俺は出会った 1

※ ルイス視点となります。


 

 アリスに出会うまでの俺は、物心ついた時から、まわりのことに興味がわかなかった。

 家庭教師に教えられれば、なんでも即座に理解できた。

 その先も想像ができるが、まるで興味はわかなかった。


 まわりは「天才だ」と、騒いでいたけれど、それこそ、どうでもよかった。


 そして、なにより、どうでもよかったのが、自分の顔だ。

 どうやら、人から見ると俺の顔は目をひくらしい。

 物心ついたころから、きれいだ、きれいだ、と呪文のように言われてきた。


 自分の興味のないことを色々言われても、どう反応していいかわからない。


 そうしているうちに、表情がないとささやかれはじめた。

 人形王子というのは俺のことらしい。


 確かに、表情はないのだろうし、無理に表情をつくろうとも思わなかった。

 が、そんなことも、どうでもよかった。


 ただ、兄上は怒ったらしく、陰で動きまわったようだ。

 いつしか、俺の耳に入らなくなった。


 その頃から、兄上は不思議な存在だった。

 

 俺と違って、表情がころころ変わる。

 見ていると、人間の顔は動くものなんだ、ということが、よくわかった。


 一度、俺の誕生日に手製の紙芝居をしてくれたことがあった。

 話も自分で作り、絵も自分で描いたと言った。

 課題でもないのに、その気力はなんなんだと驚いた。


 いろんな動物たちがでてくる話だったが、それぞれに声色を変えて読んでいた。

 が、俺は紙芝居の絵ではなく、話を読んでいる兄上の顔に釘付けだった。


 登場する動物たちに感情移入しすぎているのか、顔の変わりようがすごい。

 正直、兄上の作った話はおもしろくなかったけれど、兄上の顔の変化は面白いと思った。


 今にして思えば、あの頃の俺は、兄上によって、なんの興味もわかないこの世界に、なんとか、つなぎ留められていたんだと思う。


 そして、12歳になった頃、俺は興味がわかないどころか、この世界が嫌になりはじめていた。

 兄上の不可思議な面白さは健在だったが、それを上回るほどの苦痛が生じてきたからだ。


 それは、年齢があがるにつれ、俺がどれだけ無表情であっても、この顔のせいか、それとも、王子という地位のせいか、近づいてくる令嬢たちがやたらと増えてきたからだ。


 しかも、高位貴族の令嬢たちのなかには、俺が嫌がろうが全く気にせず、いろんな手段を使って近づいてくる厄介な令嬢たちが現れだした。

 

 何を背負っているのかわからないが、皆、獲物を狙うような目をしている。


 俺の表情が無いからか、人の顔を見ていないように思われているが、そうではない。

 表面的な表情や顔の造作はどうでもいいが、にじみでてくるものは嫌でも目に入る。

 

 例えば、しつこく寄ってくる令嬢たちの目。

 俺には、色々なものが混ざったドロリとした気持ちの悪いものに見えていた。


 そんな時、父上に、そろそろ婚約者を考え始めないといけないと言われた。


 王族として、結婚することは義務だと学んだ。

 だから、婚約者を決めることに異議はない。

 が、せめて、ドロリとした目をしていない令嬢にしてほしいと思った。


 手始めに、宰相の娘と会うよう命じられた。

 宰相は父上の親友でもあり、信頼にあたいする人物であることは疑いがない。

 

 ならば、「会わなくても、その令嬢でかまわない」と、父上に言った。


 すると、「そうはいかん。自分のことだぞ。ルイスが仲良くなれそうな子と婚約しないとダメだ」と、父上に強く言われた。


 春の日差しの中、王宮の中庭で、その令嬢とお茶をすることになった。

 行ってみると、小さな女の子が待っていた。

 

 小さな女の子は、俺を見ると、トコトコと俺の前にやってきて、カーテシーをした。


「はじめまして。アリス・ヴァルドともうします。七歳です。どうぞ、よろしくおねがいします」


 一生懸命、挨拶をして、にこっと笑った。


 こぼれ落ちそうなくらい大きな目が、まっすぐにこっちを見ている。

 はちみつみたいな色の瞳は澄んでいて、きらきらと輝いていた。


 俺は目が離せなくなった。


 なんだ、このきれいな目をした生き物は? 

 小さくて、とてつもなく……かわいい。


 こうして、俺の世界をすっかり変えてしまう小さな妖精と俺は出会った。


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