第3話  人見知り


「此処が第一資料室で、隣が第一会議室だ」

「はい」


 会社の廊下を国枝先輩に続き歩く。僕の教育担当者である、先輩が会社の各部屋を案内してくれているのだ。

 各部屋の横にはネームプレートが設置されているため、部屋が分からなくなる心配はない。しかし職場の部屋の配置を把握しておくことにより、業務を円滑に行うことが出来るのだ。

 新人である僕はこの会社に慣れるところから始めなくてはいけない。メモにペンを走らせる。


「何か、質問はあるか?」

「えっと……」


 一通り説明を終えた先輩が振り向いた。疑問は早期に解決するべきであるが、言い出せず言い淀んだ。


「言え、聖川」

「その……ドアが全て無いのですが……」


 彼が顎をしゃくるので、僕は疑問を口にした。各部屋のネームプレートが壁に存在するだけで、廊下から部屋に通じるドアが存在しないのである。


「嗚呼、こいつらは人見知りだからな。慣れれば大丈夫だ。次に行くぞ」

「……え? あ、はい」


 特に気にした様子もなく、先輩は僕に背を向けると歩き出した。僕は慌てて、その後を追いかける。角を曲がる際に一度振り向くと、廊下にはドアが現れていた。


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