第八話「裏」
エスティとわかり合えた後、再びグレイブとの訓練に向かった。
「エスティから身体強化術についての基礎は学んだな?ルカ、俺の休日は残り一週間しかない、それまでに剣術と共に習得して貰うぞ。」
「はい!」
あと一週間――この世界で10日しかないなら早めに習得して剣術に時間を回したい。
「お前達は魔術を使えるようになったか?」
「出来るようになりました。」
そういえば俺たちが魔術を使えるのはエスティにしか伝えてなかったな。
「なら魔力の流れは?」
「感じたわ!」
自然な感じだ、嘘の練習しておいて良かった。
「おぉ、さすが俺たちの子どもたち――才能があるな。」
「それじゃまずは一番楽な姿勢を取り、魔力の流れを感じろ。」
目を閉じ集中することで体中に奔る魔力を感じる。
「感じたら次は体中の骨に、筋肉を想像しろ。」
そう言われ暗闇の中、骨格を想像し、肉付けをしていく。
「それらに魔力を絡ませる事が出来たら第一段階はクリアだ。」
「ん~難しい~。」
耳を澄ますとレイナが苦戦する声が聞こえる。
集中しろ魔力を扱うのは普段から得意だろう。
普段から無詠唱で魔術を扱い、魔力を操っている少年からすればこれはそれほど難しいことでは無かった。
きたっ!
ルーカスが目を開けるとグレイブは笑みを浮かべた。
「その状態でジャンプしてみろ。」
「はい!」
ルーカスが試しに飛んでみると軽く跳ねただけでグレイブの二メートル弱ある身長を優に超えるほどの跳躍を見せた。
「うおぉっ!!」
思いもよらない跳躍をしたことで少年は肝を抜かれた様子で声を上げて驚いた。
「おぉ、身体強化をここまで早く習得するなんてさすが俺の弟子。」
「これで良いんですか!」
こんな早く習得出来たなんて、才能あるのかな!
「あっ私も出来た!」
目を開けたレイナはルーカスと同じように軽々と驚異的な跳躍を見せて跳ねていた。
「さすが俺の娘!出来る子だ!」
娘に対してかなり甘めな態度をとるグレイブを見ながらルーカスは考えていた。
無詠唱をする時と感覚が似ているし似た存在なのか?
もし、身体強化術が無詠唱魔術と同じものだとすると固くなるイメージと強くなるイメージを持てば岩も砕けるとか。
ルーカスは試しに右拳に力を込め、近くにあった岩を殴った。
バゴン!!
ルーカスが殴った岩はたった一撃で音を立てて砕け散った。
まじかよ。
狐につままれたような顔をしながら立っているルーカスの方を同じような顔をして二人も見ていた。
「ルカ、お前もう操れるのか?」
「えっ――多分?」
「私もやってみたい!どうやったの!?」
レイナはルーカスに向けて駆け寄ってきた。
「ただ自分の拳が硬くて強いように念じただけなんだけどさ――。」
「んーーこう?」
ガゴンッ!
先ほどルーカスが砕いた岩の下部分をレイナが殴ると再び砕け四散した。
「お前たち――天才か?うちの団員ですら意識して使えるのは副団長だけだぞ?」
「他の騎士団員さんは身体強化術を使えないんですか?」
エスティの話的にも割と広まっていそうだが。
「ほとんどの身体強化術は無意識の内に発動されててな、意識して使うことが出来れば攻撃型、機動型、
防御型の個人特性を切り替えたり組み合わせたり出来るんだけどな。」
「型があるんですか?」
「無意識の人間はどうしても攻撃力、機動力、防御力のどれか一つを強化しているからこう言われている。稀に二つを扱う者や三つ全てを扱えている才能を持った奴もいるが意識して使えるに越したことは無い。」
機動力と防御力は魔術師でも結構使えそうだな。
「グレイブさんは意識して使えるんですか?」
「あぁ、騎士団長はどれか一つでも劣っていたらなれるような実力じゃ無いからな。」
「ふふん!パパはすごいのよ!」
「レイナ、お前もすごいぞー身体強化術を意識して使えれば魔術師になっても役立つからな。」
レイナは嬉しそうに跳ね続けている。
「よし、身体強化術が思ったより早く終わったし今日は早めに終わりにして明日の祭りの服を選ぶぞ。」
明日が祭りなのと習得が早かったこともあり今日の訓練は早めに終わった。
今から準備して間に合うもんなんだな。
---
あっという間に時は過ぎ、祭り当日となった。
「ルカ!似合ってるでしょ!」
「うん、とっても綺麗だよ。」
「えへへ。」
馬車に揺られているがレイナはひらひらとした銀のドレスを纏いながら俺の前で舞っている。
夜になって祭りが盛り上がり始めた時に俺たちは正装を身につけて街へ繰り出したのだ。
「レイナちゃん似合ってるよ~かわいいね~。」
久々の外出と可愛いに挟まれているからかソフィアが嬉しそうだ。
ソフィアは大きくなったおなかをさすりながら馬車に備え付けられたソファーに座っていた。
「あんまりはしゃがないでね?」
ソフィアの正確をよく知っているシエロは心配そうにしている。
「大丈夫よ、私たちが付いている限り制限は少なくなっているし、ソフィアもそこまで考え無しじゃないわ。」
エリーザはその頼もしい声色で二人を宥めていた。
「みんな、もうすぐ広場だぞ!」
前の馬車からノールドの声がした。
領主の息子として出るからには格好を気に掛けないとな。
「エスティ、手鏡を貸してくれませんか?」
ルーカスは馬車の隅で髪を整えているエスティリアに声を掛けた。
エスティリアはその白と緑のコントラストをしたドレスを見せつけるように振り向きルーカスを見つめた。
「その前に、何か言うことはないの?」
ジト目で笑みを浮かべているエスティリアから褒めてオーラを感じたルーカスは即座に反応した。
「とても似合っていて美しいです。」
「良くできました。」
満足そうな顔を浮かべ、エスティリアはルーカスに手鏡を渡した。
手鏡を見て髪を整えていると馬車は動きを止めた。
「領主様と騎士団長様がいらっしゃったぞ!」
外から大きな声が聞こえたと思うとすぐに歓声が聞こえてきた。
「行くわよルカ!」
「え!?ちょっと待って!まだ髪が――」
レイナに引っ張られ開いた馬車のドア前に出る。
「領主様、騎士団長様のご一同様のご登場!」
ルーカスはすぐに身を引き締め、気品溢れる態度でステップを下り始めた。
「領主様、騎士団長様、
「大戦の時代――我らが国は邪悪なる存在によって――。」
「ルカ、私たちは先に行きましょ!」
「うおぉ!ちょいちょいちょい!」
ノールドの開会宣言が終わるのを待たずしてレイナはルーカスを連れて屋台へと繰り出した。
「はわわわわわ!」
「ちょっとレイナ、父さんたちがせっかく出てるのに・・・・・・。」
「でも――祭りは今日しかないのよ。」
「確かに。」
この祭りは一夜にしてこの海鏡を創った雷将ルシェロを讃えたのが始まりの影響で一夜しかない。
だからこそみんな一夜を全力で楽しもうとするのだ。
レイナともそろそろお別れだからな。
「よし!使えるもの全部使って全部の屋台を回るぞ!」
「うん!」
こうしてルーカスとレイナは夜のとばりの中、燦然と輝く屋台へと向かっていった。
---
「う~ん!やっぱり海鮮焼きよね!ルカも食べる?」
レイナは屋台で買った海鮮の串をルーカスに向けた。
「じゃあ遠慮無く――おいしい!」
転生前じゃイカとかエビは食べれなかったけどこの世界の奴はおいしいな。
ルーカスが一口食べて感心している間にレイナは串を食べきり、次の売店を探していた。
「ここの店は全部回ったし次の広場にいかなきゃね。」
そう彼らは既に十数件ある店を特権を使い遊び尽くした後なのだ。
「そうね、じゃあ近道して行きましょ!」
「え~父さんたちが人攫いが祭りでは増えるから出来るだけ人がいるとこ通れって言ってたのに?」
この世界には奴隷制があり、生活困窮者や難民などが奴隷になることが多い、この国だと奴隷にも人権があるが他の国に売り飛ばされでもしたら人として生きることはまず出来ないだろう。
「私たちなら大丈夫よ!」
「まぁそれもそうか。」
いざとなれば身体強化術で逃げれるし魔術もある。最悪殺すという手もあるしな。
---
「大人しくしないとぶっ殺すぞ!」
「ん――。」
路地裏を歩いていると荒々しい男の怒声と幼そうな少女の声が聞こえた。
おいおい、いくら人攫いピックアップ中と言ってもまだ単発だぞ。
「やめとけ、お前はまだ始めたてだから知らないだろうが傷ありと無しじゃ二倍近く値段が違うからな。」
「へい!アニキ!」
うわーテンプレみたいな人たち来ちゃったよ――。
何とも古典的な悪役にルーカスが引いているとレイナが小声で話しかけた。
「ルカ、助けなきゃ。」
「当たり前だ。土魔術で足止めするからレイナは注意を引くついでにグレイブさんを呼んでくれ、なるべく大声で。」
「わかったわ。すぅ――――っお父様――――!!」
レイナの声は路地裏に響き渡り、路地裏から飛び出た声は海鏡に降った。
「誰だ!」
「正義の味方だよ!」
キザな台詞と共に隙が生まれた悪党を土魔術で足を拘束したルーカスは身体強化術を使い捕まっている少女を助けた。
「くそ!塞げ!」
人攫いの一人が指示を出すと少年少女の通り道を塞ぐように仲間が一人現れた。
「これで逃げれねぇぞ!」
かなりまずい状況だな――。
少年は周囲を確認しながら思考を巡らせる。
この子もいるし逃げにくい。
少年の腕の中で震えている少女と徐々に詰め寄られているレイナを見つめて少年は決めた。
殺すか。
少年の選択は極めて迅速で冷徹なものだった。
「君には刺激が強いな。」
少年はおびえる少女の目を塞いだ。
その瞬間、少年は三人の足下にあるレンガの道を変質させ人攫いたちを串刺しにした。
ルーカスは飛び散る血を華麗なステップで避けながらレイナの元へと向かった。
「今がチャンスだ、逃げるぞレイナ。」
「っ分かった。」
レイナはその光景に驚いて止まっていたが直ぐさまルーカスと共に路地裏を後にした。
---
「くそ!」
ルーカスの攻撃を紙一重で避け、彼らが逃げた方を見ながら悪態をつく男がいた。
人攫いのリーダー格、元A級冒険者のジャックは才能に溢れ若くして頭角を現し、冒険者の中でも名の知れた男だった。
しかし、荒々しい性格故に問題をよく起こし、とあるパーティーにいた剣士と引退を掛けた決闘に負けたことで人攫いにまで堕ちてしまった。
「あのガキっ!身体強化術だけじゃ無く無詠唱を使えるなんて――。今からでも遅くは無い、捕まえてア
ンクウィス帝国に売れば大金が手に入りそうだなぁ!」
舌なめずりをしながら逃げた方角へと向かおうとしてジャックは構えた。
「久しぶりだな、卑しく生きてるな。」
ジャックの背後から声が聞こえた。
「お前はぁ!」
その声はジャックの耳にこびり付き、七年間何度も夢に出てきた男の声だった。
路地裏の闇でさえ消すことの出来ない荘厳さを持つ銀髪を揺らしながら、気品に溢れる服をその引き締まった身に纏った男――グレイブである。
「お前に負けたあのとき!俺の人生は変わっちまった!でもなぁ!冒険者よりもこの仕事は金が入ってな、その礼をしてやるよぉ!」
ジャックは即座に剣を抜き、身体強化術を使い、目にも止まらぬ速さで斬りかかった。
「あーもう、あいつは将来とんでもない魔術師になるな。」
グレイブは襲いかかってきた男を気にもとめず、地面に転がっている死体を観察し始めた。
「貴様!どれだけ俺を舐めた――ら――――」
ジャックが振り向いた瞬間、彼の首は体からズレて地面に転がった。
「ルカめ――腐っても元A級相手に対面で魔術を当てるなんて――まさか無詠唱か?」
グレイブの興味は完全に弟子に対して向いていたのだ。
「少なくとも明日からはみっちり詰めてやるか。」
夜空に浮かぶ紺碧の月を見上げるとグレイブは再び夜の闇へと消えて行った。
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