第35話 イレイン嬢とお勉強
「イレインってテレビドラマとかアニメとか見なかったの? 読唇術って唇の動きで何言ってるかわかるやつな。独身のまま生きる方法なんて誰が知りたいんだよ」
「見たことねぇよ。変なこと知ってんなぁ……。ってかめんどくせぇな、あのメイド何とかできねぇの?」
「ミーシャのことめんどくさいとか言うな」
うちのミーシャの何がわかる!
馬鹿にすると許さないよ、俺。
「……なんかすまん」
わかればよろしい。
「んで、良かったじゃん、怖い父親の元から離れられて」
「まぁな、兄貴も羽伸ばせていいんじゃねぇかな」
「羽伸ばせてるのか? 勉強で予定びっちりなんだろ?」
「あの父親に嫌み言われながらじゃないだけましだろ。昨日とかかなり表情明るかったしな」
「厳しい家だよなぁ……」
なんか暗い気持ちになってきた。
子供の時代は自由に過ごさせてほしいよなぁ。貴族となったらそうもいかないんだろうけど。
「イレインは神童っていわれてんでしょ? なんか得意なことあんの?」
「やることもねぇから兄貴と一緒に勉強聞いてたんだよな。んで、国の勢力関係とか、国内のバランスがーとか、戦略がどうとかーとか覚えた」
……俺にはわかんないやつだ。喋るのが早いとかちょっと勉強ができるとか、そういう感じじゃない才能ありそうだな。
「戦略の勉強ってさ、敵の駒を先生が動かして、それに対してこっちの駒をどんな風に動かすか、みたいなのやるんだよな。ゲームっぽくて面白いから見てたら、試しに動かしてみろっていわれてさー」
うわぁ、嫌な流れだなぁ。
「動かしたら褒められたのよ。雰囲気の悪い家の中で初めて褒められたら、調子乗るじゃん? 兄貴の顔とか気にする暇ねぇしさぁ……」
「……サフサール君が虐げられてるのってさぁ」
「言うなよ、俺だって責任感じてんだよ。でもどうしたらいいかわかんねぇじゃん」
「もうちょっと仲良くしてやれよ」
「嫌だろ、俺のせいで嫌な目に遭ってんのに。合わせる顏ねぇよ」
「あー、だからあんまりサフサール君のこと見ないんだ」
自分のことは棚上げだ。
俺なんか家庭崩壊させかけたけどね! 今はイレインとサフサール君の関係の話だもんね。
こっちにいる間に仲良くなれるように手伝ってやりてーなー。
「んなことより魔法の話しようぜ。俺あのあと結構練習したんだよ。向こうで先生つけてもらったんだけどさー、なーんか嫌な感じでさ。ルドックス先生元気?」
「こっちに来てからもちゃんと教わってる。明日くるから、明日な」
「よっしゃ、俺も魔法2発くらい撃てるようになったからな。褒めてくれっかなぁ」
「は? 俺の方がいっぱい撃てるし」
「……お前、独占欲強いタイプだろ、もてないぞ」
「……イレインはもてそうだよな」
横目で睨みつけて言うと、イレインもじろりと俺のことを睨む。
可愛い顔してるから怖くありませーん。お前は男にもてるんだよ!
「…………あほくせぇ。お前と喧嘩してもいいことねぇしやめた。なんかさー、学園でいい成績のこすと、王宮に勤める道とかもあるらしいんだよな。女は少ないらしいけど、0じゃないって。だから俺、勉強とか嫌いだけど真面目にやるつもりだぜ」
やる気があるのはいいけど、仕草がだんだん男っぽくなってきてんだよなぁ。ガッツポーズで拳握るのやめてよ。そろそろ怪しまれるからさぁ。イレイン嬢モードを抜けるとやたらと体の動きがでかいんだよな。
「はいはい、んじゃそろそろ普通に話すからな。あんまり内緒話ばっかりしてると怪しいし。……ところでお前さ、俺と別れたくないから家残るとか言っただろ?」
おい、無視して振り返るのやめろ。
そのせいでなんか、俺たちの関係めっちゃいい感じだと思われてんだからな!
イレインが加わったことで、勉強に軍略や政治の時間が加わった。午前中の空いた時間にウォーレン家が雇っている先生がきて教えてくれている。
体がムキムキなのに眼鏡をかけているその先生は、何かあるたびにくいっとそれを持ち上げて厭味ったらしくしゃべる。
よっぽどイレインが自慢の生徒なのか、わざわざ俺の回答の後にイレインに同じ質問をして、模範解答を聞かせてどや顔をしてくるのだ。端的にむかつく。
「ルーサー様の回答は悪くはありませんが、イレイン様のものはよりよいものであると言えましょう。ただしこれも最善であるかはわかりません。現実の戦闘ににおいて最善の一手というのは、結果が出てみるまで分からないのです」
くいっくいっ。眼鏡のつる折れろ。
妙に甲高い声をしたインテリマッチョは鼻の穴を膨らませて続ける。
でもたまに本当に役に立つことも教えてくれるから、真面目に聞く気はあるんだよ、俺も。
「状況は刻一刻と変わっていきます。盤上のように、用意された情報、知らされた情報がすべてとは限りません。途中で思考を放棄したりせず、かといって実行に躊躇することなく、考え続けることこそ肝要と心に留め置きください」
ちなみにこの先生、誰に対してもこんな感じの挑発的な態度らしい。
前線にいたらどさくさに紛れて後ろから刺されそうだ。だから能力があるのにこんなところで子供の先生をしてるのかもしれないなぁ。
「ルーサー様、わかりましたかな? ん?」
「……はい」
名前指定してくいくいしながら顔覗き込んでくるなよ、なんか腹立つなホントに。
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