第5話

 あの日からだいたい一週間くらいが経った。

 澄佳に「話したいことがある」と誘われた私は、前と同じファミレスに来ていた。


 少し講義が遅れているみたいで、10分くらい遅れるかもと連絡があった。

 なので先に入店し、いつものものを頼んで澄佳を待つ。


「ごめんね! 私から誘ったのに待たせちゃって」


「故意で遅れたわけじゃないんだし、気にしてないよ。いつものオムライス頼んどいた」


「ありがとう! あれ、まのちゃんはレンコンとオクラのサラダ? いつも食べてないのに珍しいね」


「あー……うん。挑戦、てきな?」


 レンコンの花言葉は遠くにさった愛。オクラの花言葉は恋の病、恋で身が細る。

 気付いてくれないかななんて、鈍感な澄佳には無理な願いか。



「でね、何の話か察しはついてると思うけど__」


 わかっていたはずなのに、改めて突きつけられると苦しい。

 澄佳の話を聞くのが怖くなって、膝の上に置いていた手をぎゅっと握りしめた。


「この前話したバイトの先輩と付き合うことになりました!」


 瞬間、私の視界から見える景色の色が消えた。

 鮮やかな素敵なものじゃなくてモノクロ。それでいてだんだんと視界がぼやけていく気がした。

 グラグラと頭が痛くて、怖くて。


 楽しそうに澄佳が話していたけれど、全く耳に入ってこない。


「__なんだよね、って、まのちゃん? 泣いてる、の?」


「え?」


 慌てて目元に手をやると、確かに濡れていた。

 こんなときにやめてよ。澄佳にばれちゃうじゃない。

 

 必死に目をこすり、涙を隠そうとする。

 

 つくづく私の体はいうとこを聞いてくれない。


「ごめん! 私ひどいこと言っちゃってた?」


「いや、違うの。なんか、澄佳も大人になったんだなぁって。……彼氏さん大事にしなよ。お幸せにね」


「ぇ、あ、うん。ありがとう。なんでそんな今生の別れみたいなセリフなのー?」


 おかしい、とくすくす笑う澄佳。


「まのちゃんも早く彼氏作りなよ。かわいいんだし、その気になればすぐできるよ。惚気話とか一緒にしたいな!」


「うん、ありがと……」


 にっこりと笑う澄佳。

 ズキリズキリと胸が痛い。


 そんな私を無視して、澄佳を腕時計をちらりと見たかと思うと、


「うっそやばい! 私16時からバイト入れてたんだった!」


 と焦った表情を浮かべた。


「それに19時から午後コマもあるのー。大変」


 急いでオムライスをかきこんでいる。


「私から誘ったのにバタバタしちゃってほんとごめんなさい! またランチしよっ!」


 ご飯代を机の上に置いて、さっそうといなくなってしまった。



「はぁ……」


 何のためにあてたのかわからない溜息をついた。

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