないね、キヨって飲むとほら……ヨくなるじゃん?」

 ハヤはそう言ってキヨの首筋に顔を埋める。途端に蹴り上げていたキヨの足がぴたりと止まった。うわああああ!


「ちょっと、マジで?! なにそれ信じらんない! 二人とも行こ!」


 キコは憤慨してものすごい勢いでドアを開けるとさっさと出て行き、ファンミとメリダも勢いに負けてキコを追って部屋を出て行った。

 やけに静かになった部屋に、ドアの閉まる乾いた音が響いた。華やかな女性がいなくなった後は飲み散らかした机がやけに寂しく見えた。


「……ったく……もうちょっと他に手はなかったのか」


 足音が完全に聞こえなくなってから、キヨが寝転がったままハヤの頭を叩いた。

 ハヤはキヨの胸に突っ伏してクスクス笑っている。あーやっぱ演技だったんだ……ちょっとビビッたけど。ちょっとだけ。


「だってしょうがないじゃん、もう必要なかったんでしょ?」

「それはそうだけど」


 えええ! それじゃもしかして今のってあの三人を追い払うため?! 必要ないとかこいつら最低だろ!


「こら、深い付き合いじゃなきゃ振られるより振る方が気持ちは楽。だと思わなかったと怒ってネタにできる方が、女の子は傷つかないもん」

 ハヤは顔だけ俺に向いて言った。

 ハヤたちが期待外れなら手放すのに未練はないってことか……っていうか、あれって彼女たちが振ったって言えるんだろうか。振られたようにも思えるんだけど。大体キヨがもう必要ないって思ったとか何でわかるのさ。


「キヨリンがあの子の言葉尻取ってたからね、必要なら裏の裏まで聞く人が。それに明日出発って言っちゃうってことは、心置きなく別れられるって意味じゃん」


 ……そう、なのか? そうなのかな。そういう言外のやり取りとかってわかんねーけど、キヨが否定しないんだからそうなんだろう。

 そうか、さっきのキヨのセリフ、『いつも』って普段から悪ふざけしてる事じゃなくて、彼女たちに二人がそういう関係って思わせるためだったんだ。


「って言うか……」


 キヨがため息混じりに言う。あれ、何かハヤの読み、違うのかな?

 俺もハヤもキヨに向き直った。


「いい加減、どけ」

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