ぼくが守る 2

 父上には、散々、ルイスの件に関わるなと釘をさされたけれど、冗談じゃない。

 ということで、すぐに、側近のウルスを呼び出した。


「ルイスが王子を辞めたいって言ってるの知ってた?」


 ウルスの顔が、さっとかげった。


「……まあ、少し?」

と、口を濁すウルス。


「なんで、すぐに知らせない!? ルイスのことは、すぐに知らせてよ!」


 思わず、声を荒げてしまう。

 そんな僕を見て、ウルスは、ため息をついた。


「なんでばれるかな。王様も俺に隠せっていうんなら、ちゃんと隠してくれないと。面倒だろう……」

と、不満げにつぶやいた。


「聞こえてるけど?」

と言ったが、全く動じていない。


 仕事の時以外は、ウルスの僕への態度は、常にこんな感じ。

 というのも、側近以前に幼馴染だから。

 

 まあ、でも、態度は大きくても、仕事は真面目だし、何より、ルイスの感情を読み取れるから信頼している。


 が、不満なのは、ウルスっていう名前。

 だって、ルイスと音が似ていて、なーんか、そっちのほうが兄弟みたいで、悔しいよね。


 だから、子どもの頃、ウルスに、

「ウルスのこと、これからウルルと呼ぶことにするよ」

と言ったら、激怒されたっけ。

 

「ウルス。最近のルイスのことを至急調べてきてよ」


「あ!? 俺、そんな暇ないくらい、仕事に追われてるんだが? 自分で本人に聞けばいいだろ」

と、切れ気味のウルス。


「なぜか、ルイスに最近会えないんだ。部屋に突撃したら、離宮に行ってるって言われたり、……すれ違うんだよね」


 すると、ウルスが深くうなずいた。


「なるほど……。ルイスに避けられてんだな」


「僕が避けられる? そんなわけないでしょ?」


「いや、明らかに避けられてるだろ。まあ、当然だな。ルイスを見かけたら、いつなんどきでも、猛然と笑顔で走り寄って行って怖いもんな。しかも、20歳にもなるルイスにむかって、兄様になんでも言ってごらんとか、面と向かって言うから、気持ち悪いもんな。引いてるぞ、あの顔は」

と、ウルス。


「はああ。ウルスもまだまだだね。ルイスの繊細な表情を読めてないとは。引くどころか、恥ずかしながらも喜んでる顔をしてるよ? 大好きな兄様なんだから」


「あのなあ、どんだけ、自分に甘いフィルターがかかってんだ? その不治のルイス病、今更、治せるとは思ってないけど、もうちょっと、ひっこめろ」

あきれた声でウルスが言った。


「まあ、いいよ。ウルスが行かないなら、僕が調べに行く! ルイスは僕が守るって誓ったし。子どもの頃、ルイスの誕生日に、ぬいぐる……」


「その話はやめろー!!」


 ウルスが父上と同じ反応をした。

 なぜ? 何回聞こうが、いい話なのに? 


「いやいや、ウルス。遠慮しないで。改めて聞くと、あの頃のルイスの愛らしさがよみがえってきて、僕の気持ちに共感すると思うから。とういうことで、僕が、ルイスにぬいぐるみを……」


「やめてくれ! わかった、調べる! ルイスのことを調べに行く。今すぐ、行かせてくれ!」


 そう言うと、ウルスは猛スピードで立ち去ってしまった。


 翌日、いらいらしながら待っていると、疲れ切った顔のウルスが、「ルイス報告書」を出してきた。


 僕は奪い取るようにして読む。そして、読み終わって、……叫んだ。


「ルイスが変な女を連れてるだとー!!」


「やめてくれ。寝不足の頭にひびく……」

 

 ウルスが耳を抑えて、つぶやいた。

 が、ウルスのことはどうでもいい。


 そりより、ルイスだ!

 もしや、その女にルイスは騙されてるのか? 

 純粋で天使みたいな子だからね。


 やっぱり、ここは兄様の出番だ。

 ルイスを騙したことを後悔させてやる!

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