第13話 悪役アビロス、5年の地獄を乗り越えて成長する

 俺がゲーム世界ブレパ(ブレイブパーティー)に転生して5年が経った。


 目の前には大型の蜘蛛が、ウジャウジャいる。

 ポイズンスパイダーだ。


 が―――


「―――うらぁああ!」


 俺が剣を振るうと複数の斬撃が飛び、瞬く間に蜘蛛はその数を減らしていく。


「まだまだぁああ!」


 魔物の群れに突っ込んで縦横無尽に叩き斬る。斬る、斬る、斬る!


 するとうごめく蜘蛛の中から、ひときわ大きな個体が飛び出してきた。


「へっ! 親蜘蛛さまの登場だな!」


 俺は剣を構えたまま、力強く地を蹴り、その巨大な親グモとの間合いを一気に詰める。


「―――上級重力増魔法ハイグラビティアップ!!」


 そしてぇええ!


上級重力付与剣ハイグラビティソード――――――」


 超重力で加速された刃が、親ポイズンスパイダーを頭上から真っ二つに叩き割る。


 その衝撃派で子グモ達は吹き飛ばされ、木や岩に激突してピクリとも動かなくなった。


「―――よし、こんなもんか」



「それ~~~です!」


 向こうではララが、別のポイズンスパイダー相手に大暴れだ。


「これでおわりです!」


 ―――ブンっ!


猛毒縄ポイズンロープ―――です!」


 縄だ。


 ララがいつも持っている縄。


 親ポイズンスパイダー巻き付いた縄から緑の液体がにじみ出る。


 とたんに、ポイズンスパイダーは狂ったように痙攣を起こして、徐々に動かなくなっていった。



「やりました~~! もう毒は嫌な思い出じゃないです! ご主人様のための毒です!」


 そう言って、ビシッとおれにピースサインを送る美少女メイドさん。



 ララは毒に目覚めた。


 俺から毒を吸い出してからのことだ。

 ララは母上から毎日解毒魔法を受けていたが、それも5年前から必要なくなった。


 5年であらゆる毒を吸収して、なお進化を続けている。


 まあ、そもそも人体実験で生まれた時から毒を注入されていたという悲しい過去があるので、そういう体質になってしまっていたのだろう。


 ポイズンスパイダーはその名の通り毒を吐く魔物だ。

 当然ながら外敵の毒にも強力な耐性がある。


 それを瞬殺する毒をニコニコしながら出すとか……


 凄いよこの子。


 もちろん5年間の努力の賜物であることは間違いない。


 ララはメイド本業の傍ら、空いた時間はすべてラビア先生の鍛錬に費やしていた。

 俺はメイドの務めさえ果たしてくれればいい。と言ったのだが。


「カッコよくて強いご主人様の傍にいるメイドは、強くなきゃダメなのです!」


 とか言って。鍛錬をやり続けている。

 彼女なりに、やりたいことを見つけて行動しているのだと思う。



 俺がこの世界に転生して5年。


 身体も随分成長した。15歳か……

 ラビア先生の地獄の鍛錬を5年間、死に物狂いで頑張った。


 体力から戦闘技術に至るまで、かなり成長したと思う。

 使える【闇魔法】もかなり増えた。


「ご主人様~~お屋敷に戻るです~~お夕飯の支度しないと~です!」

「そうだな、ラビア先生も今日は食べていくらしいしな」


 にしても闇属性に毒属性って……

 どう考えてもメインキャラじゃないな。





 ◇◇◇




「うむ、目標は達成できたようだな」

「はい! ただいま戻りました! 先生!」

「ハイです! 戻りましたです! 先生!」


 屋敷に戻るとラビア先生がいた。


 今日は自主練の日で、先生が出した課題のクリア報告をする。

 日中は別の生徒の訓練日だったらしい。


「2人ともこの5年よく頑張ったな……さて、アビロス!」

「はい! 先生!」

「一か月後にはなにがある!」

「はい! 学園の入学試験です!」


 ビシッと直立不動で先生の問いかけに応える俺。


「そうだな、いよいよ5年の成果を見せる時が来たな。アビロス」


 ラビア先生が仁王立ちでニヤリと口角をあげた。


 ―――そう


 いよいよ今年から学園がはじまる。

 つまり本来のゲームスタート地点にきたわけだ。


 学園の入学は必須だ。

 俺は4大貴族だし、基本的に名のある貴族は学園卒業の実績がいる。つまり普通に生きてくうえで避けられないイベントである。

 破滅回避のため表舞台で目立つ気はサラサラ無いが、俺自身のゲーム世界満喫生活を円滑にするためにも必ず入学しなければならない。


 まあ―――本音を言えば、ゲームの主要キャラをチラ見してみたいという願望もあったりもするのだが。


 ただし、入学するためには試験に合格しなければならない。

 4大貴族なので、金を積んでの裏口入学も出来るのかもしれんが。



 ―――それじゃダメだ。



 この世界で生き抜くには力が必要。


 魔族が襲撃した時も、初めて毒蜘蛛と戦った時も、強くそう思った。

 メインストリーの表舞台から離れようと、様々な困難が待ち構えている可能性は高い。


 だから真っ向から試験に挑んで合格してやる。


 それに、強くなるのは楽しいしな。


「ええ! ばっちり試験官たちの度肝を抜いてやりますよ!」

「よし! いい答えだ! ワタシの顔に泥を塗るような腑抜けた戦いはするなよ!」


 ラビア先生の口角がさらにヒキ上がった。


「では明日からの卒業試験に向けて、今日はいっぱい食うぞ!」


 そう、ラビア先生はもうすぐ俺の元を去る。

 だが、最後の卒業試験が控えているのだ。


 地獄の鍛錬の最終試験……俺の全てを出し切ってやるぜ!


「おっと、言い忘れていた。ワタシの卒業試験はアビロス、おまえともう1人の生徒にも共同で受けてもらう」


 食堂に向かうラビア先生が、その足を止めて俺の方に振り向いた。


 はい?


 もう1人って……てことはゲーム主人公か!?

 本来ラビア先生はゲーム主人公の師匠となる人だからな。それを俺が講師として呼んでしまった形になる。


 だが、時折もう1人の修行をつけていたようだから、そいつがゲーム主人公のはずだ。


 いや、まてまてまて……俺を破滅させるゲーム主人公とは極力接触したくないんだ。


 これはマズいぞ……


「もう1人ですか? ラビア先生」

「ああ、おまえも良く知っている奴だ。仲良くやれよクフフ……」


 知っている?


 あれ? 俺ゲーム主人公と会った事なんかないぞ。


「ん……コホン……アビロス」


 俺の背後から可愛げな咳払いが……


 そしてこの声は……5年ぶりに聞く声だ……


 死ぬほど嫌な予感を高めながら、俺は振り返った。


 そこにいたのは―――



 ―――聖女ステラ・メイトリアス



 そう本ゲームのメインヒロイン再登場である。



 マジかよ……どういうこと?







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