第15話 悪役アビロス、聖女とオークダンジョンに潜る

 俺と聖女ステラは、オークキング討伐のためオークダンジョンに潜っている。ラビア先生の卒業試験だ。


「オ、オンナ~~人間のオンナ~~」

「グフグフ~美味そう~~グフグフ~」


『ゲヘヘヘ~~聖女~~俺様のオンナ~~ゲヘヘへ~』


 そしてダンジョン1階層に入った瞬間これである。

 複数のオークが嬉々としてこちらへ押し寄せてくる。


「ちょっと! いまオークの言葉にまじってアビロスもなんか言ってませんでした?」

「何言ってるんだ! そんなわけないだろ、そんな事よりもこいつらをなんとかするぞ!」


 あぶねぇ……俺の中のゲーム悪役アビロスがいらんことを口走りやがった。

 オークと変わんねぇセリフじゃないか。


 しかしそんなことより―――


「ステラ! 前衛は俺が引き受ける! 後方支援たのめるか!」

「わかったわ! 任せなさい! こんな奴らに負けないんだから!」


 よし! 彼女がどういう鍛錬を受けたのか知らないが、原作では後方支援がメインだった。

 これが最適のフォーメーションだろう。


 俺たちが陣形を組み終わると同時に、オークの先頭が俺と接触する。

 緑色のオーク、ノーマルオークだ。つまり下位種族たち。



 さ~て、5年の成果を見せてやるか。



「漆黒の闇よ、その禍々しき黒で押しつぶせ!

 ―――重力増魔法グラビティアップ!」


 詠唱と同時に地を蹴り、眼前のオークとの間合いを一気に詰める。


重力付与剣グラビティソード―――!」


 重力で加速された刃が、オークを頭上から叩き割る。

 さらにその後ろからこん棒を振り上げるオークにも、同じ斬撃を続けて見舞う。


「「グガッ……お、オンナァ……」」


 2体のオークが重なるようにその場に崩れ落ちた。


「ちっ……死ぬときまで女って、どんだけ飢えてるんだよ。こいつら」



 ステラの方に視線を向けると。


「聖なる光よ! 敵を撃て!

 ―――聖光弾魔法ホーリーバレット!」


 3つの白色閃光弾が、後方のオークたちの頭を吹き飛ばす。


「どこ見てるんです、アビロス! 私の心配は無用です! こんな低級オークごときに遅れは取りません!」


 ステラはそう言うと、次の魔法詠唱を開始してすぐに放つ。

 ふたたび後方のオーク数体が崩れ落ちていく。


 彼女は聖属性もちだ。だから全ての魔法に聖魔力のバフがかかる。

 だがなんの訓練もなしに、これほどの威力と精度を誇る魔法を連発できるはずがない。


 頑張ったんだな……ラビア先生の地獄のしごきを乗り切ってきたんだろう。



 ―――ハハッ、頼もしいぜ、聖女さま。



 なら、俺も―――


 こんなところでモタモタしてられねぇよな!


「おらぁあああ!」


 重力の斬撃を連発してオークたちをなぎ倒し、道を切り開く。


 暫く斬りまくっていたら、オークたちがやみくもに前に出て来なくなった。

 さすがに警戒しはじめたようだ。


 が―――


 それは悪手だぜぇ!



「漆黒の闇よ、その黒き炎の礫を浴びせろ!

 ―――連続黒炎球魔法ブラックボールガトリング!」



 黒炎の弾丸がオークたちに向かって降り注ぐ。


「「「グアァアアア!  ア、アツイぃいいいい!」」」


 オークたちは仲間や地面に黒炎を擦り付けて消そうと暴れはじめた。


「ハハッ! 無駄だ! 俺の黒炎は相手を焼き尽くすまで消えん!」


 俺の新たに習得した【闇魔法】のひとつだ。


 俺の黒炎は闇の炎だ。ちょっとやそっとでは消すことはできない。

 ノーマルオークたちではどうしようもないだろう。


 そして―――


「「「「「「グギュワァアアア!」」」」」」


 密着したオークたちから悲鳴があがる。


 俺の黒炎は延焼する。そう―――燃え移るのだ。


 やがてオークの群れが静かになった。



「まあ、アビロス凄いですね……黒い炎なんて見たことないわ」


 後ろにいるステラが驚きの声をあげた。


 そりゃそうだ、アビロスの【闇魔法】はゲーム設定上だけのもの。制作会社は単に文字情報としていれているだけのものだ。

 だが、その設定がこのゲーム世界では生きている。


 俺だけが使える唯一無二の魔法として。


 綺麗な銀髪と法衣を揺らしてこちらに駆けてくるステラ。


 やっぱメインヒロインだよなぁ……超絶美少女がすぎる。


 ―――!?


 オークの死体の山から、こん棒がズッと突き出てきた。


 マズいっ! 運よく黒炎を逃れたやつがいたか!?


「ステラ! 気を付けろ……」



「―――えいっ!」



 俺が叫び終わる前に、聖杖で襲い来るオークの頭を殴りつける聖女さま。

 掛け声こそ以前と同じくかわいいが、聖魔力がぎっしり詰まった一撃だ。


 打撃の刹那、純白の輝きを周辺に放ったあと、オークはその場に崩れ落ち肉体自体がシュワァアアと消滅していった。


 パンパンと法衣の埃を払うステラ。


「言っておきますが、後方支援だけじゃないですよ! 私も頑張ったんですから!」

「ああ、最高だステラ! このまま1階層を突っ切るぞ!」




 ◇◇◇




 そのまま俺たちはオークを蹴散らして、ダンジョン2階層への階段まで進むことが出来た。


「さて、今日はここまでだな。野営の準備をするぞ」

「ええアビロス、明日は2階層ね。あ~~お腹空きました~~」


 いいな、ステラもまだまだ余裕がある。


 オークダンジョンは広い。

 さらに複数の階層に分かれており、深く潜るほど出現するオークも手強くなる。

 なので、適時休息は取らなければいけない。


 俺たちは作業を分担して野営の準備にかかった。


 ステラは食事だ。教会にも通っていたらしく、炊事当番などで鍛えられたから任せなさい!とのことだ。

 俺は料理はできないからな。といっても携帯食を水で戻したりと、やることは限られるのだろうが。


 一方の俺は……


 四隅を杭でしっかり固定してと……よし!


 テント設営だ。これは俺の得意作業だ。ラビア先生には何度も魔物の森で寝泊まりさせられたからな。


 さて、これで設営完了だ。我ながら素晴らしい出来だな。

 前世ではアウトドアなどに縁のない人間だったが、慣れって凄いと思うよ。


「あ、アビロス……」


 ステラも料理を終えたのか、なぜか俺のテントを見て固まっていた。


「んん? どうしたんだ?」


 なんだ? もしかして俺の設営が気にくわなかったとかか? いや、俺も何回もやってるんだ。そこまでおかしなことはないだろ? 


 じゃあ、なに?


「ちょ……」

「ちょ?」


「―――ちょっと! なんでテント1つなんですか!!」



 ああ……そういや忘れてた……俺の分しか持ってきてなかった……



 ―――おい、どうするんだよ。これ。







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