11.

緊張をほぐそうと深呼吸していると気づいたら僕の腕を掴んでいた桜ちゃんはいなくて、宇都宮君の取り巻きの輪の中に僕だけが残されていた。


あれ?桜ちゃんどこ行ったんだろう?



「すばるん、こっちこっち~」



「え、桜ちゃん?わぁ!?」



そして桜ちゃんの声が聞こえて後ろを振り向いたら誰かの足につまづいて転んだ。一応両手で受け身はとったから大した怪我はないけど…手のひらと膝が地味に痛い。



「昴…大丈夫?」



「へぁ!?う、宇都宮君!?」



そうだった、僕宇都宮君の取り巻きの輪の中にいたんだ。女の子達が沢山いる中でつまづいて転ぶなんて恥ずかしい…。

素早く立ち上がって膝についた汚れをはらう。



「だ、大丈夫だよ、少し転んだだけだから」



「本当に?怪我はない?」



「う、うん」



少しだけ手のひらと膝が打ち身でジンジンしてるだけ。

うん、これぐらいなら大丈夫かな。



「やっぱり心配だから保健室行こう昴。稔、僕達保健室言ってくるから教授に伝えといて」



「あぁ、わかった。ちゃんと教室戻ってこいよ?」



「わかってるよ、じゃあ昴行こっか」



「え、あ、でも宇都宮君…」



僕は本当に大丈夫だからって言おうとしたけどそれはできなかった。

なぜなら宇都宮君にお姫様抱っこをされているからだ。

それを見ていた周りの人達が騒ぎ出すが宇都宮君は気にせず僕をお姫様抱っこしたまま歩き出す。



「う、う宇都宮君」



「ん?暴れちゃダメだよ?床に落とされたくなければ…ね?」



「わ、わかった…」



恥ずかしいからおろしてって言おうとしたんだけど、宇都宮君の笑顔がなんだかこわくて言えなかった。


どうしたんだろう?何か嫌なことがあったのかな??

こんな状況でも推しのいつもの笑顔とはまた違った表情にドキドキしちゃう僕はもう病気かもしれない。



「ふふふ、今日は昴が顔を隠してないから可愛い顔がよく見えて嬉しいよ」



「……」



「あ、隠れちゃった。昴はいつになったらちゃんと長時間俺と顔合わせてくれるのかな~」



いやいや、推しと長時間顔合わせるなんて僕には一生無理だよ。だって推しだよ?憧れの推しとどもらず普通に話せるようになれたのがまず奇跡だもん。

だからそんなプレッシャーを感じるような言い方はしないでくださいぃ。



「まぁゆっくりでいいけどね。ほら、保健室ついたから手当しようねすーばーる」



「よ、よろしくお願いします」



「ふふ、なんで急に敬語?」



保健室に入るなりベットに下ろされ、膝と手のひらに消毒液をかけられてぐるぐる包帯をまかれる。


どうしよう、包帯まくほど大怪我したわけじゃないからバンドエイドでよかったんだけど…。でも宇都宮君が手当てしてくれた貴重な日だ、今日はそのまま早退して午後は包帯つけたまま家で過ごそう!


だって推しが包帯まいてくれるなんて普通だったらありえないもんね。


なんて思って帰ろうとしたら宇都宮君は僕を再びお姫様抱っこして教室まで運び、宇都宮君の隣に座らされ授業を受けさせられたのだった。


しかもその日は僕が歩こうとすると必ずお姫様抱っこをされた。


ひぇ…僕、捻挫はしてないんだけども…。


推しからのお姫様抱っこが恐れ多くて断ろうとすれば、「昴は僕の事嫌いなの?」と目をうるうるさせながら言われたので断れなかった。


宇都宮君のシトラスの香りに僕はドキドキしぱなっしだった。

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