第18話 めまいと処置室の看護師さん

 その日、少し根を詰めてPC作業をしていると、軽く目が回るような気がした。


 これはいかんなと思い、早々に寝た翌朝……ひさしぶりに私を中心に世界が回っていた。


 なんとか水を一口のみ、痛み止めを飲んでから、相方にいつも行く耳鼻科のある総合病院に連れて行ってもらった。


 前回の嘔吐を伴う酷い目眩ほどじゃなかったので、とりあえずこの不快なグルグルが治まればいいと思ってた。

 そして診察の結果、良性発作性頭位めまい症だった。


「点滴してって」


 と言われて一時間ぐらい処置室でうつらうつらしていた。


 昼前の処置室は午前の外来患者さんもおちついて、看護師さんさんたちがお喋りに花を咲かせていた。


 この病院、内科もまぁまぁ混むが、整形外科はえげつなく混む。


「整形、まだまだヤバいわぁ〜」

「A先生? A先生午後から手術じゃない?」

「終わる気配ないよぉ?」

「A先生、診察の時確認多すぎ〜そんないちいちB先生に確認しなくても――」


 どうやら整形のA先生は診察にかかる時間が鬼のように長いらしい。

 看護師さんたちの話から察するに、研修医の先生だろうか。


「ねぇA先生、ご飯食べる時間無いんじゃない?」

「えぇ〜また手術中に倒れちゃうよぉ」


 倒れちゃうんかい!!


「でもさぁ、めっちゃ食べるんだよねぇ」

「燃費悪すぎなんじゃない?」


 楽しそうにお話している中、「外来終わりましたぁ〜」と、若い男の先生が室内に声がけした。


「は〜い。お疲れ様です〜」


 口々に返す看護師さんたち。


「で、なんの外来?」

「C先生、プレハブ(発熱外来)だからそっちじゃない?」

「あ〜、何の外来か言わないとわかんないよねぇ」

「だよねぇ〜アハハ〜」


 終始賑やかだ。

 でももうちょっと、静かにしてほしい。

 いや、楽しいが……


「あ〜午後の診察に食い込むんじゃ……」

「ヤバいねぇ。私外来フォローしてくるわ!」

「ありがとう!」

「よろしく〜」


 雰囲気いいよね。

 この病院の看護師さんたち、入院病棟でも仲よさげだったなぁ。環境いいんかな。


 その後の看護師さんたちの話は、自分の便通の話だったり、子供の話だったり、あっちこっち行きまくってて、私は彼女らの会話に聞き耳を立てながら、処置室の硬いベッドの上でどうにか居心地の良い体制を探ってモソモソしていた。

 あと、寒い。


 しばらくすると、応援に行っていた看護師さんが戻ってきた。


「D先生が引き継いでくれた〜」

「お〜よかった〜」


 A先生、手術に行くのか。ご飯たべなよA先生――


 そこから先、寝てしまった。



 「みつなさーん。終わりましたよぉ〜」


 気づいたら、点滴が終わっていた。世界も回り方もマイルドになり、吐き気も収まった。

 起き上がった私は、何事もなかったかのように、ケロっとしている。


 その後、目眩の薬と吐き気どめをもらって出社した。


 この吐き気どめ、翌週に大活躍することになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る