第12話 類似同異
「あ、先輩。お疲れ様です」
「嗚呼、お疲れ」
昼休みに入り、エレベーターの前に立つ国枝先輩を見つけ声をかける。僕は今朝から課長の手伝いをしていた為、今日先輩と顔を合わせるのは今が初めてだ。
「あれ? 先輩も食堂ですか?」
「いや、俺は外だ」
来たエレベーターに乗ると、僕は食堂の階があるボタンを押す。先輩はメインエントランスがある一階のボタンを押した。
「……え?」
「お前も来るか? 奢ってやるぞ」
先輩は偶に食堂で食事をご馳走してくれる時があるが、彼は基本的にお弁当を持参している。その先輩が商談以外で食事を外で摂ることに、僕は驚きを隠せない。更には、奢ってくれるという。益々、不思議でならない。
「御厚意は嬉しいですが、遠慮させて頂きます」
食堂の階に着き、エレベーターの扉が開いた。僕はフロアに出ると、先輩に辞退する旨を伝える。給料日前に外食をする余裕はない。奢りと言われても、甘えすぎるのは良くないからだ。
「そうか……残念だ」
エレベーターの扉が閉まる寸前に、先輩は苦笑交じりに笑った。普段は無表情が多い先輩の初めて見る表情に、悪いことをしてしまった気持ちになる。
「聖川、何をしている?」
「ふぇ? 先輩? あれ? 外に食べに行かれたのでは?」
背後から先輩の声が聞こえ、振り向くと予想通り国枝先輩が立っていた。先輩はエレベーターに乗り一階に向かった筈である。何故、彼がこのフロアにいるのだろうか。
「あ? 給料日前でそんな余裕ないぞ」
「でも……さっき……」
怪訝な顔をすると先輩に、僕はエレベーターを指差す。
「……いいからさっさと食べろ。昼休み終わるぞ」
「わ……はい!」
先輩はエレベーターを一瞥すると眉をひそめ、食堂の入り口を指差した。壁にかけられた時計には、想像していた時間よりも早く長針が進んでいた。僕は慌てて食堂に駆け込んだ。
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