ぼくが守る 6

 王宮へ戻り、今度はアリス嬢の兄のマークを呼び出して話を聞こうかと考えていると、ウルスに椅子に強制的に座らされた。


「とりあえず、気が済んだろ。急ぎの仕事だけでもやれ! 終わらない限り、絶対に椅子から立たせない。トイレにも行かせないぞ!」

と、品のない脅しをかけられた。


 仕方なく、猛スピードで仕事を片づけていく。

 そこへ、あわてた様子で新人の側近ミカエルがやってきた。


「どうした?」


「あの、ルイス殿下がお会いしたいそうです」


「え? ルイスが来てるの!?」


「いえ、ルイス殿下の従者が来ています。お返事はいかがいたしましょう?」


「そんなのルイスなら、いつでもいいに決まってるよ! 24時間365日大歓迎!」


「おかしいだろ。その返事」

と、ウルスがぶつくさ言っている。が、気にしない。


 わくわくしながら待っていると、すぐに、ルイスがぼくの執務室にやってきた。


 ノックの音を聞いただけで、ルイスとわかる。

 優雅な音だな。


「どうぞ入って!」


 久々のルイスが嬉しすぎて、おなかの底から大きな声がでる。

 隣でウルスが、「どんだけ、声だすんだ……」と、耳をおさえているがどうでもいい。


 ルイスは部屋に入ってくるなり、まっすぐに僕を見た。


「今日は、兄上に報告があって来た」


 ん、報告? お願いじゃなくて? 


「ルイスが言うことなら、なんでも聞くよ! さあ、話して」

と、僕は促した。


「王子を辞めることにした。さっき、やっと、父上が承諾してくれた」


 やっぱり! 僕の予想通りだ。


「うん、わかったよ」


「反対しないのか……?」

と、ルイスは少し目を見開いた。


 驚いてるな! 

 フフフ。兄様の愛は大きくて深いんだ! 


「ルイスがやりたいようにやればいい。兄様は、いつだってルイスの味方だ。ルイスを全力で応援するよ!」

と、胸をはって宣言した。


「……申し訳ない。王子を辞めると、王太子の兄上に、一番、負担がかかる」


 ルイスが悲しそうに目を伏せた。

 

 もう、本当に優しい子なんだから! 


「兄様は大丈夫だから、気にしないで。それより、王子を辞めて、ルイスはどうするの? 兄様に何かできることがあったら、何でも言って」


「父上にロバートソン公爵に養子に入り、ロバートソン公爵を継ぐことを命じられた」


 ああ、なるほど……。

 母上の親戚筋にあたるロバートソン公爵家。高齢のロバートソン公爵のお眼鏡に叶う跡継ぎがおらず、返上を申し出ていた。

 が、難しい領地を治めているし、貴族間のパワーバランスもあり、どうしたものかと父上は悩んでいたからな。

 

 ロバートソン公爵は高潔で信用できる人物だから、ルイスが養子に入っても安心だ。


 それに、王族と公爵家の会議は何かと多い。

 つまり、ルイスに定期的に会える! もしかしたら、会う機会は今より増えるかもしれない! フフフ……。

 父上、よくやった! 


 わきあがる笑いをおさえこみ、真面目な王太子の顔をして、ルイスに言った。


「あの公爵家は、この国の大事な要だ。ルイスが継いでくれたら心強い。ロバートソン公爵からよく学んで、頑張るんだよ!」


「ああ。全力を尽くす」


「それで、アリス嬢のことはどうするの?」

と、肝心のことを聞いてみた。 


「今からアリスの家に行って、全部話す。また、婚約してもらえるまで、いつまででも通うつもりだ」


 はあ、やっぱりね。なんて、不器用で一途な子なんだ! 

 感動したら、自然と涙がでてきた。


「え、なんで、兄上が泣く……?」


 ルイスが驚いたように、僕を見ている。


「ああ、これはルイス病という不治の病の症状だ。気にするな」

と、ウルスが雑に説明した。


 僕は泣きながら、ルイスに言った。


「ルイスの気持ちをアリス嬢にしっかり伝えなさい。もし届かなかったら、兄様が何としてでもルイスの気持ちを届けるから!」


「余計にややこしくなるから、それだけは、やめてやれ……」

と、あきれたように言うウルス。


「兄上のその気持ちだけもらっておく」


 ルイスの優しい言葉に、僕の涙はとまらない。


「ルイスが幸せになることが、兄様は一番嬉しいんだからね!」

と、泣きながら念を押した。


 すると、ルイスがうっすらと微笑んだ。


「これからは、王太子の兄上を公爵として俺が守る。今まで守ってくれて、ありがとう……。兄様」


「……うっ、ルイスッー!」


 ついに、僕の涙腺が崩壊した。


「はいはい、良かったな。あ、ミカエル……。大きめのタオル、持って来て」

と、ウルスが淡々と指示をだしている。


 そして、ミカエルが用意してきたバスタオルに僕は顔をうずめて、号泣した。


 ルイスがまた、兄様と呼んでくれた。 

 しかも、これからは俺が守るだなんて。

 もう、ぼくが守る必要がないくらい成長したんだね……。

 寂しいけれど、兄様は嬉しい。


 ルイスの言葉は、心にしっかりと記録した。

 この言葉を胸に、僕は、これからも王太子の仕事を頑張る。


 ルイス、幸せになれ! 兄様が応援してるからね!


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