俺は出会った 2

 アリスという妖精が目を輝かせ、俺の言葉を待っている。


 亜麻色のふわふわした髪が、そよ風になびいている。

 背中からのぞく、ドレスの大きなリボンが羽に見えてきた。

 今にも、どこかへ飛びたってしまいそうなアリス。


 早く何か言わないと、妖精が飛んでいってしまう。


 挨拶って、何を言うんだった? 

 俺は生まれて初めて、頭が真っ白になった。


 と、その時、6歳年上の兄上が、まだ小さかった俺に言った言葉を思い出した。


「ルイスはちびだな。それに、なんてかわいいんだ!」


 会うたび、突進してきて、そう言いながら、頭をなでまわしていた兄上。


 その時、俺は、なんとなく温かい気持ちになったんだ。

 

 つまり、いい記憶しかない言葉。

 兄上が俺に言ったように、俺もアリスに言いたい。


 そう思った俺は、自信をもって言い放った。

 目を輝かせているアリスに向かって。


「ちびだな」


 そして、「かわいい」は、心の中で、しっかりと付けくわえた。

 さすがに、口にだすのは恥ずかしかったから。


 兄上がしたみたいに、本当は頭もなでたかった。

 でも、さすがに初対面ではダメだろうと、とっさに考えた。


 今日は我慢するが、すぐに仲良くなって、頭もなでよう。沢山なでよう。

 そう、心に決めた。


 良い挨拶ができ、満足してアリスを見る。


 すると、にこにこしてたアリスの顔が、ぎゅーっとしかめっ面になった。


「……うっ、うっ、うわあーん!」

と、大きな声で泣き始めた。


 え? どうしたんだ? 何がおきた?

 なんで泣いている?


 アリスの大きな目から、涙がどんどんあふれでる。

 澄んだ瞳からは、こぼれおちる涙も澄んでいるんだな……。

 

 なんて一瞬見とれてしまったけれど、はっとした。


 こんなに泣いたら、はちみつ色の瞳が溶けて流れてしまう。

 思わず、受け止めようと、アリスの顔に手をのばしたら、アリスが更に大きな声で泣き始めた。


 離れたところで控えていた、アリスの従者である若い男がとんできた。


「アリスお嬢様、どうされました!?」


 アリスは、その従者に抱きついて、また大きな声で泣きはじめた。

 

 従者は鋭い目つきで俺を見て、アリスをかばうように両手で抱え込んで聞いてきた。


「ルイス殿下、何があったんでしょうか?」


「……わからない」

と、俺は答えた。


 だって、本当にわからないから。


「今日のところは、アリスお嬢様を連れて帰ります。では、失礼いたします」


 従者は強い口調でそう言うと、アリスを抱き上げて、すごい勢いで去っていった。


 遠ざかっていくアリスの泣き声に胸がしめつけられる。


 俺はアリスを泣かせた……。

 何故かわからないけれど、泣かせた……。


 どうしよう。俺の妖精がどっかへいってしまう。

 そんなのダメだ!


 後悔、焦り、いらだち……。

 アリスのこととなると、知らない感情がどんどんあふれでてきて、どうしたらいいのかわからない。


 もう、アリスに会えないなんて嫌だ。


 俺は、父上のもとに走った。

 そして、頼んだ。アリスと婚約させてほしいと。


 今まで、欲しいものもなく、父上にお願いなんてしたことがなかったが、アリスだけは譲れない。

 どんな手段を使ってでも、また、会いたい。 


 だって、俺の世界は、もう、アリスを中心にまわりはじめたのだから。







※ アリスの知らないルイスの気持ち、まだ続きます。

  今後、もっと暴走していく予定です……💦

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