第2話 専門医のいるところへ

 翌日、紹介状を手に医療センターを受診した。


 医療センターの腎臓内科は週に3回。

 このときは事前予約のことを知らなかったので5時間近く待った。

 検査を入れられても大丈夫なように、朝ごはんは食べていなかった。お腹が空きすぎて手元の本を読む気にもならない。


 呼ばれた時間は15時近く。

 診察室にはくたびれた顔の先生が座っていた。


「はじめまして。よろしくお願いします」

「長く待たせてごめんね〜急患でたてこんじゃってね。お昼は食べた?」

「いえ、まだです。先生は?」

「あはは〜まだだよ」


 どこの病院の先生大変だなぁ……


 大きな病院で救急医をやっているラリードライバーのA先生。いつもラリーが始まる前はちょっとやつれた顔してるけど、競技が終わる頃にはツヤツヤになってたなぁ……などと思いながら、先生の手元の書類とCT画像が映し出されたモニターを見る。


 水玉模様のMy腎臓。紹介元でも画像を見たけど、なかなかきもい。


 多発性嚢胞腎と多発性肝嚢胞。

 多発性嚢胞腎の患者の約8割が肝嚢胞を合併すると言う。


 事前にネットで検索してどういう病気かは把握していた。

 それが遺伝子異常のもので、家族や血縁で発症している人がいるかいないかが、確定診断につながること。

 全体の5%程度で家族歴のない発症があること。

 ただちに命に関わる病気ではないが、高確率で他の臓器にも嚢胞があったり、脳動脈瘤の発生確率が高いこと。嚢胞の増大と共に正常な腎機能が衰えて、60代以降は半数程度が透析になることなど。


 当然、診察で家族歴などを詳しく聞かれた。しかし、私の知る限りでは腎臓が悪い親族の話は聞いていない。


 合併症の一つである脳動脈瘤については、偏頭痛の治療で通っている脳神経外科のクリニックで撮った、直近の脳MRIに異常はなかったことを告げた。


「腎臓は大きいけど巨大というほどではないし、腎機能もそれほど落ちてない。これ以上悪くならないよう塩分とか気をつけて。あと、血圧高いから降圧剤飲んだ方がいいね」


 先生は具体的に「何か」ということは言わないまま話しが進む。


 自分のこの状態はいったいなんなのだろう。ここで確認しないとモヤモヤが続くだけだと思って、思い切って聞いてみた。


「結局、私のコレって何なんですか?」

「孤発性多発性嚢胞腎。家族歴がないから進行はかなりゆっくりだと思う。完治しないけど腎機能が落ちたら、今はいい薬があるから進行を抑えることができるから、心配しなくていーよー」


 その薬は使うのに一定の条件があって、今の私の状態には当てはまらない。

 それよりも腎機能を維持するために、血圧コントロールと塩分に気をつけるように言われて診察終了。

 要経過観察ということで、降圧剤処方のこともあり、腎機能の血液検査も含めて、片頭痛と脂質異常で通院中の、脳神経外科の先生に診てもらうことになった。


 この選択が後に少々面倒くさいことになるなんて思っていなかった。

 今思うと、紹介元総合病院の内科か、ちょっと離れたところの腎臓内科のクリニックにしておけばよかった……でもその時は、進行とか考えてなかったのだ。

 (かかりつけの領域外は面倒がらずに同じ科にいけ!)


 会計ファイルをもらい待合室に出た時、処方箋以外のものがあるのに気づいた。

 椅子に座って中身を確認すると、紹介元からの紹介状一式だった。


 先生、マジで疲れてるな。疲れ切ってるな。お疲れ様です。


 せっかくなので検査結果や紹介状本文、CTの読影報告書もあったので、全部写真を撮った。

 そして内科の受付に「ファイルに一緒に挟まってました」と返却した。


 まぁなんの症状もないし、血圧と塩分に気をつけてればいいかと、気楽に考えていた。

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