第104話 待ちぼうけ

 別に話すのは全然かまわないんだけど、ワードチョイス間違うと袋叩きに合いそうなのが怖すぎる。


「ルーサー、噂で聞いたんですが、先輩と魔法で決闘をしたとか?」

「してませんよ。酷い尾ひれがついてそうですね」

「噂というのはそういうものですから。私が聞いた酷いものだと、泣き叫ぶ先輩の四肢を捥いだというのもありましたよ」


 どんな悪魔だよ。

 でも俺、耳を引きちぎろうとした人なら知ってるよ。これは本当。


「ちょっと行き違いがあっただけで、今は互いに納得していますよ。だいたいそんな大けがをしていたら、もっと大問題になっているでしょう」

「ああ、仲違いをしたのは本当なんですね」

「まぁ、大事な人の名誉のためにそうしなければいけない時もあります」

「……大事な人?」


 なんで三人とも俺のことをじっと見た。

 あと、周りのやつらちょっと距離縮めたのわかってるからな。椅子を引いた音が四方から聞こえてくるんだよ。

 野次馬根性が酷いご令嬢たちだ。


「ルドックス先生関係ですね」

「そうですか、それは仕方ありませんね」


 マリヴェルが一瞬がっかりした顔してから、はっとなってうんうんと頷いた。

 思考の流れがめちゃくちゃ分かりやすい子だ。


 まだ再会もしてない時の話だし、そもそもしっかりと権力を握っている家の子供を馬鹿にする阿呆は流石にいない気がする。

 まぁ、万が一ベルとか殿下とかを馬鹿にするような輩がいたら、ちゃんと怒ってやるけどさ。


 イレインとヒューズとローズは勝手に何とかしろ。


 殿下に関しては俺よりもローズがぶちぎれて大怪獣化しそうだけど。


「さっきも聞きましたが、そっちは平和そうで何よりです。いつからベルと一緒にいるんです?」

「初日からですね。私が来るだろうと待っていてくれたそうです」

「ベルは……、いつ来たんです?」

「一番に来た」


 一番っていうと……、一応長期休みに入ってから数日で入寮できるはずだから……、3週間は前から来ていたってことか。


「早く会いたくて、毎日寮の前で待ってた」

「……ホントに毎日寮の前で待ってるんです。次はローズを待つって言ってて、それで段々とここの設備も拡充されてこんなことに」

「毎日、ですか?」

「そう、毎日です。ルーサーも来ていると知って、男子寮にも顔を出そうとしましたが、先輩方に止められていました。……だから、来るのが遅かったな、と」


 ああ、最初の一言はそういうわけだったのか。

 なんであんなに殊勝なことを言ってきたのかと思ったら、毎日健気に待っているマリヴェルのことを見ていられなかったんだな。

 ……とりあえずもっと早く顔出してやればよかった。


 いや、マリヴェルの家って普通に派閥とか関係ないくらいきちっとした侯爵家だから、絶対にもっとぎりぎりに来ると思ってたんだよな。来ているとしたら謀をするタイプのローズだとばかり思っていた。


「この、寮の前のテーブルセット類は元々なかったと?」

「あったみたいですよ。でも、もう少し古い物で、これほどの数はなかったそうです。先輩方お茶の時間を楽しんでいる間、ベルは毎日階段に腰かけて、私達の誰かが来るのを待っていたそうです。……先輩方がつい優しくしてしまう気持ちもわかります」


 うん、俺も分かる。

 うちのマリヴェルをお世話してくれてありがとう、先輩たち。


 そんな気持ちから周りを見て笑顔を作ると、数名から舌打ちをされた。

 ……淑女なのにマナーが悪くなくて? どういうこと?


「……浮気な男はあまり好かれないそうですね」

「はい?」


 危ない危ない、何言ってんだお前と、素で言い返しそうになった。

 イレインが意味もなくそんな束縛めいたことを言うはずがない。


「ベルはルーサーの姿を見たとき、分りやすくいい顔をしてました。ずっと待っていたんですものね?」


 うんうんとマリヴェルが頷くと、周りの先輩各位はお上品におほほと笑い、その波が過ぎると俺のことを冷たい視線で貫いてきた。

 ははぁん、分ったぞ。

 俺が一応イレインの許婚なのに、マリヴェルに不誠実な対応をするんじゃないかって警戒してるんだな。


 客観的に見たら、まぁ、気持ちはわからないでもない。

 でもさぁ、先輩方と違って俺たちはまだ13歳なんだよなぁ。

 まだ恋愛云々考えるような年齢じゃない。


 そりゃあ俺は中身がちょっと別物だから、恋とか愛とかについて考えることはあるよ。

 でも考えた上で、現状同い年の子とどうこうとはならないんだよな。

 俺、ミーシャだって年下の子だと思ってるんだぞ。

 13歳なんて、本当に子供じゃないか。


 マリヴェルだって懐いてくれてるけど、それは小さなころからの付き合いでしかない。

 多分いつかはいい男を見つけて俺の下から巣立っていくんじゃないのか?

 まぁ、そいつが許婚がいるのにマリヴェルに粉かけてるって知ったら、俺も諸先輩方と同じような目をして威嚇するかもしれないんだけど。


 そんなわけだから、心配は無用で、むしろそちらの陣営に混ぜてほしいぐらいだって話。


「私達の方はそれくらいです。そちらの話を聞かせてください」


 イレインから言われて、俺はどこから説明していけばいいか考える。

 どちらにせよ、もう少し声を落として、周りに聞かれないようには気を付けなければいけないけどな。

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